第176話 こんなに疲れるとは

 言うだけ言って通話を切った少女女神。


「まだ、やるって言ってないのに」


 大体、空を飛ぶってどうやるんだよ。まずはその術式を作ってからじゃないのかね?


「てか、このタイミングでまたピロリンとか」


 鳴るスマホの画面を見ると、ペヴィチュダ様からのメール。


『よっす。いやあ、ルヴンシールが悪いな。でもあいつ、空飛ぶ絨毯? とやらを、すっげえ楽しみにしてるんだよ。ここはいっちょ、作ってやっちゃくんねえかな? 術式開発に関しては、俺等も手を貸すからよ』


 手を貸すと言われてもな。何をどうやればいいのかすら、まったくわからないんですが。


 手がかりも何もないのに、一から術式構築しろとか、言わないよね?


『それに関しちゃ心配すんな! 後でいいもん仕入れておいてやるからよ!』


 あれ? これ、本当に開発からやれって事か? マジで?




 とはいえ、私にはやる事が多いのだ。魔法全般に関しては、ルチア達を筆頭に狩りをする子達に頑張ってもらっている。


 スキルに関しては、担当を決めているので、そちらで色々と動いてもらった。


 アカネ達のエステに関しては、まず私が実験台になっている。いやあ、凄いね!


 正直、温泉があるからそこまで必要じゃないかもと思っていたんだけれど、甘かった。あれは別物だ。


 お肌がつるんとして、体も更に軽くなった感じ。髪もつやつやだし、薄化粧を毎朝してくれるので、気分が上がる。


 ネイルも、ケアからマニキュアからペディキュアまで、もう本当に全身くまなく綺麗にしてもらった。


 何だろう。女王様気分?


 で、そんな状態で敷地内とはいえ歩くと、人目に付く。具体的には、リンジェイラさんとリレアさん。




「アカリさん! 一体何を使ったんですか!?」

「その肌、髪、温泉だけじゃないわよね? 私だって毎日入ってるんだから、誤魔化そうったって、そうはいかないわよ!?」


 二人の圧が怖い。今日はたまたま、ログハウスの外に出て、敷地の広がり具合を確認していただけなのに。


「ええと、実は新しい子達に、美容を覚えてもらいまして――」

「美容!?」


 二人共、食い気味です。しかも、目が血走っている。怖い。


「そ、その美容というのは、新しい商売として展開するという事でよろしいんですよね!?」

「アカリ、私とあなたの仲よね? 一足先に体験させて――」

「ちょっと! ずるいわよ!! アカリさん! それを言うなら、私だってそれなりの期間、関わってきましたよね? 便宜だって図りましたよね!?」

「ああら、ギルドは相変わらずやらかしてるって、セシから聞いてるわよお? アカリに負担を掛けるような事をする組織、信用なんて出来ないわよねえ?」

「ちょっと! 何を言ってるのよ!? 大体――」


 目の前で、女子二人が言い争い。私、帰っていいですか?




 結局、二人の圧に負けて、近々アカネ達の実験台に、二人もなる事が決まった。


 ちゃんと、まだアカネ達の腕が未熟な事、経験を積む為の実験台なので、望んだ結果が得られない可能性もある事などを伝えておく。


 さて、アカネ達のエステと美容の場所、どうしようね?


「やはりここは、専用の離れを作るべきかな」


 建築のスキルもあるんだっけ。人形を増やして、まずはこっちのスキルを取らせて、建物を作れるようにした方がいいかな。


 離れを買うより、安上がりかも。おっと、本音が。


 それに、彫金もやらなきゃだし、何より少女女神からのオーダーがある。


 そういえば、ペヴィチュダ様がお買い物アプリに何か入れたとか、言ってたっけ。まだ確認してなかったな。


「お買い物アプリ、お買い物アプリと……ん?」


 スキルの欄にNEWマーク。それはいい。そこにあったのは「魔法開発」という名。


 え……まさか、このスキルを買って、新しい魔法を開発しろと? まんまなんだが?


 一応説明文を読んでみた。


『独自の魔法を開発するあなたの為の、スキルです。これさえあれば、面倒な実験や計算などが不要になります。あなたがやるべき事は、目標を定め、必要な魔力を注入するだけ。それでは、素敵な開発ライフをお楽しみください』


 随分といい加減だな。でも、これを使えば新しい魔法も簡単に開発出来るってか?


 ……いや、だったら神様が作ればいいだけでは? よもや、私に押しつけた?


「あいた!」


 金だらいが! そういえば、これも潰して何か別のものに作り替えるんだった。


 まだラケル達が必要な熟練度を稼いでいないので、先送りになってるけれど。


 人形達含め、やる事が多いな。




 ログハウスから出なければ、リレアさんにもリンジェイラさんにもエンカウントしない。


 なので、安心して引きこもり、人形を作っていた。今回は、建築が出来る子達を優先に。彫金は、また後かな。


 建築っていうと、さすがに女子ではなく男性のイメージだな。でも、ここまで来て男性型を作るのもな。


 何となく、ここまで来たら全て女子で固めてみようと思うのだが。こういうところが、モテない女のモテない女たる所以なのかも。


「いーんだ。けっ」


 おっと、口が悪くなった。


 建築系も、技術だからドワーフモチーフな気がするが、ここは大柄な女子を作りたい。


 単純に、建築系って重いものも運ぶから、がたいのいい子の方がいいのではないかと。


 がたいがいい女性。……アマゾネス? 何故そこにイメージが行き着くのかは謎だけど。


 でも、アマゾネスだとギリシャ神話か? それだと、ギリシャ語の名前の方がいいのかな。


 ともかく、身長高め、骨太女子を作るのだ。




 髪は黒髪。瞳は碧。肌は褐色、顔立ちも彫り深めで。イメージを固めていくと、何だか凄いごつい姐さんタイプになりそうだ。


 人形の中では、若い部類に入るのに。


 うちの子達は、作られた順番に姉妹と呼び交わしている。そこにこちらは口を差し挟まない。


 という事は、筋骨隆々な姐さん達が、ラケル達小柄な子達を「姉様」とか呼ぶのか。それはそれで面白いかも。


 それはともかく、身長は全員百七十越え。百八十くらいあってもいいかも。バレーの選手かね。


 バレー選手よりは、肩幅が広く、全体的にがっしりした感じにする。筋肉量も、今までの子よりも多くしないと。


 大きめだからか、今までの子より素材の量が多い。骨の素材も、一人で一人と半分くらいの量を使ってる。


 その分、骨格からもわかるくらい、強そうだ。いや、狩りに出す為に作るんじゃないんだけど。


 足りない素材はないかを確認。あ、瞳に使うクラゲが増えてる。四十体分くらいあるから、今回は間に合うな。


 一挙に二十体、アマゾネスを作る。オークの革は先に褐色に染めておく。瞳の色を染めて……この子達に、記録媒体は必要か? 基本、敷地内での建築作業だけなんだが。


 ……万が一という事がある。備えあれば憂いなし、だ。という訳で、アマゾネス達の目にもカメラを仕込み、記録媒体となる巨大魔石を頭部に仕込む。


 全てのパーツを取り付けたら、最後にオークの革で包んで整形。後は髪や眉毛、まつげなどを整える。


 人形なので、産毛とかはなしでもいい。あ、爪はきちんと調えておかなきゃ。


 爪に関しては、アカネ達に貝殻から削り出してもらうのもいいかも。彼女達のネイルに関する熟練度が上がる……かも?


 人の爪でなくとも、スキルを使って調えるのなら「あり」なのでは? この辺りは、後でアカネ達に相談しておこう。




 出来上がったアマゾネス……じゃなくて、建築部隊はなかなか勇壮だ。


「ええと、名前は……」


 前に決めていた、ぐるっと戻って頭文字A揃いの名前にする。


「アダルジーザ、アデーレ、アデリーナ、アドナ、アドリアーナ、アネッラ、アネーゼ、アルビーナ、アレッサ、アレッサンドラ、アレッタ、アリーチェ、アルマ、アマーリア、アンブラ、アナスタージア、アンジェラ、アンジェリカ、アンジェリーナ、アンナリーザ」


 これで二十体分、あるはず。名付けだけでこんなに疲れるとは。

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