第13話 待ち伏せ、つきまとい、

「すごく怖い目にあったんだ」


力説するルイスにアンドルーは頭を抱えた。


「いや。子爵は優しいな」


「怖かった。メリンダがいなくなってしまう。それには耐えられない」


「なに、甘えてるんだ」


そうは言いつつも、アランは現実的なプランを出してきた。


「家を訪ねるのがダメなら、学園だな」




ルイスは学園で粘った。


メリンダが教室から出てくるまで、食堂から出てくるまで、家に帰ろうと馬車に乗り込むまでの距離に、とにかく居続けた。




「ねえ。なんなの。あれ」


ナタリーがおかしなモノでも見たように聞いた。


「ルイスよ」


メリンダはルイスと目を合わさないようにして答えた。


「ルイスはわかってるわよ。何しているのかしら?」


「私を追いかけてるのよ」


「あー。なんだ。断りなさいよ」


メリンダは答えなかった。あんまり近寄りたくない。なにか鬼気迫るものを感じる。




学園内では、噂になっていた。(当たり前だ)


ロザモンド殿下の推し活に夢中になりすぎたルイスが、裕福な婚約者に捨てられそうになって、綱渡り的に頑張っていると言う噂だった。


「なんでも、お金の問題さえなければこんな真似しなくてもいいのにって、言ってるそうよ?」


「まあ……そう言うわけなのね」


メリンダが頷いた。


「直接、追いかけないでと伝えるのは……言いにくいわ。父に頼んでみるわ」




ルイスは、今度はいら立った様子の子爵に呼ばれた。


「付きまといはやめてもらおうか」


「でも……」


「君は学業も武芸も優秀だ。爵位だってある。騎士でも文官でもなれるだろうし、出世も可能だろう。うちに頼らないでも、十分稼げると思うがね。それに差し当たって必要なお金に不足しているわけでもないだろう、私が見てやったんだから」


「でも、メリンダ嬢に誤解されたままなのが心苦しくて……」


子爵が目をむいた。


「誤解なんかしていないと思うよ。君がメリンダを好きじゃないって、ちゃんとわかっていると思う。そんなこと、わざわざ言われても娘は傷つくだけだ。すぐさま付きまといをやめないと、私にも考えがある」





「どうしてお前はそこまでそんなに不器用なんだ、メリンダ嬢に対してだけは」


「全くバカじゃないのか」


アランとアンドルーに相談を持ちかけたが、呆れられた。


「今度は俺たちの婚約者を、俺たちが説得した」


「え? あの女二人がくるの?」


ルイスがビビった。



「失礼なことを言うんじゃない。お嬢様方と言え」


「そんなんだから色々と誤解されるんだぞ?」


二人は口々に言った。


「いいか? これからメリンダ嬢がお茶をしにあそこの店に行く」


「お前もあの店に行くんだ。メリンダ嬢に会える。話ができる」


「モニカが教えてくれたんだ。感謝しろ」


メリンダがいると思っただけで、ルイスは気もそぞろになった。


「バカもの。ちゃんと気持ちを伝えるんだ。チャンスなんだぞ?」




その店は男子が一人で入るには度胸のいる、やたらにかわいい店だった。


「まるでモニカ嬢とナタリー嬢が作り上げたみたいな気にさせられる店だ」


ピンクの花柄の刺繍が施されたレースのカーテンや、そこここに置かれたウサギやクマのヌイグルミ、メニューの丸文字など、どこがいいのかルイスにはさっぱりだった。


自分が場違いだと痛感しながら、店の奥へ侵入を図った。


実際のところは、背が高くて無意味に美男の彼は女子店員の視線をかっさらっていた。


問題は、自分の良さにイマイチ、ルイスが鈍感な点だった。


もし、ルイスが自分がカッコよくて、女の子の視線を独り占めできるんだと言う事実に気がついていたら、アイドルにひれ伏す推し活なんかやらなかったかもしれない。


残念ながら、彼は、そこんところには気がついていなかった。

女の子たちに顔を見つめられても、自分の顔に何かついてるんじゃないかと思う方だった。


たまに男性に見つめられると、ケンカ売ってんのかに回るタイプである。



彼は小さくなりながら、教えられたテーブルに向かった。


舞台も彼のフィールドではなかったし、メリンダに会うのも久しぶり。


何を喋ったらいいのかもよくわからない。


だが、今回ばかりは、無駄にしてはいけない。


奥のテーブルにメリンダがいた。


ルイスはカッと目を見開いた。

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