オーグス公爵の陰謀



 王宮の一室に入るなり、オーグス公爵は苛立ちを撒き散らすように、部屋に控えていた執事に怒号を浴びせた。


「あのクソ女が!! 私を舐めよって!! おい! ちゃんと『計画通り』に進んでいるんだろうな!?」


「何も問題ありません。オーグス様」


 青い髪に漆黒の瞳の執事は無表情で答える。


「ふんッ! 調子に乗りおって『無能の聖女』め! 潔く私の妻になれば解放してやろうと言うのに、バカな女だ! 容姿しか取り柄のないくせに私に逆らうなど、絶対に許さんぞ!」


「……」


「実権を握り次第、隷従の首輪をかけて裸で王都を散歩させてやる……! 殺して下さいと言うまで陵辱し、私の偉大さを教えてやるからな!!」


「……」


「なんとか言わんか! このクズ! 誰が拾ってやったかわかってるのか!!」


 オーグスは手元にあったグラスを執事に投げつけ、それが執事の綺麗な顔に直撃する。目元からツゥーッと血が流れるが、執事は無表情のまま頭を下げる。


「今の私がいるのはオーグス様のおかげでございます。申し訳ありません」


「ふんッ! 相変わらず気味の悪いヤツだな!」


「申し訳ございません」


「お前のようなゴミを拾ってやるほど私は慈悲深いのだ! それなのにあの女は……!!」


「もちろんでございます。オーグス様の偉大さがわからぬとは聖女は気が触れているのかもしれません」


 執事の言葉にオーグスは満足そうに微笑みふぅ〜っと長く息を吐いた。


「……それで? 『設置』はすんでいるのか? 『暗殺者』の手配は?」


「滞りなく……」


 オーグスはニヤリと口角を吊り上げ、王宮の窓から王都を見下ろした。


(あと『3日』で全てが私の物に……)


 心の中で呟きながらペロリと舌なめずりをすると、アリスを陵辱している妄想を繰り広げる。


(絶対に後悔させてやるぞ、アリスリア・ガーネット……)


 オーグスは先程のアリスの対応に苛立ちを募らせながらも、計画通りの作戦に落ち着きを取り戻し、自分の腕の中で泣き叫ぶ聖女の姿に笑みを抑えられずにいる。


「クククッ……。そうだ!! 薬を用意しろ。中毒性のある非合法の薬があっただろ? それで薬漬けにして、無茶苦茶にしてやるのも楽しそうだ!」


「……承知いたしました」


 執事は目線を伏せ軽く頭を下げると少し遠慮がちに口を開く。


「オーグス様。『暗殺者ギルド』への支払いが30億ベル。『召喚の魔石』が10つで10億ベル。オーグス家に潤沢な資産があるのは重々承知しておりますが……」


「フンッ! いざとなれば領民から税を巻き上げれば……、クククッ。そんな事をせずとも、この王国を掌握すれば、そんな物どうとでもなるわッ!」


「……承知致しました。支払いを済ませておきます」


「それよりも……!! どこにも『漏れて』ないだろうな? ここまできて露見すれば全てが水の泡だぞ?」


「はい、もちろんでございます。ぬかりはありません」


 執事は小さく微笑むが、オーグス公爵は窓から王都を見下ろしているだけであり、その表情に視線を向ける事はない。


「『エル』。王都の裏路地でボロボロのお前を拾ってよかったぞ? 『コレ』が終わればお前にも、それなりの地位を用意してやる」


「……恐悦至極でございます」


 エルと呼ばれた青髪の執事はニッコリと微笑み綺麗にお辞儀するが、オーグスはそれを鼻で笑う。


 3年前、王都の裏路地で倒れていた『エル』。


 オーグスは、野犬のような鋭い眼をしたエルに、利用価値がありそうだと拾い上げたが想像以上の働きぶりには驚いた。


 どんな仕事も眉一つ動かさず、自分の意のままに働き続ける姿はは、まさに忠犬。


 オーグスは王国内での地位を駆け上るために、汚れ仕事や諜報活動など、表に出せない仕事を全てエルに押し付けてきた。


 オーグスにとって知られてはいけない事は全てエルがこなして来たのだ。


 それも今回の『計画』で全てが終わる。


(バカが! ……クククッ。『これ』が終われば消されるのに、嬉しそうに笑みなど浮かべよって)


 オーグスは王都の街並みを見下ろした。


 その瞳にはボロボロに崩れ去った王都が写っており、それを立て直す救世主にして時期国王は自分しかいないと確信しながら卑しく笑みを浮かべた。



ーーーーーーーー


【あとがき】


次話「宿にて……」です。


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