第18話 決戦前に……
気づけば既に夕暮れ時だった。
「え、なに? 結局練習やめて諦めるの?」
拠点に返ってくると、室内ではクレアと8が呑気に紅茶をすすっていた。くそ、7といい感じのムードになってたのに台無しだよ。
「諦めてねぇよ………ただ、今の自分であたることが一番いいって思ってさ」
「妥当な判断ですね。……子供の遊びの戦略など、限られていますから」
現実的な意見を呈したのは8だった。別にそういう理由じゃないんだけど……ま、いっか。
「さてと、飯にするか……」
と、ちらちらクレアに視線を向けるが、一向に帰る気配はない。視線を嗅ぎ取ったクレアは、得意げな顔をして頬杖をついた。
「ケンジョウ? 昨日今日と、このワタシをこき使ったんだからもう一食くらいふるまうのが普通じゃない?」
確かに……理にかなっている。ぐぅの音も出ないとはこのことだ。
「これが、クレア様のノブレス・オブリージュです」
なんとも図々しい貴族だ。
「これがぁ?」
ただのわがまま娘にしか見えなくもない。むしろそれだ。こんな奴がよくもまぁ何人も候補者を倒してるよなぁ。絶対8の力が九割占めてるよ、うん。
「ちょ、ちょっと! 何よその態度!」
腹の虫を鳴らしながらせめてくるが、あまり脅威には見えなかった。
「はいはい……7、手伝ってくれ」
「了解です」
キッチンに入って料理を始める。
「7、剣条様は何かあったのですか?」
珍しく俺ではなく8は7に質問した。
「はい。ある人から助言をいただいたそうです」
「へぇ………誰なのよ、ソイツ」
惰性で聞いているであろうクレアに対して、今度は俺が応答する。シュタルスの名前は伏せて、だけど。
「一つ確かなのは………変わった奴だったな」
またどこかで会えたら、もう一度話したいな。シュタルスのおかげで、元の自分を取り戻したことが、今日の収穫だった。
日が進むのは早く、明後日に決闘を控えた金曜日。……放課後、俺と7、そしてクレアとお供の8での四人で帰ろうと下駄箱を抜けてちょうど校門を抜けようとしたところで、ちょっとした出来事が起こった。
「……司、止まってください」
前を歩いていた7が右腕で俺を制止させた。校門の傍には巨大な体躯の男……Qが腕を組んでたたずんでいた。目を細めなくても、顔をしっかり見なくても、大体わかった。ゆっくりと歩を進め、その場をやり過ごそうとするが、通り過ぎる寸前で、Qが動いた。
「……何の用ですか」
身構える7に対して、Qは冷静だった。道ゆく生徒が一度視線をこちらへ投げて来るが、この際そんなことを考えている余裕はなかった。
「そう敵意をむき出しにする必要はない。今日は事務的な用と剣条司、貴様に頼みがあってきたのだ」
遥か上、よく見るとQは微笑んでいた。怪しげの感じない、自然なものだった。
「俺に……?」
「ここでは何だ、場所を変えよう」
道路脇には車が止められていた。明らかに高級そうなやつ。
「司をどうするつもりですか」
「心配するな。7、貴様もついてこい」
クレアと8を置いて、俺と7はQにどこかへ連れて行かれた。
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