襲撃準備。ギルドにて…… ②
ヨルムは回復薬(ポーション)を手に取りながら、「すげぇ量だなぁ」と感心したように声を上げると、
「まぁよくわかんねぇが、『これ』、近々、『使うんだろ』? いいぜ? それ買い取らせて貰うからな!」
ヨルムはニカッと笑みを浮かべて大声で言い放った。
「し、知ってるのか……?」
「寄付する」としか言っていないのに、『近々使う』と言い切るヨルムに思わず呟いてしまう。
「ん? 『何を』だ? なんかあるのか?」
「え、あぁ、いや……」
「ローラン! 俺は人を見る目はあるつもりだぜ? 俺は冒険者達の憧れの的! 『グランドマスター』だしな!」
「……俺は別に憧れてないけど?」
「ガッハッハ! 相変わらず、ドライだなぁー! まぁ……、何と戦ってるかはわからねぇが、『底の見えない』お前が、こうして『弱い者』のために準備してんだろ?」
「……」
「魔力量という基準はローランには通用しない。何をどうして戦っているのかも、俺にはわからねぇ。……魔力はねぇ。それは間違いねぇんだけど、俺はお前に勝てる気がしねぇんだ」
「か、買い被りだ……。俺はそんな大した、」
「ガッハッハ!! 誰にもなびかないで有名なウチのNo.1受付嬢が、おま、!!」
ヨルムの言葉を遮るように、ミラが横からヨルムの顔を殴った。グフッと顔が歪んだヨルムと腰の入ったいいパンチのミラに呆気に取られる。
「ロ、ローランさん! ギルマスもこう言ってますので、これは買取と言う事で! それから、今日の魔物の素材もすぐに『このデリカシーのない人』に鑑定させますので!!」
「え、あ、うん……」
ヨルムの観察眼に感嘆していたら、ぶん殴られた。よくわからないけど、2人が仲良しなのは充分に伝わってくる。
「テメェ! ミラ!! 横からぶん殴りやがって!」
「いいから早く鑑定して下さい! ローランさんが待ってるでしょ!?」
「俺はサポートしてやろうと、」
「要りません! 少し黙って下さい!」
「知らねえぞ? この顔をよく見てみろ? ボーッとしてたらあっと言う間に、誰かに取られちま、」
「ヨルムさん……、もう1発いいですか?」
「や、やめろ!」
2人の掛け合いを見つめながら頬が緩む。
(本当にいい環境なんだな)
そんな事を考えながら気を引き締める。俺は正直、人命の事しか考えていなかった。建物に対する被害は多少は仕方がないと割り切っていた。
でも、こうして良い環境に触れる事で、人それぞれの居場所を壊してしまう事も、「守れていない」ことなのかもしれないとぼんやりと考えた。
「全部守れるように頑張らないとな……」
小さく呟くとノルンがひょこっと顔を出す。
「ふふっ。マスターなら出来ます! ノルンは知ってますよ?」
ノルンの言葉に小さく笑って1度瞬きをして応える。
「マスター! さっき気がついたのですが、もう『挟んで』もいいのではないですか!?」
キラキラ輝く翡翠の瞳。
(確かにここまでは確定でいいか。いや、これ以上はきっとないよな……?)
2人で言い合いに夢中になっているミラとヨルムを見つめながらそんな事を思い、1度瞬きをすると、ノルンはパーッと笑顔を浮かべ、俺の顔を両手で掴みキスしようとしてくる。
(ば、バカ!! 帰ってからだッ!!)
ちゅ……
不自然に動くわけにも行かない俺は、なす術なくそれを受け入れる。ノルンの柔らかい舌が俺の口に割り込み、口内に侵入する。
(クソッ……。《栞(ブックマーク)》)
心の中で呟き、ノルンの胸が淡く光ったのを確認し、ノルンの舌を甘噛みする。
「んんッ……! マ、マスター……」
トロンとしたノルンの表情に顔に熱が襲う。顔を隠すようにして濡れた唇を拭き取り、2人の様子を伺うが、未だに言い合っているようでホッと胸を撫で下ろす。
艶やかな唇を尖らせ、
「まだ足りません……」
などと呟くノルンをキッと睨み、確定した事を振り返る。
アリスとフェンリーとの邂逅。『黒天』の性能とヨルムやミラとの関係性。回復薬(ポーション)の準備。
2日早く到着した恩恵は充分にあった。
でも、あと最後の1つだけ。
「ヨルムさん。回復薬(ポーション)と今日の魔物の素材を買い取ってくれてありがとう。その買取金額で1つクエストを発注したいんだけど……」
ヨルムはピタッと言い合いをやめると驚いたようにニヤリと微笑み、ミラは少し顔を赤くした。
「ミラ、なかなか脈があるんじゃねぇか?」
「や、やめて下さい! ギルマス!」
正直、話を一切聞いていなかった俺は首を傾げるが、
「そんなに顔を赤くして、発注したい『大金』クエストってのはなんだ? ローラン」
ヨルムはニカッと笑い言葉を促した。俺はもう一度、キッとノルンを睨み、ふぅ〜っと深く息を吐き口を開いた。
「明日、王都を囲む壁の上で1日を過ごすクエストだ。Bランク以上の『魔導師』と『盾役(タンク)』たち、限定でお願いしたい!」
「へっ?」
「……えっ?」
ヨルムとミラは同時に首を傾げた。
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