第180話 いるの!?
ヤンセア洞窟行きを許可してから十日。セレーナ率いる採掘参加組が帰ってきた。
「ただいま戻りました」
「お帰り。全員、無事に戻ったようだね。よかった」
大丈夫とわかっていても、やっぱり確認するまでは心配する。
翌日は、休む事なく作業に入ったらしい。
「休日にしてもいいのに」
「あれが、本人達がやりたい事ですから」
人形用の拡張敷地であちこちから聞こえてくる作業音を聞きながらぼやいたら、隣にいたルチアに笑われた。
本人達の希望なら、仕方ないのかもしれないけどさあ。
「あの子達は、自分達が作ったものに値段が付くのが楽しいのですよ。ですから、マスターには出来上がったものを、随時委託販売に出していただきたいのです」
「それくらいはやるよ」
にしても、アクセサリーや糸、布、焼き物やガラスまでは理解出来るけれど、建物まで委託販売出来る意味がわからない。
一体、誰がどこでどんな風に買っているのか。そして、使い道はどうなのか。知りたいような知りたくないような。
気がついたら、ログハウスにあるスリッパが、どれも履き心地のいい品に入れ替えられていた。
気付けば、寝具の手触りが違う。普段着ている服の数が増え、デザインもこちら風で落ち着いたものばかり。
毎食出してくれる料理が乗る皿や、ダイニングテーブルの上に飾られている花瓶や玄関に置かれている飾りなども、ガラスで見事に作られたもの。
これ、もしかしなくても全部、うちの子達が作ったんだよね?
「凄いな」
「どうかなさいましたか? マスター」
「ううん、なんでもない」
ほんのちょっとの事かもしれないけれど、生活の質が向上するのって、こういう事なのかも。
さすがに、下着まで全て入れ替わっていた時にはどうしようかと思ったけれど。付け心地がいいから、いいや。
人形達が熟練度を稼ぎ、金銭……というかチャージも稼いでくれる今、私がやる事って何だろうね?
もうこのまま、うちの子達が頑張ってくれるのをのんびり眺めているだけでいいような気がしてきた。
きっと、少女女神もそれでいいって言うよ、きっと。
「と思ったのに、スマホが震えている」
『いい訳なかろう! そなた、最近手を抜いてはおらぬか!?』
抜いてるね。てか、ガツガツやる必要をあまり感じない。
『ムキー! そなたが稼がねば、わらわの力が回復せんのじゃぞ!』
「えー? それも、うちの子達が稼ぐ事でどうにか出来るようにならない?」
『ならんわ!!』
ちぇー。
仕方ないので、敷地の冒険者からのぼったくり以外にも、作ったアイテムを委託販売して見知らぬ誰かからぼったくろう。
作るのは魔法の鞄。どうやら、まだまだ品薄らしく、委託販売に出すと飛ぶように売れる。
素材はルチアとセレーナが狩ってきてくれるし、困る事はない。
はて、何か忘れているような気がするのだが。
「まあいっか。思い出さないって事は、その程度って事だよ」
ちょっと平和呆け通り越して、色々ネジが緩みきってるとは思う。でも、敷地にいる限り、安心安全だしな。
そんな慢心が悪かったのか、特大級の災いがやってきた。
それは朝、寝ているところをスマホで起こされた事から始まる。常にない時間帯に、常にないアラート音でたたき起こされたのだ。
「何!? 何事!? あ、スマホ?」
画面には、敵襲来の文字。敵?
寝起きで回らない頭のまま一階に下りると、ルチアとセレーナが難しい顔で待っていた。
「おはようございます、マスター」
「敵の襲来です。備えてください」
二人も、敵という言葉を使っている。
「敵って、誰?」
私の言葉に答えるように、スマホが震えた。
「少女女神?」
『奴がきた!』
「奴? ……誰?」
『邪神に唆され、わらわから搾り取った力でぱわーあっぷをした奴じゃ!!』
また微妙にイントネーションが違う言葉を……って、今何て?
『覚えておるじゃろうが! あの白い空間で、わらわから搾り取った力を手にして、この世界に踏み入った奴らの事を! あの中でも、最強最悪な奴をここに送り込んだのじゃ!!』
もしかしなくても、あのガチャガチャを蹴っていた人? でも、何でここに?
『邪神が神託を下したのじゃ。ここに来てそなたを殺せば、更なる力を手に入れられるとな!』
え?
敵は、既にホーイン密林に入っているという。
「ど、どどどどどうしよう!?」
『落ち着け! 最悪、そなたは洞窟の方へ逃げるのじゃ!』
「でも、そうしたらこの敷地は……」
『奴の手に落ちるやもしれんの』
そんな! せっかくここまでにしたのに!
『気持ちはわかるが、今はそなたの命が最優先じゃ。おそらく、この世界で奴に敵うものはおるまい。腐っても、邪神の加護を得ているからの』
誰も敵わない、最強最悪な敵が来る。敷地は、そいつに取られるだろうって……
そんなの! 許せるか!!
「少女女神! 防衛する手立てはない!?」
『おお? まさかそなた、奴と相対するつもりか!? やめておけ! 今のそなたでは無理じゃ!』
「でも!」
『ルヴンシール、ちょっと貸せ。アカリ! 聞こえてっか!?』
「ペヴィチュダ様!?」
いつかのフォリアペエル様のように、今回の通話はペヴィチュダ様が乱入してきたらしい。
『あいつと対戦すんのは、やめとけ。ルヴンシールが言うように、今のお前じゃ勝てねえ。今は逃げろ!』
「敷地とここにいる人達を置いて逃げるのは嫌だ!」
『大丈夫だ。敷地ごと逃げる策をくれてやる。今すぐ、あぷりを開いてみな!』
ええ? 通話しながらアプリって……あ、タブレット!
普段は部屋で電書を読む時にしか使わないから、タブレットは私室に置きっぱなしだ。
慌てて二階に駆け上がり、ベッド脇のタブレットを起動する。
「アプリアプリ……」
『スキルの欄に、新しいスキルが入ってっから、全部買え! 金が足りなかったら、後払いでもいい!』
スキル……あった。のはいいけれど、何だこれ。
「敷地スキル? それと、環境スキル? それから……」
『おい! 時間がねえぞ!』
しまった。のんびりしてる暇はない。慌てて全てのスキルをカートに入れてポチる。
この後インストールを……って、これ自動でインストールしてる?
『よし、使えるようになったな。じゃ、次は画面に新しいあぷりがあるな? それを使え! 後は画面に従えばいい。じゃあな!』
「あ、ありがとうございました!」
画面に新しいアプリ……あ、あった。総合アプリ? ともかく、これをタップか……
「んん?」
アプリのトップ画面に、いきなりアラート。
「敷地が危機に瀕しています。防衛しますか? 逃亡しますか?」
しかも、聞いているようで防衛の方のタップはグレーになってる。つまり、使えない。
なら、逃亡する以外にないでしょ!
「逃げるのはしゃくだけど、命あっての物種だ!」
逃げるをタップした途端、意識が途切れた。
どれくらい寝ていたのか、気がついたら、ルチアとセレーナが心配そうにこちらを見下ろしていた。
「マスター! お目覚めになられたんですね!」
「床に倒れられていて、心配しました!」
床に倒れていたという割には、ベッドにちゃんと寝て……ああ、二人が寝かせてくれたのか。
起き上がると、何だかフラフラする。ルチアが支えてくれるので、何とかベッドから下りられた。
「私、どれくらい寝てた?」
「丸二日です」
「二日!?」
そんなに!? どうしてそんな……あ!
「敵は!? どうなったの!?」
「敵は去りました」
「脅威は去ったのです、マスター」
最強最悪の敵は去った。でも、どうして?
「どうして去ったの? てか、逃げるってどういう結果になったんだ?」
「マスター。外をご覧下さい」
外? まだふらつくけれど、ルチアとセレーナが支えてくれて、窓際に行く。
そこから見えた景色は……
「はあ!?」
何で、アンデッド層にいるの!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます