第100話 元エロゲのとある大人気作品
──キスキル・カーテシー。
世界中で今、最も人気のあるアプリゲーム。
美少女キャラから色気たっぷりのお姉さんキャラまで。プレイヤーの趣味嗜好性癖に合うキャラ同士が戦う作品。
ゲーム性はもちろんのことキャラ人気も高い作品で、アプリゲームだけでなくグッズ関係の人気も凄まじい。
その中でも主人公ポジションの三姉妹は特に人気があった。
明るく元気な性格で、どんな逆境にも負けない三女、ノノカ・メイネーヌ。
クールな見た目と性格だが、抜けた部分もある次女、シンリシア・メイネーヌ。
ノノカとシンシリアを支えるエロい見た目と口調の長女、エリス・メイネーヌ。
「──というわけで、最初からこのメインどころの3キャラが選ばれる可能性が高いそうです」
ゲームの説明、参加するコスプレイヤーの名簿を話してから結論を言う。
出来レースとまではいかない。この3キャラが確定で選ばれるとは限らない。
でもこの中の2人は間違いなく選ばれるんじゃないかなと、先方とやり取りした中で感じた。
「そうなんですね。でもそれなら、最初から人気投票なんてしなくても……」
「普段通りのイベントガチャで実装するよりも、こうやって人気投票のイベントとして目を引いてから実装した方が注目も集めやすいですから。それに、この3キャラを打ち破ってどのキャラが割って入るか……っていう楽しみはあるかなと。ちなみにですが、このキスキルというゲーム、元は18禁のエロゲだったそうです」
「エロゲ……? あっ、な、なるほど……」
「念のため聞きますが、エロゲは知ってますよね?」
「はい! ……えっと、遊んだことはないですけど」
約十年前にコスプレを始めて、コミケにも参加したことがあるということであれば、もちろんエロゲというジャンルがあることは知っているよな。
「ちなみに一番最初に発売されたキスキルはこういうのなんですけど」
エロゲ時代のキスキルのイラストやHシーンなんかを見せると、詩乃香さんは赤面して瞳を潤ませた。
「元はこういう感じだったらしいです。純愛よりも、どちらかというと陵辱シーンの方が多い作品で、特に魔物相手が多いらしいです」
戦う相手も今のようにキャラ対キャラではなく、キャラ対魔物ばかりだった。
そして敗北したら屈強な魔物や触手なんかに……みたいな展開が待っている。
「で、そこからエロシーンを抜いたアニメが流行って、映画やゲームとどんどんメディアミックス化が進んで幅を広げていったそうです。ちなみに、元はエロゲだということを知っている層よりも知らない層の方が多いみたいですよ」
「な、なるほど」
「ただ、今のアプリゲームとして出ているキャラなんかはエロゲ時代に出たキャラが多いらしくて、全体的に大人っぽくてエロ要素のある女性キャラの方が多いそうです」
「たしかに、可愛い女の子キャラって少ないですね」
資料を見ながら詩乃香さんが言う。
R18から全年齢に移行したときにロリキャラも増やしたみたいだが、当時はそこまで人気が出なかったそうだ。
それでエロゲ時代から人気のあったエロい服にエロい身体の女性キャラを全年齢版でも推してみたところ、そこから評価が上がったそうだ。
なので、このキスキルでは美少女キャラよりも大人の色気たっっぷりの女性キャラの方が割合は多く、そのどれもが魅力的な服装と体型をしている。
「で、これが前回行われた人気投票の結果と投票数なんですが」
「こんなにたくさん票が……。それに、やっぱりこの上位の3キャラの票数が凄いですね。……あれ、でも」
「長女と次女は圧倒的ですね。ただ三女のノノカに関してだけは、そこまで圧倒的というわけじゃありません」
前回の結果を見せた後、俺は前もって調べてあったウェブサイトを詩乃香さんに見せる。
キスカのことが書かれた掲示板なんかでも、この三姉妹の人気は他キャラよりも高い。だが、エロ要素多めの次女シンリシアと長女エリスに比べると、快活美少女といった印象の三女ノノカは少し劣っている。
「正直この2キャラは出来レースみたいなものですが、ノノカはそこまでみたいです。なので他キャラが好きなプレイヤーは、そのノノカの枠に自分の推しキャラを入れたいって感じみたいです」
「なるほど。じゃ、じゃあ、私の演じるキャラもそこを目指すんですね!」
キラキラした瞳で見つめられた。
そんな彼女に、残念な現実を突きつける。
「残念ながら、この空いた一席には順当にいけばこの4キャラのうちの誰かになる可能性が高いですね」
と、資料を四枚テーブルに並べる。
味方キャラ三人に、敵キャラ一人。
その中に詩乃香さんが演じるキャラはいない。
そもそも三姉妹を演じるコスプレイヤーは雑誌やテレビにも出演しているような有名どころを起用している。
次点でこの四キャラも、いま人気を獲得し始めているコスプレイヤーだ。
他のキャラを演じるコスプレイヤーは良く言えば”新進気鋭”で、悪い言い方をすれば”ギャラが安い新人”だ。
──コスプレイヤーの質が全てを物語っている。
起用しているコスプレイヤーという一面だけでも、運営の推し具合とキャラに付いているファン数のランキングはわかる。
「そうなんですね。じゃあ、私はみなさんの邪魔しない方がいいですよね」
「邪魔はせず、メイン格を引き立て、それなりの人気を得る。これが運営の考えだと思います」
さっきまでの嬉しそうな表情から一変。
自分が演じるマリーン・ヘイズ・ハンネリアの資料をジッと見つめる詩乃香さんの表情は悲し気だった。
「──ただ、逆にここで詩乃香さんが演じるキャラが上位に行けば、キャラだけでなくコスプレイヤー4nоは一気に注目を集めることになります」
SNSなんかを見てもこのキスキルのイベントはかなり注目を得ているのはわかった。
総勢二十四名という大勢のコスプレイヤーを起用した大型イベント。
参加するコスプレイヤーの名簿を見ただけで、既に結果は決まっていると言っていた者も中にはいた。
そんな中、そこまで知名度のない詩乃香さんが三位以内──は難しくても、上位に食い込むことがあれば一気に知名度は増す。
「考えてみてください。テレビや雑誌に引っ張りだこのコスプレイヤーに、原作でそこまで人気の無いキャラを演じた詩乃香さんが人気投票で抜くんです。もしそうなったら、大勢の人が詩乃香さんに興味を持つと思いませんか?」
「それは。で、でも、私なんか……」
「俺はいけると思いますよ」
「え……?」
マリーン・ヘイズ・ハンネリアの人気は原作ではそこまで無い。ただこのゲームで人気になる条件は与えられているキャラだ。
「美少女キャラとか、変に中途半端なキャラだったら難しかったかもしれません。でも、マリーンはエロ全振りのキャラです。だからこそ勝ち目があると思います」
ゲームであれば胸を出したキャラやお尻を出したキャラは大勢いる。このキスキルで言えば、人気のあるキャラのほとんどが巨乳だ。
胸の大きさだけで言えば、マリーンよりも大きいキャラはいる。
だけど、リアルであれば大きさだけが魅力というわけではない。
「他のコスプレイヤーさんのコスプレを見ましたが、詩乃香さん以上に”雰囲気”がエロい人はいませんでした」
「え、あ……」
「あなたなら、絶対に上位に食い込めます。大丈夫、俺が保証します」
「……えっと、えっと。そう言っていただけで、良かったです」
赤面する詩乃香さんだが、その表情はさっきまでより明るくなったように見えた。
「とはいえ、キャラの人気自体はずっと下の方になってしまうので、ただエロいだけだと弱いですね。人気投票の票を投じるのはコスプレイヤーのファンではなくキスキルのファンですから」
そう言うと、俺はカバンに入れておいたモノたちをテーブルに置く。
「まず、これを全てプレイしてみてください」
「……え、これって」
「キスキルのエロゲです。今の万人受けするよう変更されたキスキル自体の人気はあります。でも、エロゲ時代のキスキルを好きな層も一定数はいますから」
「え、あ……」
「そして、詩乃香さんが演じるマリーン・ヘイズ・ハンネリアはエロゲ時代からキャラ設定が変わっている箇所があるので、変更前の部分もしっかり勉強しておいてください。上位に組み込むためには、その層を狙い撃ちするのも一つの手ですから」
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