第4話 世の中そんなに甘くないってか
一段落したところで、ちょっと悩む。魔法を買ったはいいけど、どうやって使えるようにするんだろう?
購入画面には「お買い上げありがとうございました」しか出ていないし。
困った時には、アプリだ!
疑問の答え、異世界の歩き方に載ってましたー。魔法はダウンロード販売なので、買った後所定の手順でインストールすれば使えるようになるんだってー。
魔法やスキルって、アプリなのか……
お買い物アプリには、確かにダウンロードの画面がある。そこを開くと、購入済みの初心者セットがあった。
「これをダウンロード……っと。インストールは自動で始まるんだね。本当、アプリかよ。てか、タブレットにダウンロードした魔法って、タブレット上でしか使えないとか、ないよね? あ、使い方が書いてある。何々?」
魔法は、インストールしてしまえば脳内で選択するだけで発動可能……だって。マジかー。
あ、スマホの方にもインストールされてる。そっか、同期されてるんだっけね。
全部のインストールが終わるまで、体感で一分程度。早いね。んじゃ、庭で魔法を試してみようか。
おっと、その前に買ったばかりの衣類に着替えよう。Tシャツとジーパンでいいね。足元はスニーカー。うん、楽ちん。
玄関を出て、敷石を歩いてみる。木戸の前で、早速魔法を使ってみた。
「まずは、バリアをオン!」
ちょっと声に出してみたくなるのは、オタクの性です……
「おお!」
見えないけれど、体の周囲を何かが包んでいるのがわかる。これが、バリアかー。
それにしても、タブレットやスマホにインストールした魔法が、何故私の脳内で使えるのやら。
便利なんだけど、それってスマホと私が繋がってるって事なんじゃ……
怖いから、これ以上は考えない。何せここは、魔法がある不思議世界なんだから。その割には、スマホもタブレットもあるけれど……
あれだ! きっと、ラノベなんかでいう、魔導具なんだ!
「んじゃ、気を取り直して浮遊、オン!」
重ねがけが出来ないと、困るんだけどなー。でも、出来た。良かったー。
浮遊は、地上二十センチくらいのところに浮く魔法だった。本当に浮遊だね。
移動も出来る。行きたい方向にちょっと体を傾けるだけで、歩くくらいの速さで移動出来たよ。これで、柵の向こうに出られる!
怖いダンジョンだっていうけど、やっぱり外には出てみたいでしょ。だって異世界だし。
バリアに包まれたまま、木戸から外に出る。何か不思議な感じだけれど、楽だからいいや。
ふよふよ浮きながら柵の周囲を見回ってみる。見事に密林。足元にも色々な根やら蔓状の植物やらで、普通に歩いていたら絶対に転けるわ。
そして、そこらの木や草に、値段が浮いて見える……これって、査定をしてるって事?
どうやら、査定はパッシブらしい。試しに、近場にあった枝を折ってみる。枝の先には小さな木の実。
これ、一個六千円って査定が出てるんだけど……高くね?
「これをチャージしてみると……出来た」
チャージは、スマホを現物にかざすだけ。すぐにお買い物アプリのチャージ画面が開いて「チャージしますか?」って文字とアイテム名、金額が表示される。
そこで「はい」を選択したら、木の実が消えて、お買い物アプリのチャージ金額に六千円の表示が出た。
そうかー、こうやってチャージするのかー。でもこの調子でチャージしていけば、結構簡単に稼げるんじゃね?
よし、気合い入れてお高い草を探してみよう。
周囲を見回しながら進む。査定って、凄いのな。目の前の木ですら、値段がつくよ。しかも、一本二万だって。そこそこいくね。
それよりも、木から直接生えている草が高かった。一株三十万。マジで? 見間違いじゃないよね?
こういう時、査定じゃなくて鑑定ならお高い理由も教えてくれるかもしれないのにー。
鑑定の魔法って、あるのかな? 後でお買い物アプリを見てみようっと。
バリアと浮遊を使って家の裏側まで来たら、何だか頭が重い。あれ? どうしてだ?
「うう……目を開けてるのも辛い……」
ダメだ。これ以上進むのはヤバい。かといって、木戸まで戻れる気がしないんだけど。この柵、敷地の持ち主である私でも越えられないそうだ。
ログハウス、目の前にあるのにー。
「あ、そうだ」
いい魔法があるじゃん。帰還を使ってみよう。
「帰還を、オン」
ここでもつい口にしてしまうのは、もう癖だね。
一瞬目の前が暗くなったと思ったら、外に出ていたはずなのに、ログハウスの中、それも寝室に戻っていた。
不思議な事に、足元のスニーカーが消えてる。多分、玄関にあるんだろうな。
「ありがたい……もう今日は無理……」
頭の重さが、そろそろ頭痛に変わってきた。大きなベッドにダイブしたら、そのまま意識がログアウトしそうになる。
もしかしたら、意識していなかっただけで疲れていたのかも。
眩しい光に目を覚ましたら、知らない部屋だった。
「いや、違う。ログハウスの寝室だ……」
昨日までの事は、夢ではなかったらしい。いっそ夢でしたーって言われた方が良かったかもね。
スマホを確認すると、朝の七時。こっちでも、時間表記は変わらないのかな?
とりあえず、昨日は疲れたまま寝てしまったので、お腹が空いている。食料品が届いてすぐ、魔法を試してそのまま寝たしね。
ほぼ一日食事なしだった訳か。そりゃお腹も空くわ。キッチンに下りて、何か食べよう。
トーストとベーコンエッグ、コーヒーに牛乳を入れて朝食終了。昨日風呂に入れなかったので、シャワーを済ませてすっきり。
髪を拭きながら、タブレットを眺める。
「昨日の成果は百三十五万になったし、次は何を買おう?」
そう、昨日採取したものをチャージした結果、百三十五万円になってました。草とかキノコとか蔓とかばかり採取していたのになあ。そんな金額になるなんてびっくりだよ。
そして、私には今、猛烈に欲しいものがある。あるかなー? あるといいなあ。そして買える値段だといいなあ。
「ん?」
何やら、お買い物アプリにNEWマークが付いている。何だ?
開いてみると、おめでとうございますの文字。
「えーと、何々? 女神ポイントが一定以上になりましたので、お客様のカスタマーレベルがアイアンになりました?」
……このアプリ、カスタマーレベルなんてあったんだ? ってか、女神ポイントと、連動してるとは。
ますます謎だな、女神ポイント。アプリにも、女神ポイントなる項目は見当たらないしねー。こちら側には教えないつもりかな。
「えー、アイアンレベルになられましたお客様には、新しい商品をご提供出来るようになりました……マジで!?」
おお。もしかして、初回ログインボーナスを使い切ったから、アイアンレベルになったとか?
それはともかく、新商品だよ新商品!
「んー、ほうほう、新しい魔法やスキルが入ったのか」
そう、新商品は新魔法と新スキルでした。これまた一個がお高いのな!
「でも、今の私には百万を出す余裕がある! ないかなー? ステータスステータス……あった!!」
本当にあった。ステータス表示スキル。詳細を見ると、使用者の現ステータスを表示可能。レベルが上がると、他者のステータスも表示する事が出来る……だって。お値段、百二十五万。
幼女女神……本当にこっちの足元、見てるんじゃないのか? 疑惑は深まるばかりなんだけど。
それはともかく、売っていて買える値段ではあるのだから、買うに決まっている。
「ステータス表示スキル、ポチッとな!」
これで自分のステータスを確認出来るー。そういや、初心者セットは魔法とスキルのセットだったけど、単体スキルの場合もダウンロードするんかね?
ダウンロード画面には、確かにスキルの項目があり、ダウンロード可能表示が出ている。よし、これをダウンロードっと。
その間に、アプリ「異世界の歩き方」でスキルを調べる! スキルのレベルとか、気になるからね。えーと、何々?
「スキルは使用回数に応じて経験値を取得し、一定値に達する事でレベルが上がります。スキルによって、必要経験値や使用ごとに入手出来る経験値が違いますので、注意してください……か。んじゃ魔法は? ……魔法は購入したものをインストールする事によって、脳内詠唱で使用出来ます。また、魔法にはレベルは存在しません。購入した魔法の威力を上げるには、使用者の魔法関連のステータスを上げてください。ステータスは行動またはアイテムによって上がります?」
使えば使う程レベルが上がって使い勝手がよくなるのがスキル。使用者のステータス次第で威力が上がるのが魔法。
で、そのステータスを上げるのは行動……運動すると体力系が上がったり、勉強すると知力が上がったりする……のかな?
あと! アイテムでもステータスアップ出来るってさ! お手軽なのは、いいよね!
ついでにお買い物アプリでステータスアップ系のアイテムを見てみたけれど、一番低い上昇数のものでも一個五百万越えでした……
チクショー。世の中そんなに甘くないってか。
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