第163話 まだわからないんだが

 スキルを得ると、スキルに関する知識も得られる。ガラス作りなら、ガラスの素材と、その素材が大体どこにあるかがわかるのだ。


 では、焼き物の場合は?


「当然、土のある場所がわかるんだけど……またダンジョンか」


 陶器と磁器では使う土が違うようだけど、どちらもダンジョン産の土がいいそうだ。


 それに、色々魔物素材を加える事で、焼き上がりの色や固さ、強度などが上がるらしい。


 なら、最高の素材を集めて最初からいいものを作ろうではないか。




 木工や人形作りをお休みして、洞窟ダンジョンにやってきた。陶磁器に使う土は、ダンジョンの深い場所にある採掘場で採る土がいいらしい。


 地上でもあるそうだけど、この国では陶磁器は流通していない。つまり、土があっても誰にも見向きされていないという事。


 となると、自分で採りに行かないといけない訳だが、私はダンジョンを出る訳にいかない。邪神に居場所を特定されてしまうから。


 となると、後は人形達に採りに行ってもらうという手がある。でも、今のところ動かせる子、いないから。


 という訳で、洞窟ダンジョンまで自分で採りに行く事になった。当然、一人ではない。


「当然です」

「マスターがお一人で行かれるなど、あり得ません」


 ルチアとセレーナが、大変いい笑顔だ。二人に大反対されたので、一緒に来ている。


 スキルによれば、焼き物に向いている土があるのは、一度行った事がある階層だった。


 何と、アンデッド階層。あそこで土の採取か……


 まさかと思うけれど、アンデッド成分が含まれているとか、ないよな?




 アンデッド層は、相変わらず塩水がよく効く。とうとう塩をルチアとセレーナに私、彼女達が魔法で作り出す水に塩を入れ、それを操ってアンデッドを一掃していった。何てお手軽。


 塩水が掛かったアンデッドは、あっという間に消えていった。残されたのは、小さな魔石のみ。


 これは後で統合して大きくしておこう。人形の記録媒体用にいくらでも必要だから。


 アンデッド層での稼ぎ方……宝箱探しも、二人が風の魔法で簡単に見つけ、かつ手元まで引き寄せてくれた。


 相変わらず数が多いので、ログハウスに戻るまで魔法の鞄の中に入れておく。


「さて、土はどこかな」


 周囲を見回すも、墓石だらけで土を採取出来る場所はない。いや、墓石の下は土だけれど。


 これもスキルの恩恵だが、見るだけで焼き物に適した土かどうかがわかる。その目で見ても、墓地の土は焼き物には適していなかった。当然だな。


 周囲を見渡してみても、どこまでも続く墓地だけ。さすがアンデッド層。前来た時も、そんな事を思ったような覚えがある。


 さて、魔石を拾い、宝箱を手に入れたら、更に奥へ。


 前回は納骨堂らしき建物の辺りで探索を終えたけれど、今回はその奥へ行く必要があるかもしれない。




 墓地を抜け、丘を越えると前回見た建物が見えてくる。あの中は宝箱があるので、回収していく予定だ。


 そして、丘を越えるとまたしてもアンデッド。骨はまだいいけれど、腐った死体は臭うので困りものだ。


 とはいえ、こちらはバリアで臭いも遮断しているからいいのだけれど。そして、ルチアとセレーナが塩水を操ってあっという間に周囲のアンデッドを消していく。


 今度は魔石も風でまとめて足元に引き寄せてくれた。拾うのが楽でいい。


 周辺の宝箱と、建物内の宝箱を回収して、更に奥へ。丘が連なるこの層は、越えても越えても丘で、墓地が広がるばかり。


 前回は、どこから下に行ったんだったか。


「階層の中が、少し変わってますね」

「え? そうなの?」


 ルチアの呟きに、つい声が出る。いや、階層の中身が変わるなんて、初めて聞くし。


「おそらくですが、階層の魔物を殲滅する事を複数回行ったからではないでしょうか」

「複数回……」


 私が来たのは、前回の一度きり。という事は、その後ルチアとセレーナで何度かこの階層のアンデッドを殲滅してるって事か。


 うちの子達って……


「前に来た時、あの丘はなかったはずなんです。でも、丘があります。その奥に、墓地ではない何かがありますね」


 墓地ではない、何か? って、何だ?


 悩んでいても、わかる訳がない。なら、実際に行って見てみよう。二人が一緒なら、危険な事もないだろうし。


 三人で丘を越えると、眼下には集落があった。アンデッド階層に、集落?


 しかも、建物はそこまで傷んでいない。まるで、今にも中から住人が出て来そうなほどだ。


「あんな集落、あったっけ?」

「見た覚えはありません」

「今回、増えた要素の一つでしょう」


 要素。それも、ダンジョンの主とやらが動かしているのだろうか。


 三人で集落に入ってみる。当然のように、人影はない。こんなところに人が住んでいたら、あっという間にアンデッドの仲間入りだ。


 集落の奥には、一際大きな建物がある。集落の長の家だろうか。周囲の木造家屋とは違い、石造りの頑丈そうな建物だ。


「……これだけ、浮いてる」

「そうですね。周囲の建物とは、建築様式から違うような……」


 そう。集落の他の建物は、全て木造で草葺きの屋根だ。デザイン面ではばらつきはあるものの、建築様式としてはまとまっている……んじゃないかな。


 素人だから、よくわからないけれど。


 でも、この奥の建物だけは、周囲とは別だとわかる。


「ダンジョンの中に、いきなり出現した集落だから、こういう事もあるのかな」


 ここが普通の集落跡地とかなら、ちょっとしたミステリーと思うところだ。でも、実際にはダンジョンの中であり、自然に見えても「誰か」が作った場所である。


 そう考えると、何となく理解出来るか。


「それはともかく、土を採取出来る場所を見つけないと」

「マスター、この建物、持って帰りませんか?」

「え?」


 セレーナが、いきなりとんでもない事を言い出した。ダンジョンの中にある建物を、持って帰る?


「……出来るの? そんな事」

「試すだけなら、いいんじゃないでしょうか」


 確かに。試して駄目なら別にいい。どうしてもこの建物が欲しい訳ではないから。


 でも、何故試すのか。


「アガタ達に貸し出したキャンピングカー、似たようなものが他にもあるといいんですよね?」


 まさか、この石造りの家を、余所のダンジョンに持って行って宿屋に使えと? さすがにその発想はなかったわ……


 妙なところで感心していたら、ルチアが提案してきた。


「宿として使うのなら、中を確認してからにしましょうか」

「そうね。それでよろしいですか? マスター」


 セレーナの確認に、無言で頷く。確かに、どんな内装になっているか、知っておいた方がいい。


 いや、この建物を持って帰れるかどうか、まだわからないんだが。

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