第13話 今後の夫婦生活のために【三雲夏希目線】
さて、どうしよう。
私は車を運転しながらそう思う。
相変わらずどうにも車内では社長モードが抜けない。と言うか、他の人の視線がすこしでも入るところではプライベートモードに入れない。
出来るものならずっといちゃいちゃしていたいんだけどね……。
なんてことを考えている内にマンションに着く。車を地下駐車場に停め、エントランスを通りエレベーターを昇る。
突然だが、私にはひとつだけ確認しなければいけないことがある。
それは。
私に興奮してくれるか、ということ!
今後、夫婦になったりして、そうなったら当然夜の営みも毎日……へへ。
だから、私に興奮してくれるかって言う事を確認しないと!!
エレベータの中で小さく、本当に小さく自分を鼓舞するようにガッツポーズをして、フロアに着くのを待つ。
ポーンと、音が鳴りエレベーターを出て、少し歩くと私たちの愛の巣へと着く。鍵を開け、先に部屋の中へと入る。鍵はそろそろ渡そうかな、と思ってる。
新太君は私の真後ろをついてきて、部屋に入ってきた。私はオートロックが作動した音を確認して後ろを振り返る。そして、一歩。
お互いの体が、もっと言えば私の胸が押しつぶされるくらいに密着した。新太君は後ろに下がれずたじろいでいる。この体制はちょっと苦しいけれど、密着しているから、なんだか安心する。
と、思っていた矢先。なんだか固い物が私のおへそ当たりをつついた。
もしかしてこれ……。
私はすぐにその正体を察した。布越しでもすごく逞しくて。
興奮してくれている。
早くもそう理解した私の頬は緩む緩む。面白い位に緩みまくった。たぶん、この顔で新太君と対面したらとんでもないことになってしまう。
だから私はしばらく俯いて、必死に顔を作る。嬉しさと、興奮を隠すための顔を。
そして俯きながら思う。どうしよう。
ここからどうするかとか、何も考えてなかった……。正直ここで離れてもいいんだけど、それだとただの変態になっちゃう……。えーと。
「その、新太君」
「は、はい」
なんだか新太君の声が若干震えている。もしかして、下のを気にしてるのかな? かわいい。とか考えてるけど実は私もぜんっぜん余裕がない。
「きょ、今日、会社大丈夫だった?」
顔をあげ、新太君の瞳を見る。いつ見ても心の底から安心させ切ってくれるような瞳。かっこいい。
おっと。新太君に酔狂してる時間は無い。何とかこの状況から言葉を絞り出さないと。絞り出せるだけ、絞りだして。
「何も問題はなかった? いじめられなかった? いないとは思うけど、もしそんな子がいたら私、えーと、えと、どうにかするよ?」
一度絞り出せば意外と出るものだ。 社長モードでも心の奥底で離れてくれなかった気持ちを、心配を。吐き出す。
「もし、もし、会社が合わなかったら私のヒモでもいいんだよ? というか、それをお勧めするよ???」
「夏希さんっ!」
新太君が珍しく声を荒らげた。どうしたんだろう。もしかして、私嫌われちゃった? そんなのヤダ。ヤダヤダヤダ。
……でも、まだそうとは決まっていない。
私は少しだけ残った冷静な心でなんとか返事を返す。
「あっ、ごめん、どうしたの?」
なんとか返したけれど、どうしよう。もし、本当に嫌われたりしたら。家を出るなんてことを言い出したら。そんなことになったら……——
でも、新太君は私がうだうだ悩んでいる間にも言葉を紡いだ。
「会社はいい人達ばかりでした、もちろん女性ばかりで緊張もしましたけど、案外やっていけそうかもなぁーって言うのが、今日の感想です」
まっすぐな瞳で私を捉えて、もう一度口を開く。
「だから、ありがたいんですけど、今は働きたい気持ちの方が大きいので働かせてください。お願いします」
すこしだけ笑みを浮かべながら、新太君は私にそう言った。新太君の言葉は心配事をすべて吹き飛ばしてくれるような気がして。
私は、なんだか軽くなった心で、新太君に負けない笑顔を浮かべながら言った。
「そっか……なら良かった!」
目的も達成したし、聞きたいことも聞けたし。なごり惜しいけれど密着していた体を離し、中へ入ろうか、と声かけして部屋の方へと向き直る。
ちらりと後ろを見た時、ばれないように必死に股間付近を押さえている新太君の姿はとってもかわいかった。
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