第2話 これだけはグッジョブだ
「ん……ここ……」
気がついたら、床に寝転んでいた。床……フローリングで、木の香りがめっちゃする。
ベッド以外で寝落ちしてたのかな……
「って、違うよ!! どこ!? ここ!」
起きてみたら、見た事のない場所。壁の感じや天井から、ログハウスっぽい。
いやいやいや、さすがに私のアパートはログハウスじゃないよ!?
そういえば、意識を失う前おかしな事に巻き込まれて……
そこまで考えた時、隣でピコンという電子音がした。スマホの通知音?
「何だろ……あ」
床の上には、スマホとタブレットが置かれている。どちらの画面にも、メールの着信を報せるメッセージが出ていた
とりあえず、スマホのメールアプリを開くと、一通、未読のメールが。
開いたら、あの幼女女神からだった。
『無事辿り着けたようじゃの。これからそこで暮らし、採取や尋ねてくる人間相手に商売をして稼ぐがよい。そなたが稼げば稼ぐほど、わらわの力が回復するのじゃ。詳しくは、その板に入れた「異世界の歩き方」というアプリを参照せよ。では、さらばじゃ』
「さらばじゃ、じゃねーよ!!」
怒りにまかせて、スマホを床に叩き付けるところだった。危ない危ない。
とりあえず、その「異世界の歩き方」なるアプリを見てみよう。読むならスマホよりタブレットだな。私、電書はタブレットで読む派なんだ
インストールされているアプリはどちらも同じ……っていうか、これ同期してるな。どちらからでも同じアプリにアクセス出来る訳だ。
画面には、設定、時計、カレンダー、メールアプリ、お買い物アプリ、それと異世界の歩き方。
まずはこの「異世界の歩き方」だな。
「えーと、何々……現在地はこの世界で最も危険と言われるダンジョン『ホーイン密林』の奥地です?」
ダンジョンってえと、あのモンスターとかがたくさん出て来て経験値を稼ぐのに適した危険な場所の事?
大抵地下に行くものだから、いまいち苦手なんだよね。でも、ここは密林がそのままダンジョンになってるんだって。
ふと耳を澄ますと、遠くから何だか奇妙な鳴き声が響いているような気がするー。
って、どういう事なんだよこれは!!
「よりにもよってどこに落としとんじゃ、あの幼女女神いいいいいいい!!」
確かに危ない場所に送るって言ってたけどさ! 本気で世界で最も危険な場所に送るとか! 頭湧いてんのか!
じゃああの遠くから響いてくる鳴き声は、野生動物じゃなくてモンスターか何かのもの? 襲われて死んだらどうしてくれるんだ!!
「あ、一回死んでるのか」
自覚はないけど、多分あのショッピングモールで事故でも起こったんだろう。火災とか?
それに巻き込まれて、多分死んだんだろうなー。苦痛とか残ってなくて良かった。
死んだ事に対する未練とかないのは、向こうにあんまり思い入れがないからかもしれない。
友達も少なかったし、親との関係も希薄。うちは妹がいればいいって家庭だったから。
放任されていたのは、それはそれで楽だったけど、子供の頃は寂しかったな……
仕事も、ブラックよりの会社だったし、何より普通の事務職だ。生活の為に働いていただけだしー。自己実現? 何それおいしいの?
これといった趣味もなかったし、休日は体を回復させるのに精一杯だったしね。ああ、思い返すとすごい枯れた生活……
まあ、図らずも第二の人生がスタートしてしまったのだから、それなりに生きてみようか。とはいえ、利便性が悪かったらあの幼女、呪うからな。
という訳で、歩き方アプリの続きを読んでみよう。何せよくわからない世界だ。情報を知るのは大事な事。
まずは、幼女女神が言っていた邪神との因縁。
邪神っていうのは昔、あの幼女女神ルヴンシールに仕えていた神の一柱シュオンネの事だって。あの幼女、そんなご大層な名前だったんだ。
シュオンネは、いつしか大それた望みを抱くようになった。つまり、主神ルヴンシールに取って代わり、自分こそが世界を統べる主神になるというもの。
そして、とうとう主神たるルヴンシールを倒し、その座を奪い取った……と。
幼女女神……配下に裏切られて負けたんかい。だから幼女なんだよ。
そう思った途端、上から何かが振ってきて、頭に当たった。
「あた!」
がらんがらんと音を立てて床に落ちたのは、金属製のたらい。
……何で、こんなものがここに? ってか、もしかしてこれ、今私の頭の上から落ちてきたの?
タブレットに、メール着信のピコンという電子音。メールを開くと、幼女女神からだ。
『わらわに不敬を働くと、神罰がくだるぞよ?』
何が神罰だ! てか、どっからか見てるの!? あの幼女女神。
くそう……まあいいや。続き続き。
ルヴンシールを倒したシュオンネだったが、彼女の思い通りには行かなかった。
シュオンネは主神になるには能力が足りなくて、世界を支える力に乏しかったんだとか。
そこで、ルヴンシールをあのガチャガチャに押し込め、その力を剥ぎ取りつつこの世界を乗っ取ろうとしていたんだってさ。
ガチャガチャで出てくるのは、スキル。それらは全て、ルヴンシールの力をシュオンネが歪めて作り出したもの。
スキルを得た人達がこの世界で使い続けると、シュオンネの力がアップするって仕組みらしい。
て事は、あの場にいた人達が手にしてたカプセルが、そのスキルか……あの悪態吐いた人は、いいスキルが出なくてイラついていたのかな。
そのシュオンネ、力が強くなりすぎると、制御出来なくなって世界を壊す可能性が高いそうだ。何せ元が能力の足りない女神だからね。
あそこにいたのは、結構な人数だったはず。その全員がシュオンネの用意したスキルを使ったら……大分ヤバくね?
「ああ、だから幼女女神が邪神を倒さないといけないのかー。マジで世界の危機とかどんだけよ。てか、どこの神話だ? これ」
とりあえず、私がやるべき事は幼女女神の力を回復させる事……らしい。その方法も、ここに書いてある。
「えーと……現金もしくは素材をスマホもしくはタブレットでチャージする事により、女神ポイントが増えます? 何だ? 女神ポイントって。あ、説明があった」
何でも、この女神ポイントが増えると、あの幼女女神が力を取り戻していくんだって。
「女神の司るものの中には『商売』があり、ものの売り買いをする事により、女神が力を取り戻せるのです?」
しかも、私は幼女女神と縁……いわゆるパスのようなもので繋がっていて、私が売り買いすると、ダイレクトに幼女女神が力を取り戻す事が出来るんだってさ。
ものの売り買いで得られる力なら、邪神に気付かれないからってのも大きい。どうやら、邪神は幼女女神が司るものの中に、商売が含まれている事に気付いていないんだって。仕えていたのに? 本当かな……
そして、幼女女神の力が戻ると、買える品が増えたりここの敷地がレベルアップしたりする……らしい。
敷地のレベルアップって、何だろう?
「……これも書いてあるんだね。至れり尽くせり」
敷地のレベルアップは、単純に敷地が広がる、配置出来る施設が増えるというもの。
そういや、まだ外を見てなかったね。今まで床に座り込んでアプリ見ていたよ……
「よっこら……しょ?」
あれ? 軽く立てる。このところ、膝に痛みがあったから、立ち上がるのがきつかったのに。年を取るってやーねー。
見下ろした足は、見覚えのあるものよりも細い。細い? どういう事?
改めて手を見てみる。こちらも細くて綺麗な指だ。私の手、グローブみたいにがっしりした手だったはずなのに。おかげで握力が強くてなあ。
って、それは今はどうでもいいんだよ!
「鏡、鏡はどこ!?」
今いるのは、LDKだ。私はソファの隣に座り込んでいたみたい。扉は二つ。キッチンの横にあるのと、リビング部分の横にあるの。
鏡があるとすれば、洗面所。水場だ。だったら、キッチンの横の扉がそっちに通じてるはず!
扉を開くと、やっぱり洗面所がある。鏡もあった! つか、洗面台は日本で使っていたやつと似てる! じゃあ水道は使えるな。
おっと、今は鏡鏡。早速覗くと、そこにいたのは見た事もない顔だった。
「……誰? これ」
少なくとも、私の顔じゃない。それに、私は四十歳だ。こんな若くないよ。
鏡の中には、日本人とも外国人ともつかない、不思議な顔がある。割と美人。いや、美少女。これは嬉しい。
見下ろした体つきも、前の私とはまるで違う。こんな細い体じゃなかった。骨太でがっしりした体型は、コンプレックスだったんだよなあ。
幼女女神、これだけはグッジョブだ。
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