第7話 編入生・7



「え~、今日は新しく編入生がやってきた」


 教室の生徒が一気に騒がしくなる。無論、誰か知っている俺は冷静に前を向いている。


「おーい、入ってきてくれ」


 扉が開いて7が現れる。その容姿にクラスメイトの感嘆の声があちらこちらから聞こえる。そういえば、あいつなんて名乗るんだ?

 黒板に白いチョークで7は書いていく。カタカナだった。


「今日から皆さんと一緒に勉強することになったセブン=ヴェネスです。……皆さん、どうぞよろしくおねがいします」


 四十五度しっかり下げた姿勢。どっ、と拍手の音に包まれる。

 そのなかで一人、俺は椅子から転げ落ちそうになっていた。あいつ……そのままセブンって名乗りやがった。


「知っているとは思うが、剣条は今、グリズランドの後継者問題にかかわる人間の一人だ。それで彼女はその関係者だから、あまり邪魔しないでくれよ」


 そして、ホームルームが終わって少ない休み時間になると、クラスメイトが7に駆け寄ってきた。


「セブンちゃんって言うんだ、よろしくね!」

「かわいいね、メアド交換してくれない?」

「い、いえ……私は……」


 ひっきりなしに飛び交う7への挨拶と質問。隣の席の俺は人波に押されて椅子から落ちそうだった。……うざってぇな。まぁ、こうして問題の本人が好奇の視線にさらされることを防いでくれてるんだから感謝だよな。


「さてと……」


 授業まで時間がある。とりあえずこの場からの撤退と息抜きにトイレに向かうことにした。


「つ、司! どこかへ行くのなら私も………!」

「ただトイレに行くだけだよ。転校生らしく皆の肴になってろって」


 あの場は居づらい。目立つことは嫌いじゃないが、噂されるのもしゃくだった。それに、昨日の今日でただの高校生から王族の、しかも後継者候補となってしまうと、みんなとの接し方がイマイチつかめない。今まで通りでいいものか………こちらから変に態度を変えるのもおかしいし……


「見つけたわ、ケンジョウツカサ!」

「ぁん?」


 聞き覚えのある女の声。トイレに向かう途中、廊下で振り向くと、背後には俺を指さして勝ち誇ったように笑う昨夜の女がいる。


「カンネンなさい! いい加減しょう――」

「うぅ~、トイレトイレ」


 見なかったことにしよう………つーか、何であいついるんだ? 男子トイレまで全速力で逃走し、駆け込むと、さすがに入ってはこなかった。


「ふぃ………」


 安息の場、とでも言えるか。男剣条司が安らげるところの一つである。だからと言って長居するわけではない。

 トイレから出ると、すぐ目の前にあの女がまだいた。


「クレア=シルベスターを待たせるなんていい度胸ね」

「………」


 なんだコイツ……

 指さすポーズのクレアという女を素通りしようとすると、女は俺の肩をぐっとつかんだ。


「逃げるのね、逃げるんでしょ?」

「…………」


 見慣れない少女に誰もが括目する。だが、俺は気にしない。肩に置かれた手を振り払って教室へ向かう。


「ハッ、呆れた。所詮はただの負け犬ね、ケンジョウツカサ」

「……………はいはい。おっと授業始まっちまう」


 何と言われようと、相手にされなかったことへの負け惜しみにしか聞こえない。……むしろ、あいつに自分の状況を把握してほしい。


「ちょっと! ホントに逃げるの?」

「……………」


 声をかけられた気がしたが、最近耳が悪いのかよく聞き取れない。


「ケンジョウ! 待ちなさい!」

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