第169話 それはそれでいい

 ネーラからの伝言を受け、受けた翌日のおやつの時間に銀の牙専用離れに向かう。


 手土産代わりに、食堂でスイーツを一手に引き受けるシェフパティシエ、ジャニーナお手製のシュークリームを持参した。


 大きくてクリームたっぷり。出す側から売れていく、食堂の人気商品だ。


「いらっしゃい、どうぞ」


 出迎えに出てくれたのは、リンジェイラさん。今日は全員いるのだろうか。一応、シュークリームは人数分持ってきたけれど。


 後でセシンエキアさんの魔法の鞄に入れておいてもらおう。


 今日ここに来たのは、セシンエキアさんが買うロッドが決定したから。ついでに、リンジェイラさんの杖も欲しいそうだ。


 ロッドと杖の差は何か。長さだという話。ロッドは肘から指先まで、杖は自分の身長を少し超えるまでの長さを持つといいらしい。


 さて、セシネキアさんの選んだロッドはどれだろう?


「それで、買うのはどのロッドですか?」

「法力のロッドです!」


 一番お高いのを選んだな。でも、私でもこれを選ぶ。単純に威力が上がるって、凄い事だと思うんだ。


 発動速度が上がらなかったり、一発ずつしか撃てなくても、それは今まで通りと思えばいい。


 ロッドを装備するだけで、これまで通りの発動スピードや魔法の数でも、一発の威力が上がれば十分。


 支払いに関しては、素材によるチャージを選んでいた。


「これは自分一人で狩ったので、ラル達に文句は言わせませんよ!」

「ちょっと、一人じゃないでしょ? 私と一緒だったじゃない」

「てへ」

「ったく、調子いいんだから。それで、アカリ。私も杖を買いたいんだけど、お値段と能力を教えてくれる?」


 まいどありー。




 杖もロッドと同じで三種類ある。英知の杖、精神の杖、魔力の杖。それぞれ六千万、一億八千万、三億九千万。ロッドと同じ値段だ。


 能力も同じで、英知の杖は一度に撃てる魔法の数が増え、精神の杖は発動の速度が上がり、魔力の杖は魔法の威力が上がる。


 ロッドは聖職者専用で、杖は魔法士専用といったところか。はて、セシンエキアさんは、所属していた教会から破門されてなかったか? それでも、聖職者と言える?


 ……まあいい。ロッドは装備出来るようだし、神聖魔法も使えるそうだから、聖職者って事でいいんだろう。


 杖の説明をすると、リンジェイラさんは即決した。


「なら、精神の杖ね。値段も手頃だし」


 一億八千万が、手頃なのか……


 ちなみに、私のカスタマーレベルで割り引かれる分は、還元しない。あれは私が積み上げてきたものだから。ただ乗りはご遠慮願います。


 という訳で、割引きされた差額は、私の手数料になる。了承は得ていないけれど。言わなければわからないのだから、黙っておくのが吉だ。


 二人から素材の提供を受け、オーバーした分だけ現金で返す。初めて、お買い物アプリでこちらの貨幣を買った。


 何だか不思議な気分だが、これは両替と思えばいい。チャージという、お買い物アプリでのみ使える電子マネーを、現金化する際の手数料を取られたようなものだ。


 もちろん、手数料は現金でお釣りをもらう二人に負担してもらっている。計算式は出して、紙の上で計算してもらい、納得してもらった。


「何だか不思議。アカリに素材を渡して、杖と現金になるなんて」

「本当ですねえ。素材を現金化するには、ギルドに売るしかないと思ってました」


 今までは、素材は即チャージしていたから。現金の代わりになるのは納得していても、貨幣になると違う実感が湧くようだ。




 取引も終わったので、ログハウスに帰る。また魔石統合と骨格作り、筋肉組織作りまではやっておこう。


 あれ、それなりやる事あるな。


 鍛冶場では、ニコラとパオラがガラス製品を、ロッサーナとサーラが焼き物を作ってる。


 焼き物に関しては、鍛冶場でなくてもいいんだけれど、まだ専用の建屋を用意していないので、そちらで。


 鍛冶場も畑部屋も水田部屋も、空間が広がったので作業がしやすいらしい。


 畑部屋と水田部屋に関しては、空間が広がっても畑と水田を買わないとそれぞれ栽培は出来ないようだ。


 ただ、木材に関してはその限りではない。畑区画の外ならどこでも植林可能で、一週間ほどで伐採出来る大きさまで成長するのだとか。早。


 今は木工担当のヴァレンティーナとジータがせっせと植林し、伐採出来るものから伐採、乾燥、製材して木材にしている。これから、色々作る予定だそうだ。


 鍛冶場を使っているのに、鍛冶仕事に就いている子がいないとはこれ如何に。


 脳内で呟いた途端、スマホがピロリン。


『まったくだぜ! 早く鍛冶仕事も再開しろよな!』


 ペヴィチュダ様からのメールだ。こればかりは申し訳ないとしか。


『事情はわかってんよ。今、こっちで人形達の設定変更とか色々手を入れてっから、もうちっと待ってな!』


 ああ、そういえば、少女女神がそんな事、言ってたっけ。いったいどう変わるのやら。




 どうやら、人形の設定変更ってソフト的な面だけでなく、ハード面でもやっているそうな。


 つまり、私のスキルに変更が掛かる。なので、人形作りそのものを止められた訳だ。


 とはいえ、骨格作ったり、筋肉作ったり、眼球作ったり、髪の毛作ったり。パーツは作ってよしとお許しが出ているので、組み立てられるようになるべく多く作っている。


 そんな中、人形のサイズを少し変更しようと思うのだが。具体的には、鍛冶仕事をする子達は低身長に、狩りをする子達は高身長に。


 鍛冶仕事の方が体力使うので、がっしり体型にして、狩りの子達は細身でスピードを生かした動きが出来るように。


 ぶっちゃけると、ドワーフモチーフとエルフモチーフな訳だが。


 といっても、どっちの外見も人外にするつもりはない。ドワーフの方は小柄なだけで、エルフの方も耳を尖らせたり長くしたりはしない予定だ。


「と考えているのだけれど、どうだろう?」


 夜、夕飯の後にルチアとセレーナに相談してみた。二人はお互いに顔を見合わせている。


「それは、専任の仕事を作るという事でしょうか?」

「え? ……あー、そうなる、かも?」


 それは、今でも同じ事なんじゃなかろうか。


 あれ? でも、偶に担当を替える事も、あるよな……


「これから人形達の数は増やすし、もう担当を替える事はそうそう起こらないと思うんだ。駄目かな?」

「いえ、人形はマスターがお作りになるものですから、マスターがいいと思う形で作られるのが一番かと」


 ルチアの言葉に、セレーナも頷いている。うーん、そういうもの?




 とはいえ、このまま似たような外見の子ばかり作ったら、見分けられなくて私が困る。


 名札でも付けてもらわないと、今でも名前が咄嗟に出てこない事があるくらいだ。


 ……会社の社長って、こんな感じなんだろうか。常に関わる者以外、長年社にいる人でも、顔と名前が一致しないとかざらなんだろうな。


 そう考えると、名付けまではするけれど、その後は覚えなくてもいいのでは?


 担当部署……じゃなくて、仕事ごとにチームリーダーを決めて、その子の事だけわかっていればいいようにするとか。


 あれ、いつの間にかうちが会社のようになってる……


 ともかく、骨格だけでもドワーフモチーフとエルフモチーフで作ってみよう。


 ドワーフモチーフは、小柄で筋肉質……までやると、ちょっと見た目がごつくなるな。男ならいいけれど、女の子だとちょっと。


 というか、うちの人形女子しかいないな。今気付いた。別に男子の人形を作らなくても、現状困ってないからこのままでいいか。


 ドワーフモチーフ、身長は百二十センチくらい。ネーラ達は全員揃って身長は百六十センチに設定している。変更するの、面倒だったから。


 小柄で童顔。見た目はちびっ子だけど、筋力は高い。そうか、筋肉組織の方に手を入れればいいんだ。


 魔法で身体強化のようなものを使う手もありだが、常に使うと魔力切れを起こしそうで。


 なので、デフォルトで筋力高め。人形スキルの熟練度が上がったら、そういう細かい部分の調整も出来るようになった。


 腕の筋力を上げたり、足の筋力を上げたり。代わりどころでは、耳や舌、目の能力をピンポイントで上げる事も可能だ。


 といっても、目に関してはカメラ機能を仕込むので、そちらの能力上げは使えないけれど。


 ドワーフモチーフはこんな感じ。次はエルフモチーフだ。


 身長は百七十五センチ、全体的に華奢な感じで、凹凸も少なめ。ほっそりしているイメージだ。


 顔も面長。ドワーフモチーフの方は丸顔。


 目元も切れ長にして……これ、エルフっていうより、アジアンテイストになりそうだな。


 でも、それはそれで面白そう。髪色は黒、瞳は碧。ドワーフモチーフは髪を赤茶、瞳は青にする。


 エルフモチーフは手足を長く、筋力はそこまでではないけれど、魔力量は多めに設定しておこう。


 筋力を上げたドワーフモチーフに比べて、エルフモチーフは弓が主な武器で、魔法も多用する。


 魔法多用の為に、魔力バッテリー代わりの魔石をもう一つ、別枠で用意。エルフモチーフの子達は、魔石を三つ持つ事になる。


 アジアンテイストにするなら、彫りもあまり深くしないでおこう。ミステリアスで、それはそれでいい。

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