第168話 何という、イージーモード
畑部屋から外に出ると、確かに変わっていた。単純に、部屋が広くなって、神像置き場になっているアルコーブも大きくなってる。
これは……これからも、神像が増えるぞという事か?
とはいえ、神像が増えたところでこちらの手間はない。いきなり増えて、世話も何もいらないだけ。
朝のルーティンでお祈りをするくらいか。それも、今では個別には出来ない数になってきてるので、まとめて祈るという、大変手抜きなものだけど。
「あ、人形達用の離れにも、ここから行けるんだ」
というか、この部屋から伸びている渡り廊下が途中で枝分かれして、離れと食堂に繋がっていた。
窓から見える離れの向こうには……柵が遠いな。敷地が広がったと言っていたから、そのせいだろう。
とはいえ、これ、またリレアさんに何か言われるんだろうか。
心配したような事はなかった。どうやら、敷地が広がったのも「神様の思し召し」程度に考えているらしい。
「実際、そう考えないと色々と辻褄の合わない事が多いですからねえ」
そう言いながら、私の目の前でエビフライをがっつくのは、セシンエキアさん。現在、銀の牙専用離れでケータリングの料理を食べている最中だ。
当初は普通に食堂に通っていたそうだけど、段々周囲を冒険者に囲まれるようになり、鬱陶しいのでネーラに相談したところ、これまでのように離れに配達するのはどうかと提案されたらしい。
で、今食べているのは、その配達された食事だ。ちなみに、私も今日は食堂のメニューを配達してもらって、ここで食べている。
セシンエキアさんがミックスフライ定食、私がハンバーグ定食。どちらも食堂の人気メニューなんだとか。
「これも美味しいんですが、やはり私はカレーを食べたいですねえ」
カレーは食堂でも人気のメニューだ。とはいえ、毎日毎食カレーはないだろう。
前までは、食堂も朝からレギュラーメニューを出していたのだけれど、それだと仕込みだ何だで手間が掛かる。
それを解消する為に、朝はモーニングメニュー、昼はランチメニュー、夜はレギュラーメニューを出すようにしたという。
この辺りのアイデアは、私が出した。元々、ギルド経営の食堂の時は、常にメニューは二つ、しかも味が微妙というものだったのだ。
それが朝は一種類、昼は三種類、夜は日替わりで色々出している。これに文句を言う奴がいたら、敷地から叩き出そう。
「そういえば、他の人達は?」
「ラルとイーゴルは二人で狩りに、リンはゼプタクスまでお買い物だそうです」
それで、一人残ったセシンエキアさんの分だけ、配達してきたという訳か。
ちなみに、私がここにいる理由は、ネーラ経由で相談を受けたから。
曰く、新しい装備がほしい。
「ラルも、アカリさんから剣を買いましたよね? あんな感じで、私は聖職者用の短いロッドが欲しいんです」
そういえば、そんな事もあったな。ロッドに関しては、以前ラルラガンさんの剣を購入する際、他の人達の武器も買うかと一覧を見た事がある。
その中にあった。スマホの画面は他人には見えないから、セシンエキアさん達には確認させられなかったけれど。
「武器もいいですが、防具はいらないんですか?」
私の言葉に、何故かセシンエキアさんが遠い目になった。
「アカリさん……うちって、防御する前に敵を倒せ、がモットーなんですよ」
何という脳筋パーティー。うちのカモ一号がそういうパーティーだったとは。ちょっとショック。何がショックなのかは、自分でもわからないけれど。
離れを建ててからも、銀の牙はそれなり稼いでいたらしい。稼いだお金はセシンエキアさんが持つ、魔法の鞄の中。ここなら、他人に盗まれる心配もない。
もっとも、離れに置いておけば、パーティーメンバー以外誰も入れないのだが。とはいえ、メンバーに招かれると入れてしまう。
以前、それで問題行動を起こした馬鹿がいたし。
セシンエキアさんから予算を聞いて、その場でスマホのお買い物アプリを見てみる。
武器の欄で、ロッド……これか。
「その予算ですと、三種類の中から選べますね」
「本当ですか? ど、どんな差があるか、聞いてもいいですか?」
「ええと」
三種類のロッドは、発揮する効果が違うらしい。一つ目は知恵のロッド。装備すると、一度に撃てる魔法の数が増える。ただし、魔力は相応に使うし、一発ずつの威力は変わらない。
次が心のロッド。装備すると魔法発動の速度が上がる。ただし、一度に放てる魔法は一種類のみ。威力も装備しない時と同じだ。
最後が法力のロッド。装備すると一発の魔法の威力が上がる。ただし、発動速度は変わらないし、多数の魔法を一度に放つ事は出来ない。
何に重きを置くかで選ぶ必要がある。
「ちなみに、お値段は知恵のロッドが六千万、心のロッドが一億八千万、法力のロッドが三億九千万です」
「うぬう……なかなかいいお値段、しますね」
何せ、少女女神監修……多分? のお買い物アプリだから。そりゃぼったくり価格にもなろうというもの。
……これは、不敬に当たらないらしい。
「一度、皆と相談してからでいいですか?」
「もちろんですよ。決まったら、また声を掛けてください。しばらくは人形作りでログハウスにいますから。ネーラにでも伝言を頼んでもらえれば」
「わかりました。ありがとうございます」
食器は後で食堂の子が取りに来るからそのままで。私は銀の牙の離れを後にした。
人形は、現在一度に二十体までなら作れる。ただし、起動し続けるのに私の魔力が必要だという。
そろそろ、一度に起動し続けられる上限に達しそうだ。
「これはこれで困ったな……」
現在の私の魔力量は四千百七。少女女神に言わせると、世界でも三本の指に入る魔力量だとか。
また魔力を上げる……でもいいのだが、それだと世界一の魔力量保持者になってしまう。
それはそれで、邪神に目を付けられたりしないのだろうか。
スマホが震えた。少女女神からだ。
『ダンジョンから出ない限り、邪神の目はくらませられるぞよ』
「そうなんだ? じゃあ、また魔力を上げても平気?」
『それに関しては、しばし待て。何やらペヴィチュダ達がやっておる』
何やらって。把握していないんだ。
『あやつらの動きを全て把握しておったら、わらわが倒れてしまうわ』
まあ、神様のやる事だもんな。やる事のスケールも大きそうだ。
『ともかく、人形作りはしばし待て』
「了解でーす」
それはいいんだが、いきなり暇になったな。これからは、全力で人形を作ろうと思っていたから、他のあれこれは全て新しい子達に割り振った後だ。
これから、何をしようか。
人形作りはストップされたけれど、素材作りまではストップを受けていない。
なので、骨格を作ったり、筋肉組織を作ったり、魔石を統合させたり。特に魔石は、大量に用意しておかなくてはならない。
ちょうどいい事に、クズ魔石は大量に手元にある。まだまだ魔法の鞄の代金であるクズ魔石は、私の手元に届けられている。
どうも、ゼプタクス以外の場所からも、ダブついたクズ魔石を集めてくれたらしい。この辺りは、伯爵夫人の力かな。
おかげで、クズ魔石の詰まった樽は、大量にある。自分用の魔法の鞄、作っておいてよかった。
魔石統合形成に関しては、熟練度がガンガン上がっているので、統合に時間が掛からなくなっている。一度に統合出来る量もかなり増えたし。
しかも、今は魔法の鞄に入れたまま、統合が出来る。熟練度が上がると、こういう事も出来るのか。
なので、表向きは何もしていないように見える。いかん、これでは引きこもりのニートではないか。
……あれ? それでも別にいいのか。衣食住は揃っているし、人形達のおかげで、働かなくとも食べていける。
お金が必要になったら、魔法の鞄を作って委託販売すればいい。何という、イージーモード。
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