第29話 朝チュン
ちゅんちゅん。
窓の外から雀の鳴き声が朝を伝えている。俺は背伸びをして妙に大きな手ごたえのあるベッドで寝がえりをうつ。冷たいシーツの感触が心地よい。
しかし、日の光が目に直接あたり、嫌でも瞑っていた目を開く。ぼやける視界。
目を2、3度擦ると段々と視界がクリアになっていく。重い重い瞼がやっとのことで全開になり、目の前の視界を脳を処理してゆく。
バスローブ一枚だけを身に着けた飯島先輩の姿。やや細くて綺麗な太ももはほとんど完全にあらわになっていて、胸元はさすがにはだけてはいなかったが、隙間が空いていてそこからピンク色の小さな突起が見え隠れしていた。
…………って、え?
なんでバスローブ一枚の飯島先輩が隣で寝てる……そういえば、ホテルはいったわぁ……。
とりあえずこべりついていたピンク突起への視線を外し、目を瞑りその上に手をかぶせる。
そして、手探りで飯島先輩の肩を探しあて揺らす。
「んぅ……」
なんて声を漏らしながら、俺の手を弾く。もう一度肩に触れて揺らすと「もうなにぃ」と言って肩が起き上がった。
「さっきからさぁ…………あ、え、お、あえおおはよう?」
驚きからか、極端に動揺している飯島先輩。いつもなら笑ってしまいそうだが、今の俺にはそんな余裕はない。返すだけでも正直精一杯だ。
「お、おはようございます……」
「あ、おひゃよう……おはよう……なんで日田は目を隠してるの……?」
昨夜の余韻が残っているのか、どこか甘い声でそう俺に聞いてくる飯島先輩。
「あの、飯島先輩。お洋服……」
「ん? おようふ……く。はひゃっ!?!?」
悲鳴が部屋に響いた次の瞬間、スススッ、と衣擦れの音が聞こえてくる。きっと今頃大慌てで着なおしているのだろう。
そして、数秒後、ごめん、という言葉と共に飯島先輩の手が俺の目に被せていた手の上に重なり、外される。
すこしの眩しさも数秒でなくなり、目の前には赤面しながら、バスローブの襟をつかんで閉じている飯島先輩の姿。
胸元はガードできているが、ベッドの上におねえさん座りをしているせいで、相変わらず太ももがあらわになったままだ。
「ねぇ……日田」
「な、なんですか?」
落ち着きの無い飯島先輩。珍しくずっとそわそわしていて、ふと、意を決したように俺と目を合わせる。
「わ、私って、日田と……日田とぉ……シちゃった……?」
「……逆に聞きます……飯島先輩、僕とシました……?」
「……シて……ない」
「……僕もです……」
「……んぅ……」
頭から蒸気を出しながら両手でさらに赤くなった顔を隠す飯島先輩。そのせいでせっかく閉じていた胸元が再びはだけた。
※
あれから俺と飯島先輩はなんともいえぬ雰囲気でホテルを後にした。
飯島先輩に車に乗るかと聞かれたが、なんだか気まずいし、そもそも家がばれたらやばそうなので丁寧に断りを入れて駐車場で別れた。
そして俺は電車を使い、夏希さんのいるタワマンへと向かった。
そして、30分ほどで到着し、タワマンの玄関ホールへと入り、エレベーターを昇る。
そういえば、昨日の夜最後に連絡したけど、返事は返ってきていない。いや、一度夜中にメッセージが来ていたようだが、送信取り消しされていた。
なんだか嫌な予感を感じながらも最上階に到着し、部屋の前に着く。渡された合鍵を持ち、ドアを開ける。
中は誰もいないかと錯覚するほどに静かだった。
「ただいまー……ですー」
部屋を探るように声を出す。しかしそれにも返答はない。短い廊下を通り、リビングに出るためのドアをゆっくりと開ける。
ソファにも、ダイニングテーブルにも夏希さんの姿は無い。部屋で休んでいるのだろうか。そう思い、一歩踏み出すと——。
「ねぇ」
「ひっ!?」
突然のことにビビりながら、横を見るとそこには夏希さんが腕を組んで立っている。
怒気にまみれた声色に、俺は心臓が悪い意味で高鳴るのを感じた。
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