第12話 みんなから叱られる
いきなり訪ねた子爵家では、子爵から叱責を受けた。
「なぜ、突然訪問するのかね?」
「なぜと言って……」
これまで優しかった子爵に叱られたのはショックだった。これまで、いつ訪問しても歓迎されてきた。なぜ、来たのだなどと聞かれたことがなかった。
「甘えたことを言ってもらっても困るね。私は知らなかったが、君はメリンダからの冬祭りの誘いやダンスパーティのエスコートの頼みなどはことごとく断ったそうだね」
「いえ、あの……」
ここで忙しかったからなどとは言えない。
「嫌なら断っていいんだ」
アランと同じことを言う。
「メリンダを気に入らないなら、そう言ってくれたらよかった。メリンダの結婚相手の候補は君だけじゃない。君だってそうだ。私は婚約者の家だと思って、これまで君の家の面倒を見てきたが、もうそろそろ自分でできる年頃だ。他に気に入った女性がいるなら、そちらを選べば良い」
「そんな人、誰もいません」
ルイスは泣きそうになった。
子爵家は彼の
親戚に当たると言うことより、メリンダの婚約者としてこれまで子爵には親代わりに散々世話になってきた。子爵夫人にも可愛がってもらってきた。
彼がどうにかこうにか暮らしていけたのも、子爵のおかげだった。よくわかっていた。それなのに……
「でもね、それとメリンダへの気持ちは別だと思うよ」
「子爵は、僕を見捨てるのですか?」
思わず、バカなことを言ってしまった。
「見捨てる? いや、君が見捨てたんだよ」
子爵は少し優しい口調になって言い添えた。
「他の女性を好ましいと思うのはあり得ることだ。別に悪いことじゃないだろう」
優しい言い方になったと言うことは、距離を置いたと言う意味なんじゃないだろうか。
「娘の婚約者と思って、これまで世話をさせてもらった。だが、婚約者を裏切ると言うなら、その覚悟で臨めばいいだけだ」
こんなに大きくなってから泣いたのは、何年ぶりだろう。
みんなみんな彼に冷たい。
「メリンダなんか大嫌いだ」
言ってみた。
声に出して言ってみて、その言葉の冷たさにゾッとした。
メリンダがいなくなったら……ジョナスに取られてしまったら?
冬祭りに行けばよかった。ロザモンド殿下への演舞をまとめ上げるのはとても大変で、でもやり甲斐があった。だけど、ちょっと抜け出して、メリンダを喜ばせることぐらいできたはずだ。気がつかなかった。自分はバカだ。
ダンスパーティだって、勝手に、自分が行けるようになったら、メリンダは合わせてくれるものだと思い込んでいた。
そんなことはない。断ったので、メリンダは一緒に行ってくれる人を探していたに違いない。
メリンダが困ってウロウロしているところを想像したら、自分で自分を殴りたくなった。
それから、メリンダが自分を嫌い始めていると気がついて、ゾッとした。
誰だって、そんなことをされたら、嫌われていると思うだろう。
自分はまだ、メリンダに何も言っていない。
なんだかはっきり言い表せない自分の気持ちを伝えていない。
いつもなんだか伝わっているような気がしていた。だって、婚約者なんだから。
「婚約なんか解消して構わないんだよ」
優しげな調子で言われたその言葉が、奈落のようだ。絶望に巻き込まれていく。
「メリンダ、俺はメリンダが大事だ。そばにいて欲しい。俺だけのそばにいてほしい」
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