第18話 捨て身の作戦(成功するとは思えない)

「まあ、きれいなお花!」


メリンダ嬢付きの侍女が言った。


「ジョナス様からのお花ですわね!」


カードが床にパタリと落ちた。贈り主の名前が見える。


「……違うわ」


「いつまでもしつこいわね。この花はルイス様からよ。お嬢様の部屋に飾るわけにはいかないわ」





ルイスは今、誰とも付き合っていなかった。


そして、彼は必死になって自分の身だしなみを研究していた。



女子店員が顔を赤らめる理由を、遅まきながら理解したのである。


正直、自分の容貌なんか、まるで関心なかった。


だが、女性に好まれるというなら話は別だ。その女性の中にメリンダも含まれている。


もう、突破口は氷の男しかない。沈黙を貫く。



なぜなら、ルイスは口を開けば間抜けな事しか言えないからだ。


メリンダは、ルイスの話を聞いてため息をついていた。


あのロザンナ嬢に至っては、ルイスに言葉を教えにかかった。


「まずは、おきれいですね、から始めましょうよ」


ロザンナ嬢はちっともおきれいではないと、危うく喉元まで出かかったが、これがいけないのだと気づけたのは、今にしてみれば大きな収穫だ。黙っておいてよかった。




女性にチヤホヤされたら、メリンダが怒るらしいことはわかった。


ジョナスとメリンダが一緒だと、ルイスはイライラする。同じ理屈らしい。



今は、メリンダはジョナスと付き合っている。


振り返ってもらうためには、言葉を伝えること、自分を磨くこと、他の女には一顧だに与えないで一筋であること。


最後のだけは簡単だった。


ただし、伝わっていない。



ロザンナ嬢と付き合って、ロザンナ嬢の目を通して、ルイスはいろんなことの意味を初めて理解した。


何がまずかったのか、どうすればいいのかを。




もう、こうなったら恥も外聞もない。


それでなくたって、貧乏公爵家のルイスは、裕福な婚約者に推し活に励み過ぎて嫌われて、お金目当てに彼女に取りすがり、それが失敗したと見るや、あっさりロザンナ嬢に乗り換えた節操のない男と言われている。



作戦第一弾は、取りすがりだったが、みごとに振られた。


第二弾はプレゼント作戦だったが、どうも、花束は捨てられたような気がする。

宝石などは贈るわけにはいかない。何しろ、父親の子爵はルイスの家の経済状態を熟知している。無理をすれば、堅実なメリンダ嬢のことだ、逆に嫌われるだろう。


第三弾は捨て身の作戦。


着飾り、愛を語る。




本人にこっそり愛を伝えればいいのだが、聞いてくれないので、不本意ながらモニカ嬢とナタリー嬢と、アランとアンドルーに愛を語った。


四人にすれば、大迷惑である。


「メリンダ嬢に、俺が彼女を大好きなんだと世界中に広めて欲しい」


「………………」


全員、そろって沈黙した。



世界中ってどこだ? 


メリンダ嬢に伝えたいのか、世界に伝えたいのかどっちだ?


「主に学園だ」


ルイスは大まじめだったが、残りの四人は撃沈した。


「世界とか、メリンダ嬢とか、紛らわしいこと言うな」


「止めておけ、ルイス。これ以上、恥をかかなくていいから」


ナタリーとモニカは発言しなかったが、何があってもルイスと付き合うのだけは止めるよう、メリンダに忠告しなくてはならないと心の底で決意を固めた。



アランとアンドルーは、忠告した。



「恥だと思うが」


「そこは承知だ」


「気持ち悪い気がするが」


「それもわかっている。しかし」


会ってくれないし、手紙は封がされたまま返って来た。



「花のプレゼントと手紙は継続する」


「しつこい男は嫌われると思うんだけど」


「自分磨きに賭ける」


モニカ嬢とナタリー嬢はあらためてルイスを見た。


ロザンナ嬢にいいようにあしらわれていたころと違って、地味な服に変わっていた。

しかしながら、女子二人は渋々ながらうなずいた。かっこいい。この方が似合う。


「ロザンナ嬢の趣味は、確かにイマイチだったものね。別な意味で似合っちゃいたけど。派手派手しくて毒々しかった」


「推し活的に言うと、ロザンナ嬢の気持ちはわかるが、自分としては本意でなかった」


ナタリー嬢とモニカ嬢は、一瞬黙った。


「推し活の話は、止めた方がいいと思います」


「メリンダ嬢は、慣れているから大丈夫だ」


人の忠告は聞きなさいよッ


「で、その噂に何の意味があるんだ?」


アンドルーが聞いた。ルイスがメリンダを愛してるんだー……とか言う、口に出すのもキモい噂の中身には、あえて触れなかった。



ルイスが顔を上げた。


「実はっ…このっ……この格好の方が似合うと思う」


「そりゃそうかも知れないが……」


「これから、俺はモテまくる」


「は?」


何を言っているんだろう。


「無理よ」


「顔とスタイルだけはいいんだ」


全員が押し黙った。


こんな告白は聞いたことがない。それになんだか腹が立つ。


当人が至って真面目なので、怒ったらいいのか、笑ったらいいのか悩ましい。



「普通、自分でイケメンだと思っている男ほど寒い存在はないわよ。釣れるのはロザンナ嬢くらいのものじゃないの?」


モニカ嬢が冷たく指摘した。


「まあ……ロザンナ嬢は来るでしょう。だけど、肝心のメリンダは乗ってこないと思うわよ? あなたの顔なんか熟知しているしね。イケメン気取りを始めたら、顔も見たくなくなると思う」


ナタリー嬢もたまりかねて注意した。


「わかっている。だから、周りを動かすんだ。気を抜かないで、がんばればロザンナ嬢とかがやって来る」


「ロザンナ嬢が目的なら、そんな凝ったマネしなくても……」


「ロザンナ嬢は要らない。メリンダだけなんだ。どんなにモテても、メリンダ嬢だけだ」


発想が推し活的な……なんと言うか、逆に回った感じ? 自分が推される側に回ったら?みたいな?


「婚約者のメリンダ嬢に、愛想をつかされたお前が?」


「こじれてなければ、こんなマネしなくて済んだ。だけど、今は何でもする気だ。学園の噴水で裸で水浴びしてもいい」


異常者だ。誰も喜ばない。……ここまで、おかしな例えしか思いつけない男が、モテ男になるなんて、どう考えても無理……。


「男前の無駄遣いと言うか……」


「恥の上塗り」


「せめて、ほかの活用方法はないの?」


「悪いことは言わん。もう、あきらめてあがくな。ほとんど病気だ。ジョナスに譲っとけ。メリンダ嬢がかわいそうだ」



「それが出来ればこんなことはやらない」




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ホムセン発みたいな、ダッサい服着た理系男子の覚醒

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