第166話 要望があるかもしれない

 ガラス製作と焼き物作りに関しては、うちの子達に頑張ってもらおう。最近、このパターンばっかだな。


 とはいえ、私が始めないと神様達が目覚められないようなので、仕方ない。


「いっそ、木工とか鍛冶とかも、人形用アプリ、入らないかなー」


 一応、独り言を呟いておく。


 途端に震えるスマホ。


「はーい」

『横着するでないわ! そなたが熟練度を稼がねば駄目じゃと申したじゃろうが!』


 言ってたっけ?


「大体さあ、それ自体がおかしくないですかねえ?」

『なぬ?』

「ルチアとセレーナに関しては神様から頂戴した子ですけどー、他の子達に関しては私が作った子達ですよー」

『それがどうしたのじゃ?』

「私が作ったといえば、我が子も同然、うちの子達にとって私は親も同然」

『う、うむ?』

「なら、子が稼いだ熟練度を、親が一緒に受けてもおかしくはないですよ」

『そ……そうかのう?』

「そうなんです! 日本のゲームなんかでは、契約している従魔……従属している魔物が稼いだ経験値は、契約者にも入るんですよ! 何故! 人形だけが私に熟練度が入らないのか!?」

『お、おう?』

「それに、人形達の熟練度が私に入れば、私が何人もいるようなものになる! そうなれば、各神様に流れる力も今よりずっと多くなるでしょう!」

『何じゃとおおお!』


 うわ、うるせ。でも、今までで一番食いつきがよかった。なら、攻めるべき点はここ!


「考えてもみてください。私が一人で熟練度上げるには時間的な限界があります。熟練度が一定のレベルにまでなれば、それなりスキルで製作する時間は短縮されますが、それでもやはり一人でやる事です。どうしたって複数人でやるよりは効率は落ちます。ですが、人形の熟練度が私に入ればどうなるでしょう? たとえ私に入る熟練度が半分だとしても、人形の数が十、二十と増えたなら? 一人でやるよりもずっと多くの熟練度を集められます」

『な、なるほど』

「ですから、人形の熟練度を私にも入るようにする事は、私だけでなく神様方の為でもあるのです!」

『よし、わかった! 人形用に熟練度をそなたと連結出来るようにするものを作ってやろうぞ!』

「ありがとうございまーす!」


 やった。言ってみるものだ。これで一人ちまちま作業しなくても、対応するスキルをインストールした人形を用意すればいい。


 それに、陶磁器もガラス器も、作ってもらえれば助かる。木工だって、家具や建物も早く作れるようになるかもしれない。


 その為にも、アプリを買って、人形を大量生産だ。




 ここで一つ困った事が。人形の名前だ。


「もうMまで来たから、残りは……八?」


 QだのWだの、名前の頭文字に使われていない文字もある。それで、残り八。しかもZは二つしかない。


 最後まで使い切ったら、またAに戻るのも手だろう。いっそ、その時作る人形は全て同じ頭文字の名前にしようか。


「でもなー。数が多い文字ならいいけれど、Zみたいに二つしかなかったら大変だし」


 その場合は、微調整しよう。臨機応変。大事な事だ。


 次に、これももうバリエーションがなくなった髪色と瞳の色。全員黒髪も、ちょっと見た目が重い。


 なら、全員金髪か赤毛にするかというと、それもそれで目立ちそうだ。


「でも、髪色と瞳の色を統一しちゃうと、見分けが付かなくなるし」


 実は、今もかなり危険だ。ルチア、セレーナ、ネーラ、アガタ達辺りまでは何とか見分けが付くのだが、それ以降となると大分怪しい。


 今はルチアかセレーナが常に側にいてくれるので、見分けは彼女達がしてくれる。


 とはいえ、いつまでも頼りっぱなしというのもどうなのか。いっそ名札でも付けてもらおうか。


 日本語で書いておけば、周囲にはわからないのでは?


「でも、そのままダンジョンから出ちゃうと、多分邪神の目にとまる」


 どうしたものか。


「何か、見分けられるもの……見分け……」


 あ、制服はどうだ?


 一緒に作る子達は、同じ制服を着用する。その子達の中で、髪色や髪型を微妙に変えて、見分けが付くようにする。


 でも、制服のデザイン、どうする?


 悩んでいたら、スマホがピロリン。フォリアペエル様からのメールだ。


『ちょっとおおおお!! 何か面白そうな事考えてるじゃなあい!?』


 ……いつも思うのだが、神様達は気軽にこちらの考えやぼやきを聞きすぎではなかろうか。


『細かい事は気にしちゃ駄目よ? そ・れ・よ・り・も! 何? その制服って!』


 食いついたのは、そこかー。


「これ、音声で言っても伝わる……んだよね?」

『大丈夫よ、問題なしー』


 とんでも機能は、こういう時に助かる。


「制服っていうのは……簡単にいうと、所属を示す、揃いの服の事ですね」

『揃いの服? お仕着せって事かしら。全員一緒なの? つまんなくない?』

「ええと、お揃いの服を着る事で、連帯感が増すと言いますか……」


 本当かどうかは知らんが。少なくとも、私が働いていた会社では、そんな事を言っていた記憶。


 女子の間では、ダサくて不評だったけれど。


 私のこの考えは、フォリアペエル様に漏れなかったらしい。


『なるほどねえ。ちょっと面白そうだから、こっちにも一枚噛ませてちょうだい』

「はい?」

『お買い物アプリに、制服を入荷させてみるわ!』

「えええええええ!?」


 いや待って。制服がどんなものか、よくわかっていないのでは?


 あ、でもお仕着せって言葉は出て来たな。って事は、どこかのメイドさんのような服になるとか。


 ……それはそれで、可愛いかも。




 制服も頭に入れつつ、人形の増産に勤しむ。専門の子達が出来るまで、焼き物やガラス工芸、糸紡ぎに機織り、裁縫は全てストップ。


 それと、もう一つ考えなきゃいけない事が。


 人形達は、基本寝食が必要ない。とはいえ、動くのに魔力を使うので、体を動かさず省魔力状態にする時間は欲しいらしい。


 その時間、ベッドで寝ているかと言えばそんな事はなく、椅子に座って目を閉じているだけ。


 その場所が、現在は神像部屋のみなんだが、人数が増えてきたのでかなり窮屈だ。


 つまり、人形達の為の部屋の増設、もしくは離れの増設が急務という事。


 ただの離れなら、百億だ。フローリングで、水回りその他は一切なし。ただ、離れだとログハウスと渡り廊下で繋がるとわかったので、設備などはいらないと思う。使うのなら、ログハウスのものを使えばいいし。


 とはいえ、人形は寝食が必要ない。代謝もないのでトイレや風呂も必要ないのだ。


 という訳で、人形用の離れを買おうかと。お値段も、カスタマーレベルが上がったせいで、割引率も上がったし。


 チャージ金額も、アガタ達とルチア達のおかげで、大分溜まっている。そっちの人形も、作らないとな。


 となると、やはり広めの離れは必要。


 ポチろうとして、しばし手を止めた。買う前に、ルチア達に相談してみよう。何か、部屋に関する要望があるかもしれない。 

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