第172話 いっそ両方来てくれないかな
新しく手に入れた光魔法と闇魔法。まずは人形達に使ってもらって、どんな魔法なのかを確認してもらおう。
と思っただけなのに。
「まさかオークの谷に来るとは」
現在、私は洞窟ダンジョンのオーク集落があった階層に来ている。ここ、特に名前もないんだけど、勝手に「オークの谷」と呼ぶ事にした。
「やはり、ご自分の目で結果を確認なさった方がいいかと思いまして」
ルチアの言葉に納得。説明を受けるよりは、見た方がわかりやすい。百聞は一見にしかずとも言うし。
参加者は、ルチア、セレーナ、フルヴィア、エレナ、ニコラ、パオラ、ロッサーナ、サーラ、ヴァレンティーナ、ジータ。
ドワーフモチーフの子とエルフモチーフの子は現在ログハウスで製作の中休み中だ。
それと、ゼプタクスでの薬屋や、食堂勤務、ダデシデインの谷に行っている子達は不参加。
今回はあくまでお試しだから。他のお仕事がある子達は、留守番……というか、お仕事をしてもらっている。
アガタからはちょっと愚痴の通信が来たけれど、ルチアが笑顔で黙らせた。
最近、人形達は彼女達だけで通じる言語を使い始めた。端で聞いていても、何を話しているのかわからないのだ。
外国語というか、何というのか。
一回、ルチアに何の言語を使っているのか聞いたところ、古語だという返事がきた。
でも、それを少女女神に朝の祈りの時間で伝えたところ、人形が古語を使える訳がないという返答がきている。
どういう事?
それに関しては、少女女神の方でも少し調べてくれるそうなので、お任せしておこう。
今のところ、人形達が私に逆らう事はないから。
魔法で光と闇と聞くと、光は回復、闇はえげつない攻撃と思ってしまうが、実際は違うらしい。
「闇は防御が強いようですね。後、空間をその場で局所的に弄るものが多く、罠に向いてます」
これはルチアの意見。闇が防御に向いているというのはびっくりだ。
「光は攻撃向きかもしれません。特に、アンデッドは一発で消せますね」
こちらはセレーナの意見。てか君、わざわざ上のアンデッド層行ったの?
闇魔法の空間を弄るというのは、敵の足元に暗闇を発生、そのまま落とし穴のように落とすとか、対象を暗闇で包んで崖まで誘導するとか、そんな感じ。当然、目くらましにも使える。
光は光そのものを武器にするらしく、レーザー光線のような使い方が出来るんだとか。
しかも、鏡を使えば反射させる事も出来るそうで、トリッキーな攻撃が可能との事。
それ、反射の角度とかきちんと計算しないと使えないやつでは……
アンデッドに光が有効なのは、何となくわかる。ただ、うちの場合塩水を使う事が多いからなあ。
「ですが、光魔法ですと、塩を買う手間が省けますし、マスターがおられない場でもアンデッドを簡単に始末できます」
始末言うな。とはいえ、セレーナの意見はもっとも。
「塩がなくとも、火で焼き払いますが」
ルチアが脇から台無しな意見を言ってきた。まあ、光魔法の方が効率はいいらしい。熱もないし。
火で焼き払うと、魔法の火でも物理的な火同様熱をもたらす。なので、辺り一帯焼き払うと、熱が凄いらしい。
私やうちの子達はバリアがあるから問題ないけれど、同行者がいてバリアを使っていない時は気を付けるべき。
もっとも、アンデッド層に行く同行者なんて、銀の牙以外にいないけれど。
他の魔法の階位……というのか。番号が上の魔法、火魔法四、五とか、水魔法四、五とかは、純粋に下の階位の魔法の威力アップバージョンが殆どだとか。
土だと、動かせる範囲が広がったり、形成した後のものが長くその形を保ったり。
風の場合は、大気を操作して相手を窒息させる術式が出てきた。同じ術式を使って、上空まで飛ぶ事も出来るそうだ。
今更だけど、魔法って凄い。
また、今回から追加料金を支払うと、十体を超える人形にもインストール可能になった。
前までは、魔法は買い取りで自分以外の人形にインストールする場合は、十体までという制限があった。
今回光と闇の魔法が入り、上の階位の魔法も入った事で、ある意味制限が撤廃された形だ。
とはいえ、同じ魔法を買い直すよりは追加料金の方が安いので、これはこれで助かる。
魔法の実験……実験? から戻って翌日。再び人形作りに取りかかる。
敷地レベルが上がって、微妙にログハウスも広くなった。そのおかげで、空き部屋が増えている。
そこを、これからの人形作りのアトリエにしようかと。
アトリエと言っても、特に何かを設置する訳ではないのだけれど。素材その他は魔法の鞄に全て入っている。
後は、骨格を組む際に使う台や腐敗しないタイプの素材を置く棚とかだろうか。
棚は、人形達が木工スキルを使って、自分達の離れに置く家具を作っているせいか、私にも熟練度が入ってくる。
おかげで、以前より熟練度が上がり、棚くらいなら一人で作れるくらいだ。
大きく重い棚は、普通なら運ぶのに苦労しそうだけれど、それも魔法の鞄に入れて運んで出すだけなので、問題なし。
そのうち、木工用の部屋か、離れでも作りたいところ。
今はそのまま、畑部屋が作業場だ。
「あ、マスター」
「お野菜か薬草の収穫ですか?」
畑の脇で作業をしていた、木工担当のヴァレンティーナとジータがこちらに気付き、手を止めて挨拶してくる。
「ううん、部屋に棚を作ろうと思って」
「棚でしたら、いくつか作ったのがありますよ? お持ちになりますか?」
あるのか。でも、部屋のサイズに合わせて作りたい。
とはいえ、折角の申し出だ。こんな形の、こんなサイズの棚はあるかと聞くと、何とあるという。
「こちらです」
ジータ、力持ちだね。大きな棚を抱えて持ってきたよ。
「おお」
参った。デザインといい大きさといい、作ろうと思っていた棚そのものだ。
「これはいいね」
「お気に召しましたか?」
「うん。でも、本当に持って行っていいの?」
「もちろんです。我々が作るもので、マスターが使って悪いものは、一つもございません」
うちの子達って……
早速棚を作業部屋に移動させる。うん、色味もいい。しかも複数あったから、壁一面棚にしてみた。
ここに、腐敗しにくい素材を置いておくのだ。
「あ、窓からの日差しが入るけれど、紫外線ってどうなってんだ? ここ」
つい、一人だと独り言が増えてしまう。呟いた途端、スマホがピロリン。
「ん? メールだ。あ、フォリアペエル様からか」
『紫外線の事は気にしなくていいわよー。その敷地のバリアには、紫外線カットの機能もあるから。逆に肌を焼きたい場合は、ダンジョン内の比較的安全な場所で、天気の階層を狙うといいわよー。お薦めは海階層ね』
ああ、あそこなら、日光浴していても様になりそう。何せ南の島って感じだし。
それに、魔物はほぼほぼ海の中だから、陸である島にいると襲われる心配がないんだよね、あそこ。
とはいえ、日焼けはな。後でシミとか皺になるって聞いたから、ちょっと。
いっそ、エステでも出来る人形を作れればいいのに。
え、ここでスマホが震える?
「は――」
『美の女神が目覚めたぞー!!』
「やっぱりー!」
『一番喜んでおるのはフォリアペエルじゃ! 仲がよかったからのう』
……それだけだろうか。いや、いかんいかん、神様を勘ぐるなんて。また金だらいが落ちてくる。
『今回は見逃してやるぞよ』
うぐ、少女女神め。
『うははは。そのうち、フォリアペエルと一緒に何やらあぷりに出すと息巻いておる故、楽しみに待つとよい』
おお、じゃあ、美容用品が来るのかな? それとも、スキルでエステとか? どっちが来ても嬉しいし、いっそ両方来てくれないかな。
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