第162話 ぼったくりが得意だよな

 若様ツアーの他に、これまで同様奥様ツアーも敷地に来ている。


 これまでは菓子パンが目当てだったけれど、今の目当ては食堂で出すスイーツ。


 これも、一階と二階では微妙に中身を変えている。さすがに貴族の奥様お嬢様方に、安っぽいスイーツは如何なものかと思って。


 一階で出しているのが三種類ほどのプチフールなら、二階で出すのはしっかりサイズのケーキだ。


 でも、女性のスイーツへの情熱を甘く見ていた……


「どうして一階で出しているあの愛らしいケーキが、二階ではいただけないのかしら?」

「まあ、あれは一階専用ですって? なら、私も一階に参ります。冒険者がいて危険? なら護衛と一緒に参りますわ!」

「二階で食べるスイーツも美味しいのだけれど、一階のあの小さいケーキも美味しそうで……」


 つまり、二階でも一階同様プチフールが食べたいと。


 仕方がないので、二階でも注文可能にした。その分、ネーラ達は大量のスイーツを作る羽目になるのだが。


 もう、シェフパティシエになれる子、作った方がいいかな。




 ホーイン密林から見て、遙か西、国境沿いにあるダデシデインの谷と呼ばれるダンジョン。そこに、アガタ達四人を派遣して少し。


 そろそろ向こうのダンジョンに慣れた頃だろうか。


 気になったので、通信で聞いてみた。


「ベアトリーチェ? そっちの様子はどう?」

『はい、マスター。こちらは問題なく目的を遂行しています』


 アガタの感覚のみの報告も困るけれど、ベアトリーチェの四角四面な報告もどうなんだろう。


「問題ないのはいい事だけれど、客はいる?」

『はい。本日も二組の宿泊客がいます。マスターから言われた通り、一泊二十万イェンと提示しましたが、文句を言わずに支払ってくれました』


 あちらでも、宿泊料は前払いだ。後払いにすると、踏み倒されかねないから。


 まあ、アガタ達なら逃がさないと思うけれど。


「それと、そちらで何か面白い素材は見つかった?」

『面白いかどうかの判断は、私には出来ません』


 これがベアトリーチェだ。質問の仕方が悪かったな。


「狩った魔物は、全てチャージに回している?」

「はい。ログが残ると聞きましたから、マスターが手元で確認出来ると思い、全てチャージに回しています」


 後でチャージのログを見ておこう。


「人手が足りない事は、ない?」

『……問題ないと思います』


 待て。今の間は何だ今の間は。


 でも、このままベアトリーチェに聞いてもらちがあかないだろう。本当なら、自分の目で確かめたいところだけれど。


「今度、ルチアかセレーナにそちらに行ってもらいます。問題があった場合は、彼女らに報告して」

『わかりました』


 ルチアとセレーナなら、問題があれば速やかに解決してくれるでしょう。無理そうなら、こちらに報告するだろうし。


 何にしても、ダデシデインの谷での出張宿屋がうまくいくようなら、他のダンジョンにもうちの子達を派遣しよう。


 その前に、キャンピングカーかダンジョン内に安全を確保出来る建物を置けるようにしないと。




 食堂が盛況になれば、当然手が足りなくなる。とはいえ、一気に八人増産したから大丈夫だろうと思ったんだけど……


「開店時間が長くなりましたから、八体全員の疲労が凄くて……」


 ちなみに、ネーラは熟練度のおかげで、調理に関する疲労度は大分軽減されているらしい。


 エンマ達八人の子達も、熟練度が上がれば何とか……でも、その前に倒れられたら困る。


 今の敷地で、あの食堂を期間限定とはいえ閉める事になったら、冒険者から突き上げを食らいそうだ。


 いや、冒険者だけじゃないな。ツアー参加者からもクレームがきそう。特に奥様お嬢様方から。


 色々考えて、ネーラと相談した結果、人数を増やす事にして、三交代での交替制にする事にした。


 相変わらず全てを統括するのはネーラなんだけど、ネーラの下に三人置いて、彼女達がそれぞれのチームの統括を行うようにする。


 で、三交代制にして、その分開店時間を長くするようにした。冒険者の方から、もう少し開店時間を長くしてもらえないかという要望があったらしい。


 狩りをして帰ってくるのに、閉店時間に間に合わない事も多いんだとか。そういう冒険者に限って、腕がよくホーイン密林の奥まで行けるらしい。


 当然そういう冒険者は稼ぎもいい。ぼったくり相手としては最高だ。


 なので、彼等からの要望は無下にしたくない。その為の交替制、深夜営業だ。


 というか、人形の数をもっと増やして、二十四時間営業にしてもいいかもしれない。その場合は三交代ではなく、四交替かそれ以上にしないと。


 ともかく、また人形を作らなくては。スキルの熟練度が上がってるので、一度に十体作れるようになったのは、助かる。


 前のように一体ずつ作っていたら、必要な数が揃うのにかなりの時間が掛かるだろうし。




 人形作りを進めつつ、ガラス製造も進め、また木工の熟練度も上げるべく、家具を作る事にした。


 人形作りにはいくつか待ち時間があるので、その時間を家具作りに充てている。ガラス製造は、家具作りの一環だ。


 まずは簡単なテーブルや椅子から。スタンダードな形で作り、作った側から代理販売で売り飛ばす。


 さすがに素人に毛が生えた程度の出来だから、単価は安い。それでもいい。熟練度を上げる為のものだから。


 テーブルや椅子も、数を作るとそれなり熟練度が上がり、仕上がりもよくなっていく。


 そうなると価格も少しは上がる訳だ。こういうのも、やる気に繋がるんだな。


 最終的には、家具だけでなく小屋……というか、魔法の鞄に入れて持ち運び出来る「宿」を作りたい。


 いつまでもキャンピングカーじゃあ、アガタ達も大変だろうし。


 その為にも、側だけでなく中身も充実させないと。水回りはもちろん、ベッドやテーブル、ソファなど。


 ダンジョンの中だけど、それなりに居心地のいい宿屋を作りたいじゃないか。野望は尽きない。


 それから、食器。そろそろ焼き物の皿やカップが欲しい。今使ってる皿は木製だ。これはこれで風情があるけれど、やはり陶磁器の皿が欲しい。


 焼き物に使う土は、どこで手に入るのだろう。そんな事を考えていたら、尻ポケットに入れたスマホが震えた。少女女神からの通話か。


「はい」

『でかした!』

「はい?」


 何事?


『そなたのおかげで土の神が目覚めたぞ!』

「土の神? ……あ」


 陶磁器を作りたいって思ったからか。いや、思ったくらいで目を覚ますとは。


『このまま、ロルドーとゴネイドの力を回復してやってくれ!』


 ロルドー様は木工の神だったか。じゃあゴネイド様が土の神? 何というか、音が微妙な名前だな。


「とりあえず、陶磁器を作れるように、スキルか魔法が欲しいです」

『うむ。すぐにゴネイドに話を通してやる。気合いを入れて作るのじゃぞ』

「はーい」


 私だって、陶磁器は欲しい。カトラリーも欲しいな。その辺りは鍛冶仕事か。


 ともかく、まずは家具を作って木工の熟練度を上げておかないと。




 その日の終わり、自室にてスマホを眺めている。


「お買い物アプリのスキル欄、結構増えたな」


 持っているものも、持っていないものも。たまには覗くのもいいかもしれない。


 ついでにチャージの残高を確認しておく。


「ん? 何か、計算より多いんだが……あ。アガタ達の分か」


 ダデシデインの谷に送り出したアガタ達は、地下五十階層で簡易宿屋をやりつつ、周辺で狩りをしているという。


 そこで狩った魔物のチャージ分が増えているのだ。にしても、結構な金額だな。


 ダデシデインの谷の五十階層は、殆ど冒険者が来ない場所だという。来ないというか、来られないと言った方がいいのか。


 ダデシデインの谷は全体的に岩肌が続くダンジョンだそうだが、五十階層付近に出てくる魔物は虫や蛇、カエルなどが多いそうだ。たまに大きなネズミが出るくらいで、獣っぽい魔物は少ないらしい。


 そして、この虫と蛇が厄介な魔物なんだとか。毒を持っているので、狩るのが面倒かつ厄介な魔物だそうだ。


 うちの子達は、基本毒は効かないし、バリアを持っているから攻撃が通らない。そういう意味では、狩り放題の場所なのかも。


 おかげで楽に焼き物のスキルを購入出来るよ。少女女神が絡んでるせいか、お値段がなかなかお高い。


 本当あの女神、ぼったくりが得意だよな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る