クロロ一行のダンジョン攻略 ④



―――最果てダンジョン 20階層 vs鎧熊



 ミザリーはタイミングを伺っていた。


(早く、早く、早く……!! 早くして下さい!!)


 ミザリーはローランのノートに書かれていた鎧熊(アーマーベア)の特性と弱点に光明を見つけていたのだ。



▽▽▽▽▽


鎧熊(アーマーベア)『A+』


魔法が効かない。クロロの【煉獄】は試す価値あり。

高い防御力で剣でも有効打を与えられない。


脇の部分が柔らかい。クロロの剣? ミザリーの弓?

傷口から内部に【煉獄】。

もしくは、剣か弓で内部を破壊。


口からの内部破壊は困難。噛み砕かれる恐れあり。


ゴーンの陽動が鍵。メリダはゴーンに集中回復。

クロロが剣で陽動、ミザリーの弓で脇を狙う?


視界の確保は魔光(マジックライト)でミザリーの負担を減らし、魔力はメリダに供給してもらう。


その場で状況判断。冷静に対処すれば問題なし。


△△△△△



 この記述をみたミザリーはゴクリと息を飲んだ。


(黙っていれば、クロロ様の魔力切れを狙えるかもしれません……)


 ミザリーだけが知っている。


 順調だと勘違いしているゴーンやミザリーは、次の魔物の特性を聞いてくる事は無くなっていたし、クロロは最初からそんな事は気にしていなかった。


 これは大きな賭けであったが、初めの『煉獄竜』で後頭部を焼かれたはずの鎧熊(アーマーベア)は、焼かれ続けてもなお、活動を停止しない。


(早く、早く魔力が切れて下さい! クロロ様!)



 ミザリーはタイミングを伺い続ける。

 何の補助魔法も使わず、何の助言もせず、ただここから逃げ出すタイミングだけを伺い続けている。




※※※※※



 クロロはだんだんと重くなっていく身体に頭がおかしくなってしまいそうだった。


(何で……、何でこのクソ熊は死なない……?)


 最強の炎。選ばれた自分に与えられた絶対の『力』。全てを焼き尽くす『地獄の焔』。頭を焼かれてもなお動き続ける鎧熊(アーマーベア)と、身体を駆け巡る倦怠感。


(《身体強化》が弱まっている? いや、俺の魔力は無限にあるはずだ! このクソ熊の攻撃か……? 早くしやがれ、『虫ケラ』が!)


 クロロは思考を巡らせながら、駆け寄ってくるゴーンに悪態を吐く。身体の不調など、初めての経験だった。


 クロロはチラリとメリダに視線を向けるが、何やら倒れているようだし、ミザリーは荷物を背負ったまま、こちらをジッと見つめ、一切動こうとしない。


(ミザリー……!!)


 バカで回復にしか能がないメリダの離脱よりも、何かを待っているようなミザリーの表情は見過ごせない物だった。


(逃げようとしてるのか……? どうなるか教えてやったのに……?)


 クロロの頭にはこちらを振り返ることもなく去っていくローランの姿が浮かぶ。


 『もう』誰も自分から去ることは許さない。どんな理由があったとしてもそれだけは容認できない。


「ふざけるなよ……。お前も俺をバカにしやがるのか?」


 小さく呟きミザリーを見据える。脈打つたびにズキンッズキンッと頭が割れそうな激痛が走る。


(クソ……クソがッ……なんで、なんで俺が! 神に選ばれた俺が……)



ガクンッ……



 膝が抜け、全身に力が入らない。



グオオォオオオオン!!



 すっかり全身に火が回った鎧熊(アーマーベア)が咆哮を上げ、腕を振りかざす。


「クロロ!!」


 こちらに駆け寄りながら叫んだゴーンの表情は、とても焦り、ひどく慌てた様子だ。


(誰が……、誰を心配してやがる……?)


 視界の端にクルリッと背を向けたミザリーが映る。


(誰が……、誰から逃げようとしてる……?)



 全てがスローモーションになり、自分の時間だけが引き伸ばされたような感覚に包まれる。



――じゃあな、クロロ。もうお前に頼る事は1つもない。


 ローランの去り際の清々しい表情と言葉が鮮明に蘇り、これまでの自分の『我慢』が蘇る。



「うぁあああああ!!!!」



 感情が爆発し、眼前に迫る『死』の予感に身体の内側が熱くなる。


(俺は『アイツ』を這いつくばらせるまで死ねない……)


 確固たる意志と明確な憎悪がクロロを支え、導く。クロロは重い身体と剣に顔を顰めながら、自分の炎に焼かれる鎧熊(アーマーベア)の右腕に向かって、剣を振るった。



グワァアアアアッ!!



 禍々しい黒炎に包まれる剣と自分の右腕。



グザンッ!!


 ボトッと音を立てて落ちた鎧熊(アーマーベア)の燃える腕。斬った感触すらなく、クロロの頭の中にはローランに対する憎悪しかなかった。



グオオォオオオオンッ!


 クロロは鎧熊(アーマーベア)の絶叫を聞きながら、驚愕の表情のゴーンと目が合うと、ニヤリと口角を吊り上げた。


 黒炎に包まれたままの右腕でゴーンの胸ぐらをグッと掴み、鎧熊(アーマーベア)に投げつけたのだ。



「へっ……? はっ……? ク、ロロ……?」



 ゴーンの間抜けな表情に更に口角を吊り上げ、なけなしの力を振り絞り、気を失っているメリダを拾い上げ、逃げ出したミザリーの後を追う。



「クロロォオオ!!!!」



 ゴーンの大絶叫に振り合えることもなく、ドクンドクンと脈打つ心臓の音に耳を澄ます。



ガキンッ!!



 背後からは、鉄と鉄が激しく響き渡る音が響くが、クロロは上層への階段を駆け上がっている。大きな荷物を背負った後ろ姿を視認すると、その逃げだした足を目掛けて剣を投げつけた。



グザッ!!



「くっ、アアアアアア!!!!」


 ミザリーの絶叫を聞くと同時に、クロロの視界はグワンッと回り、そのまま前のめりにドサッと倒れた。


「……ん……、えぇッ!? クロロ? クロロ!! 《完全回復(パーフェクト・ヒール)》!!」


 意識が無くなる直前にメリダの声が鼓膜を揺らす。


(ククッ。俺は『やっぱり』選ばれてる!)


 何がどうなったのかはわかっていない。


 だが、あの窮地から脱して自分が生きている事。もう死ぬことがない事を理解し、未だに燃え続けている『右腕』から伝わる『万能感』に、更なる『力』を神から与えられたような気がしていた。




ーーーーーーーー


【あとがき】


次話「襲撃準備 ①」です。


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