第10話 許せない
「メリンダはどうなのよ、ルイスのこと」
ナタリーは問い詰めた。
メリンダは具合悪そうに赤くなっている。
「嫌いじゃないけど。だって、小さい頃から一緒だったのよ。そして小さい頃は、私を自分の婚約者だって自慢していたのだもの」
「ああ、それ、あるわねえ」
モニカが黒い巻き毛を振って言った。
「なんだか特別な人がいるって思うと、自慢したくなったり」
「へー、そんなものなんだ」
ナタリーには、小さい頃からの婚約者はいない。
まあ、大体、そんな子どもの頃から婚約者がいるほうが珍しい。
メリンダの場合は、父親の子爵が、親戚筋の公爵家の立て直しを引き受けたものの金銭的にメリットがなかったので、娘を嫁がせて元を取ろうみたいな変な話で、特に強制力がないような婚約だった。
他の親戚が口を出しにくいように、強い絆がある必要に迫られたと言うのが、一番真実に近いだろうか。
だが、ルイス本人もメリンダも、それから子爵夫人も、満足していたようで、誰からも苦情がないまま現在に至ってしまった。
「そんな小さい頃から、少し抜けていたのかしら。ルイス」
ナタリーがため息をついた。
メリンダはちょっと笑った。
確かにルイスはメリンダに関しては、ちょっと抜けている。
勝手に自分のものだと決めつけているようなところがあって、肝心のところが
大抵のことは許せるメリンダだったが、冬祭りとダンスパーティの件だけは許せなかった。
だからジョナスと一緒に出かけた。
「ジョナスはどうなのよ? もういっそ結婚したら?」
メリンダはまた答えなかった。
ジョナスは悪くない。顔も頭も如才ない振る舞いも。
正直、公爵家は重い。ジョナスの家で十分だ。そもそも金持ちだし。
だけど、気になるのはルイスの方だ。
二人の間には長い年月がある。
ルイスがメリンダを嫌いだと言うなら、それはそれでいい。
「それは、諦めがつくって意味よね。結局、嫌いになれないってことでしょう」
「そうねえ。私のこと、嫌いだって言うなら、ジョナスと結婚するわ」
メリンダがため息をつきながら答えた。
嫌われたのなら、仕方ないもの。
それに、あの仕打ちはない。
二人をよく知るナタリーは肩をすくめた。
「ルイスはバカよ。焦りまくっていたけど、今更、なんなの? 言われて初めて焦るなんて、もう遅いわ」
「そうね。私がみた感じ、残念ながら、ルイスは自分の気持ちに、大混乱になってたわ。だけど、婚約者に対する最低限の礼儀さえ尽くせないと言うなら、もう終わりね。そんな男、要らないわ」
モニカは、断言した。
「あら、薄情ね。ルイスはメリンダに捨てられたら、相当ダメージ受けそうだけど」
ナタリーが面白そうに笑った。
「でも、ナタリー、一事が万事そうよ。どんなに真剣だったとしても、行動に移せなかったら、伝わらないし、相手を傷つける結果になるのよ」
「ほんとにそうね」
自分が相手をどんなに大事に思っていたところで、伝わるものではない。
行動で、少なくとも言葉にしなくちゃダメだ。
「メリンダも、ルイスにちゃんと言いなさいよ。冬祭りとダンスパーティの件は許せなかったって」
一番許せないのは、ロザモンド王女の追っかけである。
趣味なのかもしれないが、問い詰めたい。
推し活を否定する気はさらさらない。それは自由だ。
問題は、そのために全部メリンダ嬢が丸ごと軽視された、否、無視されたことだ。
「あの趣味は許せないわ」
メリンダがつぶやいた。
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