第175話 何を言い出すのかな、この少女女神は
新しいスキル「履き物作成」を使い、試しにスリッパを作ってみる。ログハウス、日本風の建物だから、玄関と三和土があって、靴を脱ぐのだよ。
スリッパの材料。中に植物の綿、外側は布地、裏は魔物の革。シンプルだな。
まず素材をスキルで浮かぶ型紙通りに切り取り、綿を用意する。この綿、紡ぐと普通に糸になるもの。
靴の中敷きとかに使ってもいいらしく、へたりにくく地面から来る衝撃を受け止め、足を護るらしい。
スリッパは室内で履くものだから、衝撃云々はないけれど。
切り抜いた材料を、スキルで縫い合わせていく。糸は綿からその場で紡いだ。これ、糸紡ぎのスキルを持っているからこそ出来る技だそう。
スキルって、たくさん買ってインストールしておくと、スキル同士で連携出来るんだな。
お試しのスリッパは、さくっと出来上がった。シンプルだけど、なかなかいい出来である。
今日から、室内で履くのはこっちにしようかな。
履き物や糸紡ぎ、機織り、裁縫を専門とする人形達も作らないと。今度はどんな感じがいいかなあ。
糸紡ぎというと、眠れる森の美女を思い出す。なら、全員美人で……といっても、人形で美人じゃない子を作った事はない。
人形は顔が命って、近所のおばちゃんが言ってたから。
眠れる森の美女、絵本やアニメだと金髪碧眼のいかにもって感じのお姫様だよな。美しさを保証されたお姫様なんだから、当たり前なんだろうけれど。
なら、今回作る子達は金髪碧眼で、確か錘に刺されたお姫様が眠るのは十六歳の時だったはず。なので、見た目は十六歳くらいに。
といっても、日本人が考える十六歳と欧米の十六歳って開きがあるよな。
……ここは、日本準拠で。
まだ作業には入れないけれど、考えをまとめておくのはいい事だ。
今考えている眠り姫シリーズが出来上がったら、糸から布を作り、それらを使った仕立てと、素材あれこれの履き物が作れる。
服と靴。両方揃えばもう身につけるものを買う必要、なくなるんじゃね?
後はアクセサリーとか……彫金? あ、ガラスでもアクセは作れる――
「って、どうしてここで震えるかな? スマホよ。はい」
『装飾品の神が甦ったのじゃ!! それと、建築の神もじゃ!』
装飾品って、また幅が広いなあ。つか、建築って、木工の範囲じゃないんだ。
『装飾品に関しては、基本は彫金だったのじゃが、その後素材が増えたからのう。これからは、魔石の扱いも変わると思えよ?』
「魔石? 何で?」
『何でって。魔石も装飾品に組み込めるからじゃ!』
そうなの!?
『そうじゃとも。それと、建築の方は木造だけでなく、他の素材でも建物を作れるようになるぞ。石材や……こ、こんりくと?』
何だそれ? ……あ。
「もしかして、コンクリート?」
『そう! それじゃ! それに近いものを使って建物を作れると言っておったぞ』
つか、建物を作ろうかなんて話、ほんのちょっと前に思いついただけなのに。
それを言ったら、アクセサリーもか。
どうやら、土台の金細工や銀細工を司っていた神様は、その後宝石や魔石も司るようになったらしい。
でも待って。宝石って、確かマレサール様が司ってなかった?
と思ったら、スマホがピロリン。あ、フォリアペエル様からのメールだ。
『はあい。相変わらずマレサールがグズグズしているから、私が代わりに答えるわね。宝石の扱いなんだけど、原石だとマレサールで、カットを施すと今回目覚めた奴、ケウフェグインドが司るの』
ああ、なるほど。ものは同じでも、形が変われば別物扱いになるんだ。
『ちなみに、金や銀も、鉱石やインゴットの姿だとゴネイドが司るけれど、彫金したものはケウフェグインドが司るのよー』
神様の世界、割と面倒臭いんだな。
ともかく、彫金を考えただけで神様が目覚めたらしい。最近、ちょっとチョロくないか?
「うお!」
金だらい! 油断してた……くそう、これも潰して何かに作り替えようかな。
『不敬じゃぞおおおお!』
おい。まだスマホを見てもいないのに、どうして繋がってるんだよ!?
『ふふん、そこはわらわの力よ』
「そんな事に女神の力を使わなくていいです。それよりも、金だらいを作り替えたら不敬って、どういう事?」
『その金だらいはの、ペヴィチュダの特製品じゃ』
「はあ!? 神様に何作らせてんだ少女女神いいいいいい!」
『何を言う! わらわは主神じゃぞ!? 本来なら、他の神はわらわにひれ伏す立場なのじゃ――』
『あ、アカリー? 聞こえるー?』
いきなり、フォリアペエル様の声が聞こえてきた。
「聞こえています」
『もー、ルヴンシールちゃんが悪いわねえ。金だらいだけど、地金として使うなら、鍛冶の熟練度を上げてからの方がいいわよ』
ほほう? 別に潰しても構わないと?
『その金だらいねえ、ペヴィチュダが面白がって、神々しか使わない金属を使って作ったのよ。だから、熟練度が高くないと、扱えないの』
マジで? いや、何でそんな金属で金だらいを作ってんですか。
『さあ? 私はペヴィチュダじゃないから、知らないわ』
ですよねー。ともかく、金だらいはラケル達の熟練度が上がったら、何か別のものに作り替えてもらおう。
試しに金だらいを鑑定してみたら、見事に「?????」ばかり並んでいた。鑑定出来ないってか。
人形の素材が集まりつつある。ついでに、お買い物アプリから戻されるものの中に、見慣れぬ革が含まれるようになった。
「ええと、地獄羊の革? また物騒な名前だな」
ちなみに、魔物図鑑の説明によると……
『地獄羊とは、高温もしくは厳寒の環境で育つ羊の魔物の事。高温地帯の羊は熱に強く、冷気に弱い。逆に厳寒地帯の羊は保温性能の優れ、熱に弱い』
つまり、凄く熱い場所か凄く寒い場所にしか生息していない羊型魔物らしい。これ、狩るの大変だったのでは?
どちらも革としてはホーイン山羊より数段性能が高く、これで魔法の鞄を作ったら無限収納になりそうだ。
……プチホテル、買うとしたらそのくらいの魔法の鞄、売ってもいいんじゃなかろうか。
ともかく、この革で魔法の鞄を作る。形は今までのまま……と思ったけれど、もっと小さく作っても大丈夫だな、これ。
魔法の鞄って、魔物の革を素材にして作るのだけれど、素材によって付与出来る小ささって変わるらしい。
ホーイン山羊だと付与出来るギリギリの小ささはコピー用紙が入るくらいの大きさ。付与出来る容量の最大とはまた違うものだ。
で、地獄羊の場合だけれど、何と手のひらサイズのポシェットで十分。しかも、付与出来る容量は無限ときている。
オーク革ですら、もっと大きな鞄でないと付与出来なかったのに。
これはこれで、需要があるかも? でも、ここまで小さいと盗賊とかが買い占めるのでは?
ちょっと悩んでいたら、スマホがピロリン。
「お買い物アプリかな?」
スマホの画面を見ると、ペヴィチュダ様からのメール。
『おう! 精出してっか? 泥棒に買い占められる事を心配してるみてえだが、神の力が加わった品は、犯罪者には使えねえようになってんだよ。犯罪者が買ったとしても、使えねえんだから意味ねえわな!』
なんと。そうだったんだ。なら、遠慮なく売ってしまえ。
『おう! ボロ儲けしておきな。それと、近々ちょっとしたもんが入荷すると思うぜ。楽しみにしてな。んじゃな』
相変わらず、忙しそうな女神様だなあ。
人形用素材は、じわじわと増えつつある。やはり、海階層で探すのは、大変なのだろう。何せ深海だから。
とはいえ、ルチア達は海を割って、海底をそのまま進むからなあ。いっそ、空飛ぶ絨毯でもあれば移動が楽かも?
あ、スマホが震えた。まさか、また神様が目覚めたとかじゃないよな?
「はい」
『何なのじゃ!? 空飛ぶ絨毯とやらは!』
単純に気になっただけらしい。
「いや、文字通り、絨毯が空を飛ぶんだよ。魔法の絨毯とも言うけれど」
『おおおお。そなたの世界には、面白いものがあるのじゃな』
「本当にある訳じゃありません。物語の中に出てくるんです」
『何!? 実際にはないじゃと!? うぬぬぬ。……そうじゃ! そなた、その空飛ぶ絨毯とやらを、作ってわらわに献上せよ!』
「はあ?」
また、何を言い出すのかな、この少女女神は。
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