第179話 結構なチートなのでは?
敷地内での物作りはうまく行っている。
建築チームはとうとうコンクリート造の建物に着手する事になり、素材を採りに洞窟ダンジョンへ行くという。
……ダンジョンに、コンクリートの素材があるの?
何でも、砂と礫代わりの魔物の骨、それから海階層の海水を汲んでくるのだとか。古代コンクリートでも作る気?
石灰に関してはゼプタクスの街でも買えるので、薬屋経営の二人のどちらかに運んでもらうそうだ。
ギルドを経由すると、手数料とか取られそうだものな。いや、それが当たり前なんだけど。
身内が買って運んでくれば、その辺りがいらないというだけで。
エステチームは最近、リンジェイラさんとセシンエキアさん、リレアさんを練習台に使い出したらしい。
おかげで三人の髪も肌もつやつやだ。私もいつ美容関連の商売を始めるのかと詰め寄られる事がなくなり、安心してログハウスの外に出られる。
現在、エステに関しては人形達専用の離れの一室を使って行っている。この離れもログハウスと同じ仕様らしく、私の許可がないと外部の人間は入れない。
邪魔が入らないので、思う存分練習出来るという訳だ。そして三人は日に日に綺麗になるので機嫌がいい。何というWin-Win。
これでしばらくは平穏に過ごせると思っていたのに。
「ツアー客が、私を見て何をやったのかと詰め寄ってきまして……」
「話したんですか?」
私の問いに、リレアさんが無言で頷く。まあ、三人を練習台にする事を許可した時点で、こうなる事は目に見えていたから、いいんだが。
「問い合わせがあったら、一年から一年半後をめどに、開業の予定ですと言っておいてください。伸びるかもしれませんとも」
「そうなんですか!?」
私の返答に、リレアさんがびっくりしている。そこ、驚くところか?
「その……アカリさんが何かやらかす時は、もの凄く早いから……」
「やらかす!?」
「あ、いえ、何か始める時、ですね!」
焦って言い換えても、前の発言は取り消しになりませんよ。
「と、ともかく一年半後をめどに、と奥様方には伝えておきます!」
そう叫ぶと、リレアさんはギルド支店のテントへと走って逃げた。別に、何かする事はないから、逃げなくてもいいのに。
エステ開店の準備期間を長目に取ったのは、そのくらい経てば建築チームが大きな建物でも建てられるようになると思ったから。
これからコンクリート造の建物を建てる練習をするのだから、最悪一年半くらいの時間を見ておいてもいいだろう。
長く掛かると言われていたのに、実際はそれより早く開店するのなら誰も文句は言わないだろう。
最悪、本当に一年半後に開店してもいいんだし。
ともかく、建築チームには頑張ってもらおう。人員補充が必要なら、いつでも言ってもらっていいし。
最近、眠り姫チームも半分が洞窟ダンジョンに入っているらしい。こちらはさすがにセレーナが引率をしているけれど。
彼女達のお目当ては金。アンデッド層で出る宝箱の中には、古い金貨が入っている事がある。これを狙って行くのだとか。
あれか、彫金の材料か。他にも、古い金細工が出ると、それを潰して彫金の材料にするらしい。
うちの子達って、たくましいな。
そんな平穏な日常を過ごしている私の元に、ある夜セレーナがお願いをしてきた。
「マスターにお願いがあります」
「何? 改まって」
「こことは別の、少し離れたダンジョンに行きたいのです」
何だって?
セレーナ曰く、眠り姫チームが宝石の原石を欲しがっているんだとか。
「ですが、ホーイン密林でも洞窟ダンジョンでも、宝石の原石を掘れる場所はありません」
「そうなんだ」
まあ、普通に考えたらダンジョンから宝石が出ましたーって、おかしな話……でもないのか。
ダンジョンから古い金貨やアクセサリーが出てくるくらいだ。宝石の原石が掘れる場所があったって、不思議はない。地質的にはおかしい気がするけれど。
「でも、そんなダンジョン、あるの?」
「それについては、ネーラが聞き込んできてくれました」
セレーナの背後には、隠れるようにネーラが立っている。彼女のさらに後ろに、眠り姫シリーズのまとめ役をやっているレオニーも立っていた。
「リレアさんから聞き込んだところ、ホーイン密林から見て北西に、ヤンセア洞窟という鉱物資源が豊富に取れるダンジョンがあるそうです」
ここから北西っていうと、今アガタ達を派遣しているダデシデインの谷より北にあるダンジョンって事か。
「鉱物資源っていうと、鉱石系?」
「はい。鉄や銅が主に算出するそうですが、下層に行けば銀や金、宝石の原石も手に入るそうです」
凄いな、金のなる木じゃないか。いや、金のなる洞窟?
しかもダンジョンだから、いくら掘っても時間が経つとリポップする。つまり、資源が枯渇しない。
「そんなダンジョンなら、人が多く押しかけているんじゃない? 掘れるかな」
「それが、銀が出る階層ですら、魔物が強すぎて人があまり入らないそうです。鉄と銅を狙う者達ばかりで、浅い階層は人気が高いようですよ」
なんと。そんな事情があるのか。
「皆は、その強い魔物に勝てる?」
「問題ありません。ヤンセアの魔物は総じて魔法に弱く、我々なら一撃で狩れます」
「そ……そうなんだ……」
うちの子達、いつの間にそんなに強くなってたの?
ネーラが聞き込んできたリレアさん情報によると、魔法でなら簡単に倒せるとはいえ、階位的に三以上の魔法が使えないと厳しいらしい。
そういえば、リンジェイラさんでも三階位の魔法は使えないんじゃなかったっけ。
うちはお買い物アプリで金を出せば楽に買えるけれど、本来は魔法を覚えるのって凄く難しい事のようだしな。
「リレアさんとしては、ヤンセアで宝石の原石を採掘した際、少しギルドの方にも卸してもらいたい、との事です」
「相変わらすちゃっかりしてんな、あの人」
とはいえ、今回は情報料として、少しなら貢献してもいいかも。うちの子達も行きたがってるみたいだし。
「いつまでも古金貨を鋳つぶして新しいのを作るより、鉱石から金を抽出して彫金する方がいいでしょ」
何に対してと言えば、私の精神衛生上と答える。古いものを壊すのも、ありではあるけれど、金貨はそのまま置いておくか、コレクターに売った方が高値が付く事があるから。
それに、やはり素材は一から自らの手で入手してこそ。
「よし、許可します」
「ありがとうございます」
「ついでに、アダルジーザ達も一緒に行きます」
アダルジーザっていうと、建築チームのリーダーじゃない。
「何で?」
「ヤンセアでは、石灰石も採掘出来るんです」
ああ、コンクリートの材料。何でも、ヤンセア洞窟の一階では、この石灰がいくらでも採取可能なんだとか。
それをゼプタクスに運んで売ってる訳か。なら、ヤンセア洞窟の一階で採掘すると、買う手間が省ける……と。
「わかった。何人で行くか、いつ行くかは君達で決めて、行ってきていいよ」
「ありがとうございます」
いやいや、採掘してきたものを使って作ったアクセサリーなどは、委託販売を通じて売りに出すし。その売り上げは、私のチャージになるのだから。
反対なんか、しませんて。
セレーナ達は簡単な準備をして、私の許可を得た三日後にヤンセア洞窟目指して出発した。
何か足りないものがあったとしても、簡単に戻ってこられるし、一度行った場所なら移動で戻れるから心配ない。
……今更だけど、うちの子達って結構なチートなのでは?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます