第167話 その姿は幼女のままだ

 本日の狩りはセレーナ、留守番はルチア。この二人にだけでも、離れの件を相談しておこう。


 セレーナが戻ったのは、夕飯の少し前。いつも、狩りから帰るのはこのくらいの時間帯だ。


 夕食前に、二人だけダイニングキッチンに呼び出し、お話し合い開始。色々すっ飛ばして、人形の数が増えた事、それにより、ログハウスが手狭になった事などを伝えた。


「で、ここらで皆用の離れを買おうかと思ってるんだ」

「離れ……ですか?」

「私達の為に?」

「うん、これからも、人数は増えるだろうし、今のうちに広くしておこうと思うんだけど、どうかな?」


 私の言葉に、二人は固まったまま返答がない。嫌だったのかな。


 じっと待つ事三分くらい。さすがにカップ麺が出来上がる間何も答えがないのは怖いんだが。


「ええと、嫌だった?」

「いえ! そんな!」

「とてもありがたいお申し出です! ですが……」


 ですが? やっぱり嫌なんだろうか。


「マスターの側に、私達だけでも置いていただけませんか?」

「え?」

「離れには、ネーラ達を住まわせましょう。きっと喜びます」


 二人の笑みの圧が強い。いや、君達がそれでいいのなら、いいんだけど。




 という訳で、離れを増築。いつかこれ一棟では足りなくなった時の為に、もう一棟買えるよう、チャージを頑張ろう。


 新しく出来た離れは、ログハウスに向かって右側の真横。ここも、渡り廊下で繋がっている。


 今まではこちらからも敷地の裏側に行けたけれど、離れが建った事で通りづらくなったようだ。


 とはいえ、左側からは通れるし、敷地の裏に行くのは温泉に入りに行く時くらいだから、問題はない。


 表から見ると、食堂の奥にもう一つ建物が建った感じか。


「という訳で、あの建物は何なんですか?」


 所用があってギルド支店のテントに行ったら、リレアさんに捕まった。増築した離れが気になるらしい。


「うちの子達が増えたので、彼女達が住む部屋を増築したんですよ。そこの食堂と一緒です」

「ああ、なるほど……」


 それ以上、突っ込んでくる事はなかった。食堂と一緒と言われては、何も言えないだろうし。


 いや、その前に温泉やら銀の牙の離れやらあったな。あれにも突っ込まなかったんだから、今回もやめておく事にしたんだろうか。


「では、こちらが次のツアーの予定表です」


 今日ギルド支店に来たのは、これを受け取る為。ついでに細々した事の打ち合わせとか、雑談とか。


 受け取った予定表を眺める。これがないと、食堂の食材仕入れの計画が立てられないのだ。


 何せ、一階はまだしも二階は完全予約制になったので。来る人に合わせて色々とメニューを考えなくてはならない。


 その辺りはネーラがやるのだけれど。彼女は食堂に掛かりきりで忙しいので、こういった雑事は私がやる事が多い。


「はい、確かに……って、これは?」


 来月の中程に、三日間連続して二階の全ての席が予約で埋まっている。二階の席、チャージ料が発生するから席の予約だけでもお金が掛かるのに。


「その三日間なんですが……」


 リレアさんが、何やら言いにくそうだ。これは、もしかして……


「また、貴い方でもいらっしゃるんですか?」

「……ご明察です」


 いや、ご明察じゃないですよ。何でまたそんな面倒そうな人が来るんですか。


 ああ、スイーツ目当てかな。ここで出しているスイーツ、余所では食べられない味だそうだから。


 私の言葉に、リレアさんが遠い目になる。


「それだけではなく、ここの食堂の料理の評判をお聞きになったそうです。それで、自分も食べてみたい……と」


 何やってんだ貴い身分の人。


 ともかく、彼女はまたしても伯爵夫人と一緒に来るという。そして、ここに三日間滞在するんだとか。


「勘弁してください」

「そう言われましても……」


 ギルドとしても、多分相当な報酬を積まれたんだろう。だから、断れない。


 その前に、ギルドがある領地の領主夫人に依頼されたら、断れないのも当然か。


 日本の創作なんかでは、ギルドって独立した組織になってる事が多いけれど、こっちではお役所の一部らしい。


 特に冒険者なんて、武装したチンピラみたいな人達も多いから。そういう連中の管理の為に、冒険者ギルドがあるそうな。


 その割には、ギルドの内部も汚職だのなんだのがあるようですが。


「……リレアさんも、大変ですね」

「わかってくれます!?」


 ちょっと共感を示しただけでこれだ。とはいえ、あなたも私に対して色々やらかしているのを、忘れないでくださいね。私は一生忘れない。




 最近の私は、人形作りが主な仕事だ。あれから一度に八体作り、ニコラ、オラツィア、パオラ、ロッサーナ、サーラ、テレーザ、ヴァレンティーナ、ジータと名付ける。これで、使える頭文字は全て使い終わってしまった。


「また元に戻って、Aの頭文字の子をたくさん作るか……」


 そのうち、名前のストックがなくなりそうだ。


 今回のニコラ達は全員金髪碧眼。この辺りの組み合わせを考えるのも面倒になってきた為、八人全員一緒の色だ。


 顔立ちや髪型もほぼ一緒なので、見分けが付かない。早く制服制度を取り入れるべきか。


 ただ、フォリアペエル様からは『もう少し待ってちょうだい!』と言われてる。どうも、制服のデザインに力を入れているようだ。


 巻き込まれた裁縫の神マジェノシーア様も大変だな。


 尻ポケットに入れたスマホがピロリン。


『私も楽しんでいるから、大丈夫よ』


 あ、そうなんですね。それはようございました。いい制服、期待しています。


『任せてー』


 うちの神様達って、気さくだよなあ。




 現在、畑部屋は薬草、野菜を育てるだけでなく、何と植林をして木材も育てているそうだ。


「いつの間に?」

「木工を覚えた子達が、率先して……」


 木工って事は、ニコラ達の誰かか、もしくは八人全員か。彼女達には、試しに木工、糸紡ぎ、機織り、裁縫をインストールしている。


 次の子達には、ガラス、鍛冶、焼き物など火を扱うスキルをインストールする予定。その為にも、新しい子達を早く作らなきゃ。


 畑部屋は作業場にもしていたんだけれど、最近はニコラ達の作業場にもなっているようなので、私はちょっと遠慮している。


 こうなると、自分専用の作業部屋が欲しいな。離れとまでは言わないけれど、増築で部屋を増やせないだろうか。


 そして、こういう事を考えると、大体スマホがピロリンする。


『おう! 連絡が遅くなって悪いな! おめえさんのカスタマーレベルがまた上がったぜ! 喜べよな! それに関連して、敷地レベルも上がったってよ。で、主神様からのありがたーいお申し出により、ログハウスを無料でグレードアップするぜ! 今からやっから、そこ動くなよ!』


 ええと、ペヴィチュダ様じゃあ、ないよね? これも、お買い物アプリの中の人なのか? あそこ、バリエーション豊富過ぎるな!


 それはともかく、がめつい少女女神にしては、珍しくタダでグレードアップとか。


「痛!」


 金だらいが落ちてきた。続いて、スマホが震える。


『いい加減、不敬じゃと学ばぬか、愚か者め。わらわは真摯に行動するものには、神の恩寵を与える事にしておるのじゃ。最近のそなたは、真摯に行動しておるからのう』


 まるで今まではそうじゃなかったような言い方ですねー。いえ、もう何も言いません。


『敷地レベルが上がった故、敷地が広がったのと、ログハウスの外観もちと変わったぞよ。後で確認しておくがよい。ついでに、今そなたがいる畑部屋を出ると、神像がおいてある部屋にも変化があるが、驚くでないぞ?』


 何だろう。少女女神のニヤニヤ顔が目に浮かぶ。ただし、その姿は幼女のままだ。

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