第8話 女友達、懇切丁寧に説明する

アランとアンドルーの二人は、青くなっていた。


なんだか、話の方向性が怖い。命懸けの話になっている。



「ロザモンド殿下に生涯忠誠を誓って、形ばかりの妻を置くことで、生涯、実質独身を貫かれるそうですね。ロザモンド殿下の幸せのために命をも捨てるおつもりだと」


「え?」


妻って、一緒にいるものじゃないの? 


命を捨てるって、なんの話?


「いやですわ。ロザモンド殿下とメリンダ嬢なら、殿下の方がルイス様にとっては至高の存在なのでございましょう?」


「う……あの、それは、少し観点がずれて居るのではないかと」


「とにかく、一番大事なのは、ロザモンド殿下でございましょう?」


なにか違う……とルイスは思ったが、うまく言い返せない。


メリンダのことを至高の存在などと考えたことがなかった。ロザモンド殿下とは別次元の存在だ。


「メリンダは、夫を愛し、大事にされたいのです。優しくしたいし、優しくされたい。一緒にいたい。だけど、あなたはお断りだそうで」


「そんなつもりはない」


ルイスは急いで言った。


幼い頃は一緒になってコロコロ遊んだ。


だけど、女の子だと言うことを片時だって忘れたわけではなくて、かわいいメリンダと一緒に居られると思うと、とても楽しかった。特別な何かだった。


「ジョナス様が、代わりに名乗り出られたそうです。よかったですね。ジョナス様に感謝して、ぜひ応援してあげてくださいまし」


スッと血の気が引いた気がした。


「これからはジョナス様がメリンダを守ってくださるでしょう。あなたは無慈悲にも突き放していらしたけど、でも、メリンダにはそう言う殿方が必要ですの。手を繋いだり、一緒に出歩いたり」


「いや、俺は!」


メリンダは欲しがっていたのか? だったら、いくらでも……手を繋いで欲しかったの? それなら、嬉しい。嬉しいのに?


「私からも、お祝い申し上げますわ、ルイス様」


にっこり笑って、モニカ嬢も参戦してきた。


「メリンダから開放されて、ルイス様が喜んでおられたとメリンダに伝えておきますね」


「いやっ、そんなっ……喜んでなんかいない!」


ルイスは叫んだ。


「あら。冬祭りもダンスパーティのエスコートもお断りになりましたわよね」


「そ、それは……忙しかったから」


「いつでも忙しいのですよね」


「本当にかわいそうなメリンダ。愛がなくても、せめて婚約者らしい扱いを受けられればよかったのに……」


「俺はこれから!」


「これからなんか、ありませんわ。ご安心下さい。ジョナス様が全部これからは代わりを務めてくださるそうです。ダンスもしなくて済みます」


違う。俺の目の前でっさらいやがって。殴りに行きたいくらいだと思っているのに。


「あのー、もうそれくらいにしてやれば?」


遠慮がちにアランとアンドルーが提案してきた。


女二人の目付きが、たちまち厳しくなった。


アランとアンドルーは、余計なひと言を言ったことに気がつき、後悔した。


主犯はルイスである。自分達は傍観者を決め込んだ方がよさそうだ。


「それくらいにしてやればとはどういう意味です。私たちは事実を告げにきただけ。それに……」


ナタリー嬢は、ルイスの顔をチラリとみた。ルイスは震え上がった。ナタリー嬢、怖い。


「ルイス様。あなたはメリンダをちっとも愛していない」


「そんなことは……」


「どうでもいいなら、自由にしてあげてくださいな。あなたといると不幸になると思います」


何かズキリとした。


「ロザモンド殿下も、そんな人間には仕えてほしくないと思います」


「いやだから、俺は平穏な婚約生活を……」


「形だけの妻なら、養老院か孤児院から都合して差し上げますわ。ロザモンド殿下に真心を捧げるおつもりでしょう?」


「どんな生活でも、ご存分に。ただし、メリンダ嬢は関係なしでお願いしますわ」

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