異世界でぼったくり宿を始めました ー稼いで女神の力を回復するミッションー

斎木リコ

第1話 覚えてろよおおおおおおお!!

 ふと気付いたら、真っ白い空間にいた。天井も床も白。見渡す限り白、白、白。遠近感仕事しろ。


 白一色だと、奥行きも何もないね。


 ……はて? どうして私、こんな変な場所にいるんだっけ?




 本日、私は新しく出来たというショッピングモールに来ていた。住んでる場所から電車とバスを乗り継いで、ちょっとした小旅行気分だ。


 平日だけど、仕事は休み。というか、有休をもぎ取った。今も携帯には会社から電話がかかってくる。


 誰が出るか。少しは人がいない事に慣れやがれ。


 毎度毎度人を便利に使い倒しおって、こっちも生活がかかってるから大きな事は言えないけれど、有休は労働者の権利だからね! しっかり行使させてもらいますよ。


 大体、うちはブラック一歩手前すぎるよ。もう三年くらい人が足りないって言ってるのに、そのうちそのうちって誤魔化して人員補充する素振りすら見せない。


 だから私だって有休が使えず溜まる一方だったんだから。ここらで消化しないとね。


 そんな事を考えてモールの中を歩いていた。はず、なんだけど……


 気がついたら、ここにいた。どういう事? こんなだだっ広い白い空間、モールの中にあったっけ?


 右を向いても左を向いても、下を見ても上を見ても白。そして、目の前には長い人の列。私がいるのは、最後尾らしい。


 この列、何の為のものなんだろう? いや、前に並んでいる人に聞けばいいのかもしれなけれど、そういうの苦手なんだよね……


 どうせ並んでいればいつかはわかるでしょ。待つのは苦手じゃないし。


 そんな事を考えつつ、のほほんと待っていたら、それは突然起こった。


「ふっざけんじゃねえよ! もっといいもん、出しやがれ!!」


 前の方で、誰かが騒いでいる。あ、いつの間にか列が短くなってた。ちょっと横にそれて前の方を見たら、男の人が何かを蹴ってる。


 あれ、かなり古いタイプのガチャガチャ?


 蹴られたガチャガチャは転がって、カプセルが入ってる部分が割れてしまった。中身、飛び出しちゃってるよ。


 そうしたら、前に並んでいた人達が我先にとそのガチャガチャに群がっていく。


 カプセルを拾う姿は、まるで何かに取り憑かれているよう。うひい。何か、怖い。


 蹴った男の人は集まった人達を蹴散らそうとしていたけれど、一人、また一人とカプセルを手にして消えていく。


「ちっ! しけてやがんな」


 悪態を吐いた男性……ガチャガチャを蹴った人は、手に四つのカプセルを持っている。あんなに拾ったんだ。


 そのうち一つを開けると、目の前で男性が消えた。消えた!? どうして?


 呆然としている間に、周囲にあれだけいた人は一人もいなくなっていた。残されたのは、壊れたガチャガチャと私だけ。何だこれ?


 そっと近づいたら、ガチャガチャから何か聞こえる。


「……けよ」

「はい?」

「早う、わらわを助けよ!!」


 ひい! ガチャガチャが喋った! しかも、助けろとか言ってる!! と思ったら、何かガタガタ震えてるんですけど!?


「何をぼーっとしておる! 早うこれを壊さんか!!」

「うぎゃああああ! なにこれ怖いいいいいいい!!」


 何なのこれ!? どっきり動画!? だったらもう止めてよ! 十分怖いよ驚いたよ!!


「早くせんかああああああ!」

「いやあああああああああ!」


 もう本当に怖くて、ガチャガチャの足を掴んで力の限り放り投げた。だって、側にあったらやだし。


「*※☆△◆○@%$#ー!!」


 声にならない声って、こういう事を言うのかな。それが響きつつ、ガチャガチャ本体は二、三度バウンドして、転がっていく。


 ……壊れた、よね? 恐る恐るガチャガチャの方を見たら、何やらぼわんと煙が上がっている。え……ガチャガチャって、爆発するもの?


 呆然としていたら、煙の中から人影が出てきた。いや、どっか出てきたあの人影。


 その人影は、あっという間に私の目の前までやってきた。


「何という乱暴な事をするのじゃああああああ!!」

「ひぎゃああああ!!」


 人影は、ちっちゃな女の子。四、五歳くらいかな。長い金髪は足下まで伸びていて、邪魔くさそう。目はおっきくて空の色。顔立ちは随分と整っている。


 でも、こんな子、さっきまでの列にいなかったよね? 一体、何が、どうなってるの?


 混乱する私の目の前で、古めかしい衣装を身につけた女の子幼女は自分の体のあちこちを見ている。やがて、眉を八の字にした。


「なんともまあ、見事に縮んでおるのう。おのれ邪神め。ふん捕まえて、ボコボコにしてやるのじゃ!」


 何か知らんけど、幼女が拳を握りしめても可愛いだけだと思うな。


「そこな女! ……ふむふむ、名は五条あかりというのじゃな。ではあかり」

「ひゅえ!?」


 なんで、わたしの、なまえ……


「わらわは女神じゃ。人間の名前ごとき、見ればすぐにわかるわい。手荒な真似だったとはいえ、わらわを助け出した事は褒めてつかわす。褒美として、わらわが関わる世界へ送ってやろう」

「へ? 送る?」

「そうじゃ。いつまでもこの狭間にはおられんぞ? ほれ、そろそろ消滅しかかっておるわい」


 女の子が指差す方向を見ると、白一色の世界の端が黒くなっている。何? あれ。


「あの黒が消滅じゃ。このままじゃと、そなたもあれに巻き込まれて消滅するぞ? 何せここは、邪神が妾の力を使って作り上げていた、狭間じゃからな」

「何それやだー!!」

「じゃから、わらわの世界に送ってやるというのに」

「どうせ送るなら、元いた場所に送ってよ!!」


 この年齢で、見知らぬ土地で位置から出直せとか、鬼か! あ、幼女だった。


 その幼女は、残念そうな顔で首を横に振っている。


「それは無理じゃ。何せそなたは、元の世界では死んでおるからの」

「え?」


 この子、今、何て言った?


「死んだのじゃ。何が原因かは知らんが、先程までここにおった連中、全員な。じゃから、魂だけになってこの狭間に誘導されたのじゃろう。邪神に利用されたのよ」

「じゃ……しん……?」


 そういえば、さっき目の前の幼女がふん捕まえてボコボコにしてやるって……


「おお。わらわを先程のけったいな箱に閉じ込め、力を奪い続けておった存在よ。わらわが復活したからには、もう勘弁ならんがな!」


 小さい体でふんぞり返る幼女。でも、そんなのどうでもいい。


 私は、死んだ。さっきまでここにいた人達も、みんな。


 これは、夢なの? それとも……


「さて、詳しく話す暇はないようじゃの。そろそろそなたを送るとするか」

「え?」

「わらわを助けた礼は、他にも用意しておいてやる。それとな、わらわの力を回復する為の手助けをさせてやろう」

「それはいらない」

「即答するなあああ! わらわが力を取り戻さねば、そなたがこれから行く世界とて危うくなるのじゃぞ!?」


 何だそれ。送ると言いながら、回復する為の手助けが礼とか。ふざけてんの?


「ともかく、わらわとそなたの間には、縁が出来た。これを使い、そなたがこれから行く世界で稼ぐ事により、わらわの力が回復する。心してぼったくるがよい」


 いや、言い方。ぼったくるってのはどうよ? つか、なんで私が稼ぐと幼女が回復するの? 訳わかんない。


「詳しくは、そなたの持っておる薄い板に入れておいた。金儲けの為に少々危険な場所へと送る故、気を付けるように」


「え? ちょっと待って! 今、危険な場所って言ったああああああああ!?」


 話してる最中、足元に穴が開いて落ちていく! 何これえええ!?


「くれぐれも、稼ぐのを忘れるでないぞー。それと、きちんとわらわの祭壇を作って祈りを捧げるのじゃぞー」


 ふざけんなコンチクショー! 幼女女神めええええええ! 恨んでやるからなああああああ!!


 覚えてろよおおおおおおお!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る