vs.黒飛竜 〜『黒天無双』〜



キュオオオオオオオンッ!!



 王都に響き渡った魔物の咆哮に即座に反応する。


 王都の人々は「ん? なんの音だ?」などと困惑気味に呟いてキョロキョロとしているが、俺は『音』のする方に駆け出した。


「マスター! 『変わり』なかったですね」


「ああ。急ぐぞ!」


 全速力で移動しながらノルンに言葉を返す。


 午前10時。おそらく最初に到着した黒飛竜(ブラック・ワイバーン)の位置も同じ。



ドゴォーン!


 

 遠巻きに炎系の魔法が放たれた事を視認する。


(イレギュラーを警戒しすぎたか?)


 王都に入ってからの数々のイレギュラーに初動は誤った事を理解する。充分に『帰ってもいい』案件だが、ひとまずは『今日』を終えてみてからだ。


「ロ、ローランさん!?」

「この人が『剣聖』!?」

「よそ見するな! さっさと畳み掛けろ!」


 現場に到着すると、見た顔が俺の名前を呼び、俺には不釣り合いの称号を叫ぶ者と、『現場』に集中している者達がいる。


 目の前には3匹の黒飛竜(ブラック・ワイバーン)。


 怪しく光る赤い目。見るからに固そうな鱗に黒々とした翼と鉤爪。剥き出しの牙は鋭利で、獰猛さが見てとれる。


「《火槍(フレア・ランス)》!!」

「《風狼(ウィンド・ウルフ)》!」

「《水竜吐息(ウォーター・ブレス)》!!」



キュオオオオオオオン!! 



 壁の上から放たれた魔法の数々。ダメージ自体はあまりないように見えるが、着弾した魔法は確かに黒飛竜(ブラック・ワイバーン)の足を止めている。


(ハハッ! クエスト発注は正解だ! いいぞ!!)


 思考もそこそこに王都を囲む壁から一気に跳躍する。



「抜刀術……『黒天』、《居合斬り》!!」



グザンッ!



「我流……《狼牙(ウルフ・ファング》!」



グジュッ! グザッ!!


 

 最速の剣術で首を切り落とし、その首を足場にして威力特化の『突き』を放ち、2匹の首に風穴を開ける。



ガッ……ドゴォーン!



 切り離された首達が王都の壁に激突し、巨大な胴体は人形のように地面に落ち土煙をあげる。


「な、なんだよ……」

「は、半端じゃねぇぜ!!」


「「「「うぉおおおおお!!!!」」」」



 歓声が沸き立つが、まだ『次』がある。



キュオオオオオオオン!!


 俺は立ち止まる事なく、壁から飛び降り屋根伝いに最速で駆けていく。呼吸を整え、『気』を練り直す。


「あと……、22……」


 残りの数を口ずさみながら、現場に到着するとやはり足止めは成功しているようだった。


 ここはなかなか優秀だ。

 視線の先には1列に並んだ黒飛竜(ブラック・ワイバーン)が4匹。



「《龍尊天斬》……」



ザザザザッパーーー!!!!


 『竜人の剣士』の奥義。

 クロロの【煉獄焔】を斬った剣技。


 巨大な飛ぶ斬撃で全ての首を斬り落とし、地面にも絶大な傷跡を残して『次』へ向かう。


「「「うぉおおおおお!!」」」


 背中に歓声が聞こえるが、まだゆっくりする暇はない。俺は王都中を駆け回りながらひどく感動していた。


「マスター! 『黒天』はかなり相性が良さそうですね!! ふふっ! かっこよすぎて、ノルンはもうたまりません!!」


 ノルンはふわりと宙に浮いたまま俺と並走する。ノルンは全身を脱力する事で、俺を追尾する事が可能なのだ。


「『黒天』との相性はかなりいい! でも、それよりも、魔導師達に協力を求めたのは大正解だ!」


「……ふふふっ! マスターらしいです!」


「……? 上手く機能してる。俺1人じゃやっぱり限界があった。数10秒がこれほど結果に作用するんだ!! このまま行けば絶対に上手く行くぞ! ノルン!」


「もちろんです!」


「『次』に着く! ちゃんと待ってろ!」


「はい、マスター!」


 ノルンの返答を聞き終える前に高く跳躍する。


「《白虎乱舞》……、《虎空》!!」


 乱れる複数の高速の斬撃を浴びせて駆け抜け、動きを停止させた7匹の黒飛竜(ブラック・ワイバーン)。

 

 そして高速で上下に剣を振るい『仕上げる』。



ザッパァーーン!!



 切り離された首から血が噴き出し、地面に落ちる前には即座に駆け出す。



「「「「オォオオオオオ!!!!」」」」



 想像以上に魔導師達が来てくれてる。


――使えそうなヤツには俺からも声を掛けとくからよ!


 ヨルムの顔が目に浮かび頬が緩む。


(この人数なら『あれだけ』の報酬じゃ足らないかもな……)


 苦笑しながらもありがたく思う。

 『誰か』と一緒に守る王都は、一味違う物がある。


 『次』に到着すると、見覚えのある後ろ姿が見えると、自然と頬が緩んでしまう。


「《重力墜落(グラビティ・コラプト)》!!」


ズゴォーーーーンッ!!!!


 到着した先に待っていたのは1人だけ。


「ガッハッハ! 遅かったな! ローラン!!」


 ヨルムは楽しそうに満面の笑みを浮かべて俺の名前を叫ぶ。王都の壁の外側にはポッカリと穴が空いている4つの地面と飛び散った血飛沫が見えた。


「ハハッ!! 流石だ! 俺は『次』に行くからな!」


「おう! こっちは警戒しておく! 任せろ!」


 ヨルムを残し、即座に駆け出す。


「ハハッ……」


「どうしたんですか? マスター」


「いや、ごめん。不謹慎だよな? でも、何か嬉しいんだ。ヨルムは本当に俺を信じてくれてたんだって……」


「ふふっ。全てはマスターだからこそですよ!」


 ノルンは綺麗に微笑む。

 上手く関係は築けたと思っていたけど、ヨルムの行動はこれまでになかったものだ。


 『今まで』とは違う。

 ヨルムの笑顔も俺を見る瞳も。

 どこか父さんに向けられる笑顔がダブって見えた。


(クロロとは違う……)


 100年経とうが、あの『目』を忘れたわけではない。ノルンやシャル、アリス。この3人以外の人を心から信頼する事が怖かった。


 どこかで線を引き、踏み込まないように、踏み込まれないように対処して来た。もう裏切られないために。あの絶望を味合わないように。


 でも、そろそろ越えるべきだ。

 自分が引いた線の向こう側に……。



「ノルン。急ぐぞ!」


「はい! マスター! 残りは王宮側ですね!」


 もう一段階ギヤをあげる。


(残りは7匹だ……!)


 逃げ惑い混乱に満ちた王都。


「あと少し待っててくれ……」


 小さく呟き、最後の戦地へと向かった。


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