第170話 なりませんかねえ?

 さて困った。今回作る子達で、エルフモチーフの子達はアジアンテイストにする予定だが、それだとイタリア語っぽい名前はいかがなものか。


 いっそ、日本語の名前でも付けようかな。


「女子ばかりだけど、やっぱり何か共通項を入れたいよね」


 名前の頭文字が五十音順とか。二音の名前で統一とか。あれこれ考えてみる。


 しかし、元日本人だけど、名付けって難しい。母国語でもこれなんだから。イタリア語のネーミングに関しては、スマホの検索のおかげ。


 あれ、何でか知らないけれど、調べるだけなら日本のネットに繋がってるよ。書き込みは全般出来ないけれど。見るだけなら、大抵は見られる。


 あ、ネットで女児の名前を検索すればいいのか。


 ドワーフモチーフは、今まで通りイタリア語で、エルフモチーフは日本語で。これ以上は面倒だから、もう決めた。




 魔石を統合しつつ、骨格やら何やらのパーツは大分数を揃えられた。これでいつでも人形作りに入れる。


 今日の午前中分の作業を終えて、お昼を食べにダイニングキッチンへ向かっていたら、ログハウスのピンポンが鳴った。誰だ?


「はーい」


 玄関の扉を開けると、そこにはラルラガンさんとイーゴルさんの二人がいた。珍しい事もあるものだ。この二人がログハウスに来るなんて。


「どうかしたんですか?」

「アカリ、冷たいじゃないか!」

「はい?」


 何の事だ? 首を傾げていると、勢い込むラルラガンさんを後ろに押しのけて、イーゴルさんが困ったような顔をした。


「ラルが済まない。その……リンとセシが、新しい杖とロッドを持っていてだな」

「ああ、お買い上げいただいた品ですね」


 あれがどうかしたんだろう。そう言おうとしたら、イーゴルさんの後ろから、ラルラガンさんが顔を出す。


「何で俺等には声を掛けてくれなかったんだよ!」

「へ?」

「いや、ラルの奴、二人が武器を新調したのがうらやましいらしくてだな」

「俺も新しい剣が欲しい!」


 そういう事か。




 とりあえず、昼の時間だったので、二人には離れに戻ってもらい、午後から話を聞く事にした。


 今日のお昼はクリームシチュー。美味しいし、味が濃厚だ。ゴロゴロとした肉と野菜もいい。


 美味しい食事を終えた後、食休みを取ってから銀の牙の離れへ。


 招き入れられた居間は、何やらどす黒い空気が。


「自分で稼いだ金で自分の装備を買って、何が悪いってのよ」

「本当に自分達の稼ぎだけかよ?」

「ああん? 仲間を疑うって訳? ああ、ラルは酒場でちょっと一緒に飲んだだけの相手も、お友達って思っちゃう奴だっけねえ?」

「うぐ……お前、終わった事をいつまでも」

「言うに決まってんでしょ! あんな奴を離れに入れて。しかも、今回は私達を疑うとか。本当信じらんない」


 どうやら、リンジェイラさんとセシンエキアさんが買った装備の支払いに関しての言い合いらしい。


 リンジェイラさん達は、当然自分達二人で狩ってきた素材での支払いだから、ラルラガンさん達に了解を得る必要はないと思っている。そして、実際そうした。


 でも、ラルラガンさんは金の出所がパーティーのチャージだと思ってる。その場合、買う前に相談があってしかるべき、という事らしい。


 ん? セシンエキアさんのロッドを買う前に、相談するって言ってなかったっけ?


 居間での二人の険悪なムードを見て、出迎えに出てくれたイーゴルさんが溜息を吐いた。


「二人共、アカリの前だぞ。いい加減にしろ」


 ラルラガンさんとリンジェイラさんは黙ったけれど、お互いににらみ合っている。


 とりあえず、何で私はこの場に呼ばれたんだろう。




 理由は、すぐにわかった。


「俺もイーゴルも、新しい武器が欲しい!」


 つまりは、自分達も剣を買いたい、という事らしい。リンジェイラさんは呆れて、セシンエキアさんは苦笑いだ。


「だったら私達に文句言わず、アカリに買わせてくれって言えばいいでしょ? 本当面倒臭い男なんだから」


 ラルラガンさんは図星を指されたのか、顔を真っ赤にするだけで何も言い返せない。


「悪いわねえ、アカリ。こいつらの武器も、適当に見繕ってくれる?」

「適当って言うな!」

「ああ、そう。なら、しっかり耳の穴かっぽじって説明を聞きなさいな」


 やってられっか。そんな言葉が聞こえてきそうなリンジェイラさんの態度である。


 でも、このラルラガンさんを見ちゃったら、私も何も言えない。


「ええと、どんな武器があるか、調べますか?」

「ああ」

「アカリ、俺は盾がいい」

「あ、はい」


 ともかく、男性陣も装備を一新する事になった。




 ラルラガンさんが使う大剣は、前とは種類が変わっている。体力の剣、敏捷の剣、器用の剣。まんまだな。


 効能? もまんまで、装備すると名前のステータスが上がる。ただ、これらの剣、どうも成長するらしい。


「成長?」

「ええ、説明文によりますと、魔物を倒せば倒すほど、上がるステータスの数値が多くなるそうです」

「ほほう」


 これ、結構面白いな。装備する当人の数値は変化なしだけれど、剣を装備するだけでステータスがアップし、しかも剣を成長させるとステータスアップ率が上がるという。


「なら、ラルは器用の剣一択じゃない」

「勝手に決めるな!」


 現在のラルラガンさんのステータス、物理関連で一番低いのは実は敏捷。器用はステータスアップアイテムで頑張って上げたから。


 それに、前衛の速度が上がるのは悪い事じゃない。もちろん、他のステータスを上げ続けられるのも、魅力的だろう。


 かえって、イーゴルさんの方が選びやすいかもしれない。


「イーゴルさんは、どうしますか?」


 盾も、剣と同じく体力、敏捷、器用の盾の三種類。効能も一緒だし、成長するのも一緒。


 ただ、盾なので魔物を倒して成長する訳ではなく、攻撃を受け止める事で成長するらしい。


 現在のイーゴルさんのステータスでは、敏捷が一番低い。器用はそれなりに上げていたんだな。


 盾役だから、体力が一番大事かもしれない。攻撃を受け止めて、吹っ飛ばされないだけの力がいる訳だし。


 そういう意味では、どれを選んでもいい気はする。ここは一つ、一番安い体力の盾とかどうだろう。


 ちなみに、剣も盾も体力が一番安くて一億八千万。次が敏捷で三億九千万。一番高いのは器用で、六億七千万。


 本当、お買い物アプリで買い物すると、金銭感覚がおかしくなるというもの。


 値段を告げたら、さすがの二人も固まったけれど、一銭もまかりませんから。


 カスタマーレベルが上がって、割引率が十七パーセントになったけれど、これは内緒だ。




 結局、二人とも敏捷を選んだ。理由はそれぞれだったけれど、二人に共通した理由の一つに、他のステータスは薬で上げればいい、というのがある。


 そんな安易にアイテムに頼るのもどうなのか。自分の事は、高い棚に上げておく。


「剣を新調したら、またガンガン狩りをして稼ぐから、あの薬を売ってほしい」

「俺からも、頼む」

「あ、私も欲しいわ」

「わ、私もです!」


 最後のセシンエキアさんだけ、違う意味で鼻息が荒いんですが。


 ともかく、あれに関しては少女女神の意向次第だ。


「なので、私では決められないんです」

「そうか……」

「いいじゃないか、ラル。これまでだって、十分助けられたし、強くなる事が出来た。これ以上を望んだら、欲が深いというものだぞ」


 イーゴルさんに諭されて、ラルラガンさんも納得してくれたらしい。


 それにしても、割引き分で一挙に稼げたな。皆さん、今度は防具をお買い求めになりませんかねえ?

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