第14話 カワイイものの魅力がわからない

ガタガタと音を立てて、ルイスは椅子に座った。


目の前にはメリンダがすごく当惑した表情で座っていた。


「どうしてこんなところにきたの?」


「きっ、君がいるからだ」


どもった。失敗だ。


緊張しすぎて、うまく口が回らない。


「話がしたい」


メリンダが黙った。店員が注文を取りに来たからだ。


「ルイス、何にするの?」


思わぬ横槍に完全に勢いを削がれてルイスは黙った。


『恋人同士のベリータルト ホワイトスノーシュガーかけ』


『初恋のイチゴのシフォンケーキ フワッフワの生クリーム添え』


『森の恵み胡桃とアーモンドのタルト メープルシロップの香り』


・・・・・



「真ん中だけ読めばいいの」


たまりかねたメリンダが注意した。


「…………」


頭が回っていないルイスは黙り込んだが、そこは長年の婚約者、勝手に注文してくれた。彼の好きそうなものの見当がつくらしい。


そう言うところも好きだ。


「好きだ」


「何が? ブラウニーが?」


「違う。あのっ」


「あー、コーヒーの方がよかった?」


「ええと、好きなのはメリンダのこと」


ううう。なんて稚拙な……セリフを考えて紙に書き付けておけばよかった。


メリンダが黙ってしまった。


「好きなので、婚約者を止めないで欲しい」


言えた。


「じゃあ、私も聞いていい?」


「なんでも聞いてくれ」


勢い込んで答えたが、メリンダがジロリと底意地の悪そうな顔になった。


「どうしてロザモンド殿下の追っかけなんかしていたの?」


口がぽかんと空いてしまった。


「どうしてって……」


「私のことをほっぽり出して、どうして、他の女を追っかけていたのかって、聞いてるんですけど」


「ほ、他の女?」


「そうよ」


「他の女を追っかけたことはない」


「何言ってるの。親衛隊の会長のくせに」


「他の女ではない。王女殿下だ」


「話、通じないわねえ。女性に間違いはないでしょう?」


「だって、王子殿下なんか面白くないから」


「違うでしょう? 私がいるのに、どうして他の女性に惹かれたの?」


見るとメリンダの頬がちょっと赤くなってきている。怒っている時の顔だ。


「殿下は崇拝すべき存在で……」


「推し活の話は止めてちょうだい。興味ないから」


「ハイ……」


「で、どうして他の女性を追いかけ回していたの? 冬祭りもダンスパーティも断って」


この話はわかる。理解できる。


この間、ナタリーとモニカから叱られたばっかりだ。


「ごめん、メリンダ。悪かった」


「今更何よ」


「親衛隊の仕事が面白かったんで、夢中になってしまった」


「面白い? どんなふうに?」


「みんなが喜んでくれるから。それに、どう言うふうに統制したらいいかとか、何をどうやれば効果が出るとか」


「殿下はどうでもよかったの?」


ルイスは首を傾げた。


「だって、ロザモンド殿下は崇拝するのにふさわしかった。誰も納得したし。美しかったし、みんなでやって楽しかった。他の王族ではああはいかない」


メリンダはだんだん腑に落ちて行った。


なるほどね。


手紙がやたらに長かったのは、いつも演舞とかイベントの説明書きだった。ロザモンド殿下の話ではなかった。今、自分が熱中していることを書いてきただけなんだ。子どもか。


「私、子どもは嫌いなの」


ルイスはビックリしたらしい。聞き返した。


「結婚しても子どもを作るなと」



メリンダは頭を抱えた。ルイスのリアクションがひどい。ひどすぎる。


男が妙齢の女性に言う言葉ではない。更に悪化して、セクハラ案件に、今、ノミネートされてきた気がする。



しかも、よく考えたら婚約破棄の危機にあることを全く理解していないかのような発言。なんだか許せないわ。



「違います。頭が子どもの男は嫌いなの。あなたがやっていたことは、新しいおもちゃに夢中になって周りが見えなくなった子どもと一緒でしょう」


ルイスは目を見張った。



……なんてことだ。


なんだか当たっている。




「はい……。悪かった」


メリンダはえらい。何もかもお見通しだ。すごい。


「婚約者の私に甘えて、なんでもわかってもらえると誤解している男は嫌いなの」


嫌わないでほしい。ルイスは致命的な言葉を聞いてしまった。


「だから、今、ここに来た。ちゃんと好きだって伝えに。子爵にもアランにもアンドルーにも、それからあなたのお友達のお二方だけど……」


大男のルイスが怖そうに肩をすくめるのを見ると、つい笑い出しそうになった。


「大変叱られました」


ルイスは話を締めくくった。


「それから、ついでに言うけど、あなたに関しては、ちょっとだらしないというか、思うところもうまく言えないけど、他はどうにかなると思っている」


「他?」


メリンダは不審そうに聞いた。私たちの問題に、他って何かしら。


「だから、仕事だとか、経営だとか、そう言った面では、そこまで抜けていないと思っている。ただ、どうもメリンダ、あなただけは手に負いかねて……」


真面目に見つめる目は、困っているようで、他のことには一切気がついていない。


「あのね、ルイス、あなたはとてもモテると思うの」


えっ?と言う顔になった。


「他の女の人から、声をかけられても大丈夫かな?」


「大丈夫とは?」


「浮かれてついていったり」


「ないと思うよ。それよりメリンダの方が心配だ。ジョナスについていったのだもの」


「それは、あなたがダンスパーティのエスコートを断ったからです」


覚えていないのかッ


「もし断らなかったら一緒に行ってくれた?」


「え……」


「教えて……」


真剣な目はメリンダしか見ていなかった。

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