第174話 作れるようになるんじゃないかな

 人形達はあれこれ作ってくれるので、私は更なる人形作りに精を出す。


 その結果、何が起こったかというと。


「素材が足りない……」


 意外な事に、眼球に使うクラゲの素材が底を突いてしまったのだ。


 後、ドワーフっ子達が焼き物を頑張った結果、土とガラスの素材が足りなくなったという。


 土に関しては、アンデッド層に行けば多分採取出来るだろう。問題は深海で採取するガラス素材の方。


 とはいえ、クラゲもガラス素材を採取出来る鎧魚も、同じ深海、海階層だ。


「という訳で、採取してきてほしいんだけど」

「わかりました。では、ラケル達を連れて行って参ります」

「え? ラケル達を連れていくの?」


 ドワーフっ子達は、連れて行かなくてもいいんじゃないかな。


「彼女達が使う素材を採りに行くのです。本人が行かずにどうしますか」

「ついでに、アカネ達も連れていきましょう。経験を積む事が出来ます」


 えええええ。あの子達は美容関係の仕事をするんだから、戦闘の経験は積まなくてもいいんじゃないかなあ。


 私の意見は、やんわり却下され、ルチアとセレーナ引率による、新人研修のノリで洞窟ダンジョンへと出かけていった。


 どうしてこうなった?




 素材がないと、人形作りが出来ない。この際に、足りない素材を全てリストップしておこう。


 骨と皮膚に関する素材は十分だ。魔石も、今のところ魔物を仕留めた際には全てこちらに回すよう指示しているので、困る事はなさそう。


 筋肉も、代替素材があるし、植物なので畑で育てる事も可能だ。髪もそう。


 爪に関しては、貝の一種を使っている。あ、これもそろそろ補充しておいた方が良さそうだ。通信でルチアに伝えておこう。


 後は……


「次は、糸紡ぎと機織り、裁縫を使える子達を作ろう」


 人形の数が多くなってきたら、服を買いそろえるのも大変になってきた。いっその事、彼女達専用の仕立て屋を離れに作ってもいいくらいだ。


 現時点で、結構な人数がいる訳だし、これからも増えるのだから。



 食堂の人気は高く、奥様ツアーや若様ツアーも盛況だ。若様ツアーにしれっと壮年や老年の男性が混じっていたり、奥様ツアーにどうみても未婚だよね? ってお嬢さんが混ざっていたりするのも、一興。


 そんな方達から、やはりというか、熱い要望が寄せられた。


「それが、宿泊施設……ですか?」

「ええ。今は個々人がテントを持ちこんでいますけれど、ここでしばらく滞在出来るよう、出来ればそれなりの別荘を持ちたいというのがご要望でして……ですが、さすがにそれは無理だと思いますので、出来れば常設の宿泊施設を、冒険者とは別の敷地で、と思いまして」


 宿泊施設……ぶっちゃけるとホテルだな。そこじゃなく別荘を、って辺りがお金持ちの発想だな。


 でも、ホテルか……売ってたね、プチホテル。


 プチってくらいだから、あんまり多くの人は泊まれない。部屋数が少ないから。お高いので、二棟も三棟も買えないし。


 大体、冒険者の敷地とは別って、また我が儘だなあ。ここは本来……別に、冒険者の為の場所でもなかったか。


 単純に、来る人間がからぼったくれればいいだけで。そう考えると、お金持ちからぼったくるのが一番効率的?


「とりあえず、この話は保留でいいですか?」

「もちろんです。無理を言っているのはこちらですから」


 そう思うのなら、あなたのところで止めておいてほしかった。口には出さないけれど。




 ログハウスの私室で、お買い物アプリを開く。お家ホテルの値段は変わらない。ここで値引きされてたら、買おうかと思ったんだけどな。


 とはいえ、プチホテルを買ってもスタッフがいないしな。


「それよりは、拡張敷地をもう一つ買う事は可能かな?」


 今ある拡張敷地を広げるのではなく、もう一つ同じような場所を作る事は可能か。


 お買い物アプリの説明文を読む限り、無理っぽい。


 とはいえ、冒険者達を別敷地にまとめたのと、レベルが上がって敷地自体が広くなったおかげで、プチホテルを建てても問題ない状態だが。


 ……ん? いっそ、木工組の子達に、ログハウスでも建ててもらう? でも、お貴族様がそんなところに泊まる訳ないか。


 プチホテルが買えるくらいになったら、考えてみよう。




 現在、チャージされている金額はそれなりだ。貯まる側から何かしらで使うので、増えて減って増えて減ってを繰り返しているけれど。


 でもさすがに約十兆円のプチホテルを買うほどではない。


 でもなー。買えばきっとお金持ちからむしり取れると思うんだ。それこそ一泊一千万くらいで。どこの超高額ホテルのスイートルームだっての。


 しかもそれ、素泊まりで、だ。一泊朝食付きとかでなく。


 あ、でもホテルに厨房があれば、調理担当の子で熟練度が上がった子達……ネーラとかをホテルに回して、食事の提供を込みにすればいいのか。


 ホテルのみの、特別メニューとかいって。スイーツも、ホテルに宿泊しないと注文出来ないものを用意するとか。


 それと、エステと美容を組み込んだオプショナルプランを提供。あれ? いけそうだな。


 アメニティは、もちろん新しく入った高級ラインの化粧品とシャンプーコンディショナー。石けんも、同じラインでどうぞ。もちろん、洗顔石けんも。


 ちょっと、気合い入れて稼ぐとするかね。




 とはいえ、今もうちの子達が頑張って稼いでくれている。では私は何をするか。


 自力でホーイン山羊を狩ってきて、魔法の鞄を作る。そして、それを委託販売で売る。これが一番手っ取り早いかと。


 そう思って、ルチア達に伝えたら、当然のように言われた。


「反対です」

「あの山羊程度でしたら、ラケル達でも簡単に狩れます。一人一日十頭をノルマに、狩りに出しましょう」


 真剣な顔のルチア。とんでもない提案をしてくるセレーナ。彼女達の背後で、今この場に集まれる子達は、全員頷いて同意を示している。


「ますたあ。私達、やれます!」

「姉上達に、狩りの仕方、教わりました」


 ラケルとマルギットが主張してくる。何だか、彼女達は見た目がこの周辺にいない種族に見えるせいか、訛りというか、ちょっと滑舌が悪い部分がある。


 そんな設定、していないんだけど。まあ、これはこれで個性か。


「マスター。我々も、狩りに出ます」

「マスターを危険にさらすくらいなら、我々が出ます」


 ウツギとキキョウまでそんな事を言い出す。これ、押し通すのは難しそうだな。


 出来る事をやって、稼ごうと思っただけなのに。




 結局押し切られ、しばらくは手の空いた子達でホーイン山羊狩りとなった。


「マスター。ホーイン山羊以外にも、鞄に出来そうな魔物がいたら、狩ってきてもよろしいですか?」

「オーク以外でね。あれは人形の皮膚に使うから」

「もちろんです。では、本日は私が狩りに出ます。セレーナ。後は頼みましたよ」

「任せてください」


 さくさく進むな。でも、ホーイン山羊以外に鞄に出来そうな魔物って、何だろう? ワニとか蛇とか?


 でも、あの辺りは革加工で扱えるのだろうか。あ、山羊がいるなら羊もいるのかも。シープスキンは、鞄だけでなく靴とかにも使えそうなのでは?


 靴……革加工で作れるものだろうか。


 何故ここで、スマホが震えるのだろう。まさか、靴の神様とかいる訳じゃないだろうし。


「はい」

『履き物全般の神はいるのじゃ! そして、奴が無事目覚めたぞ!! 後ほど、革加工とは別にすきるをあぷりに入れておくからの!』


 いるんだ、履き物の神様。そして、相変わらず少女女神は言いたい事だけ言って切ってしまった。


 後で、お買い物アプリを確認しておけばいいか。




 スキルの欄も、大分増えた。最近では私用か人形用か、一目でわかるように色の付いた枠で分けられている。ユーザーに優しい仕様だ。


 スキルは別れているけれど、魔法は基本どちらにもインストール可能。なので、色が付いた枠が二重になっている。


 それはともかく、新しいスキルは……これか。


「履き物とは、まんまだな」


 説明文によると、素材を問わず靴、サンダル、その他履き物と呼ばれるものは何でも対象になるらしい。


 ただし、熟練度によっては作れないものも出てくるんだとか。ざっと見ても、布靴、スリッパ、草履、わら靴、下駄、長靴、革靴、ハイヒール、パンプスなどなど。結構な種類、あるんだな。


 熟練度に関しては、人形達に頑張ってもらおう。これで、彼女達の上から下まで、身につける全てを作れるようになるんじゃないかな。

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