襲撃準備。ギルドにて…… ①
「おう! ローランさん!! 今日もすごい荷物ですね!」
「ローランさぁーん! 私をパーティーに入れてくださいよぉ〜」
「今日、隣の酒場で一緒に飲まないですか?!」
冒険者ギルドは今日も盛況だ。
「あ、ああ。考えておくよ」
引き攣った笑顔で言葉を返しながら受付に向かう。
明日には黒飛竜(ブラック・ワイバーン)の襲撃を控えている。
『黒天』の動作確認と、頭の身体の同調を高めた。同調と身体の筋力はまだまだではあるが、『黒天』は想像以上だった。
刀の『剣気』は俺の愛刀『紅鶴』の方が上ではあるが、切れ味単体で見れば同等かそれ以上の物がある。
何より……、
刃文以外が真っ黒でシンプルにカッコいい!!
討伐したのは『D〜C+』の魔物。
王都周辺にはそれほど強力な魔物がいないのだ。換金時にギルドに顔を出すと、身なりの変わった俺にギルド内は沸き立ち、すっかり一目置かれているような雰囲気だった。
どうやら、俺が魔物を討伐している所を目撃した冒険者が、
「あの人はヤバい! もしかしたらスキルを複数持ってるかもしれないぞ!!」
などと騒いでいたようで、「赤モグラ」の件も相まってすっかり話に尾ひれがつき、『この国1番の剣の使い手』、『剣聖』のスキル持ち、などと、無茶苦茶な話になっているようだった。
『魔力0の最強剣士』
王都ではそんな名前で呼ばれているようで、嬉しいような恥ずかしいような少し複雑な心境だ。
俺は『最強』と呼ばれるような人間じゃない。
『剣聖』なんてもってのほかだ。
ただ、人より『時間』があり、そのほとんどを『剣』に捧げ、『それなり』の『力』を身につけただけ。「ふふんッ」とドヤ顔のノルンに苦笑し、声をかけてくれる冒険者達に人見知りする。
幼い頃は人見知りなんてする事はなかったのに、「魔力ゼロの劣等人」と冒険者達に虐げられた記憶がどうしても顔を出す。
賞賛される事に慣れてない俺は、「何か裏があるのでは?」などと勘ぐっては自己嫌悪に陥る。
冒険者達の波を掻き分けながら受付に到着する。
「ローランさん!! お待ちしてました! 今日も奥にどうぞ?」
受付嬢のミラの弾ける笑顔にホッとするが、仄かに赤く染まった頬と潤んだ瞳に、歩いて行こうとするミラの手をとる。
「ミラ。大丈夫か? 少し顔が赤いようだけど? 体調が悪いのか?」
「えっ、あ、いやいや! だ、大丈夫ですよ? こ、『これは』そういうのではなくですね、えっと、その、」
ミラは俺が手を掴んでいる所を見つめて、アワアワとしていると、ノルンが服の裾を少し摘む。
「マスター! 手!」
ぷっくりと頬を膨らませているノルンと未だに顔を赤くしているミラにハッとして手を離す。
「あっ、ごめん。急に腕を引っ張って!」
「い、いえ!! それはむしろ……!」
「ん? まぁ大丈夫ならいいんだ。あんまり無理しないようにな?」
「は、はぃ。さ、さぁ、どうぞ?」
ミラはやっぱり少しぼーっとしているように見える。受付は色んな冒険者を1日中相手しなければならないから重労働だ。
疲れが溜まっているならちゃんと休んだ方がいいと思う。
「マ、マスター? 急に女性の手を取るのはどうなのでしょう?」
「……急に風呂に押しかけるのは? 夜中、ベッドに忍び込むのは……?」
「……! そ、それは! マスターとノルンの仲ですので!!」
ミラに聞こえないように、ノルンに小声で声をかけるが、ミラはクルリと振り返り、「ん?」と首を傾げる。
俺はニッコリと笑顔を作りながらとぼけると、
「ふふっ。ギルマスもすぐに来ると思うので少しお待ちください! すぐにお茶を入れますね?」
ミラは部屋の扉を開け入室を促した。俺は笑顔のままチラリとノルンに視線を向けて釘を刺すと、ノルンは「ハ、ハハッ……」と顔を引き攣らせていた。
部屋に通されると俺は背負っていた魔物の素材と昨日、買い漁っておいた回復薬(ポーション)を机の上に置くが、ミラはパチパチと瞬きをして首を傾げる。
「これを『寄付』するよ! 回復薬(ポーション)が600ある。『非常時』に使ってくれるとありがたい。使い方はギルマスに任せるから」
「え、あ、いやいや! こんな大量の回復薬(ポーション)を寄付なんて、頂けないですよ! 600……本って50万ベルくらいじゃないですか!!」
ミラは驚嘆したように手を口に当てる。
「いや、そう言わず! 『必要時』にすぐにみんなに行き渡るようにしておいて欲しいんだ。クエストをこなしていないFランクの俺の、魔物の素材を高く買ってくれるお礼だから!」
「い、いえ、でも……。これ……」
ミラは顔を青くして回復薬(ポーション)を見つめる。
正直、明日は討伐に回るので、回復薬(ポーション)を配り歩く暇はない。もし怪我している人がいれば、非戦闘員の冒険者達にサポートしてほしいのだ。
(明日、黒飛竜(ブラック・ワイバーン)の急襲があるって言っても信じられるはずないしな)
何度かスキル【栞】について説明した事もあるが、証明する術がない。戻れるのは俺とノルンだけで、未来を教えた所で、「教えた事」が原因で未来が変わる可能性もある。
スキル【栞】は使う本人しか理解できない。
つまり俺とノルンにしかわからないのだ。
バンッ!
「ローラン! 今日も『大量』だってな?」
乱暴に扉を開けながらヨルムが大きな声を上げるが、机に並べられた回復薬(ポーション)に首を傾げた。
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