頑張らない

シヨゥ

第1話

 頑張れば頑張るほどに沼にはまっていく感じ。そう気づいてから人生を頑張ることを止めた。

「いつも暇そうね」

 ご近所のおばちゃんに顔を合わせるとそんなことを言われる。それぐらいには力を抜いて生きている。

「頑張るときに頑張るために今は力を抜いているんですよ」

 だからいつもそう返すのがお決まりになっていた。

「あらそう。でもちゃんと働きなさいよ」

 そう言っておばちゃんは去っていく。これもまたお決まりだ。

 頑張るときに頑張ることができるのか。それが少し不安ではある。だが、男を見せる時なんて来ることなんてないほうがいいのだと思う。それは非常時なんだから。

 日常が振れ幅なく続くこと。それが人間にとっては心身に影響がなくていい。なんたって人間は恒温動物なんだから。環境が激変し続けたら死んでしまう。それこそ頑張り続けている時なんてそんな状態だったのだ。

「いい歳なんだからお嫁さん貰わないと」

 今日はおばちゃんによく会う日だ。

「貰ってくれる人が現れることを願ってますよ」

 いつもの返しを繰り返す。これもまた頑張らないために決めたひとつの決め事なのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

頑張らない シヨゥ @Shiyoxu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る