第9話 追従
食事を終え、荷物をまとめた。焚き火は革袋に詰めていた水を振りかけて消した。革袋と水筒には新たに水を詰め直す。
「なんでわざわざ水を詰めているんだ? 川沿いを進むだろう?」
「魔物に襲われて、森の中に入ってしまうかもしれないからな。できるなら用意しておくのが安心だ。もちろん、その時に荷物の重量や体力とも相談するが」
「なるほどな。そういう考え方もあるのか。いや、そうすべきなんだろうな」
「それでもお前たちみたいに四つ手に荷物を持っていかれたら意味はないけどな」
「……それは言わないでくれ」」
「不運だったんだ。仕方ないだろうな。四つ手が荷物を奪ったという話は聞いたことがないわけじゃないが、荷物をすべて奪われたというのは聞いたことがない」
「本来なら分散していれば良かったんだが。いや、それでも2つとも持っていかれたかもしれないが」
「まさかあいつの荷物まで全てお前が持っていたのか?」
「……ああ。そうは言っても大した量ではないがな」
「あいつは軽装だし、速度重視で動きたいんだろうが、それなら荷物をすぐにおろせるような装備にすれば良いだけなんだが。なんというか、お人好しすぎるな」
「……」
「まあ、良い。それじゃ、行くか」
答えに窮したガレンに助け舟を出すように出発を促した。荷物を背負い、川沿いを西へ向かう。まだ日は昇っていないが、それでも空は全体的に薄い青に染まっている。今日も雲一つ無い快晴だ。
後ろからガレンが着いてくる。革鎧とは言え、手甲足甲もある上に大盾まで背負っている。足元を崩したら、槍の石突を杖代わりにするだろうが、あの長さだ。重さもあるだろう。相応に消耗はずだ。多少は歩きやすい道を歩いてやろうと、ルークスは道を選びながら進んでいく。
一刻ほど進んだところで、小休止を入れることにした。ルークスは水筒から、ガレンは川からそれぞれ水を飲み、軽く腰を下ろした。
「盾もあるからそこまで早く進めないと思っていたが、体力はあるようだな」
「ああ。ありがたいことに、あんたが進みやすい道を選んでくれているからな」
「気付いていたか。まあ、面倒にならない範囲でしかないがな」
「それでもかなり進みやすくて助かっている。それなりに体力はあるつもりだが、やはり先導がいると違うな」
「あいつと組んでいた時はどうしていたんだ?」
「俺が先頭を進んでいた。魔物が出た時にまず俺が引き付けるからな」
「……それはわかるが、お前は重戦士や騎士、もしくは盾士という扱いだろう? 頻繁に攻撃される場所ならともかく、森の中なら軽装の奴が先導して斥候の役をする方が進みやすいだろう?」
「パーティーの仲間からの依頼だからな。これがやりやすいと言われたら、そうすべきだろう?」
「なあ、ガレン。お前、その姿勢でずっとやってきたのか?」
「ん? そうだ。こうしたいと言われたら、そのやり方を受け入れてきた」
なんということだ。ルークスは愕然とした。
戦闘技能は見ていないが、それなりに体力もあり、ある程度は野営の基本も理解している、礼儀もある。ベートを諌めた時の主張はしっかりしたものだった。話していて、知性も感じるところもあった。それにも関わらず、なぜあんな奴と組んでいたのか、組合で一人で突っ立っていたのか、それがわかった。
「お前、自分を持っていないんだな」
「どういうことだ?」
「ベートと会ってパーティーを組んでから今までのことを考えてみろ。昨日のこと、そして今話したこともだ。考えてみろ」
「……わかった」
すぐに頷いた。素直であることは悪いことではない。それが素直であると言われているうちは、だが。
「よし、行くぞ。次は森を抜けるまで休憩せずに進むつもりだ。多分、二刻もしないうちに森を抜けることができるんじゃないかと思う。昼前だな。飯は無いから、休憩だけだ」
「ああ。俺が食ってしまったからな。すまない」
「そういう意味で言ったわけじゃない。そこは気にするな。空腹の覚悟だけしておけという意味だ」
改めてルークス達は川下に歩き出した。
進みながら、万が一魔物が現れた場合の連携について、簡単に話し合った。想像通り、ガレンは盾で敵の攻撃を受け、捌きながら槍で攻撃するのが得意なようだ。
「得意だと思っているやり方通りにやってもらうのが良いだろう。魔物が出たら前後を入れ替えよう。魔物を抑えてもらい、横から俺が攻撃していく。複数出た時は俺が一匹ずつ倒していくから、それまで敵を引き付けながら耐えてくれ。無理に攻撃して倒す必要はない。俺が一対一になるようにしてくれれば良い」
「了解だ」
「こちらもあまり人と組んで動くのが得意なわけじゃないからな。これくらい大雑把でわかりやすい連携の方が良いだろう。あとは何かあればその都度修正しよう」
「わかった。できる限り指示に従っていくつもりだ」
「……ああ、頼んだ」
ガレンの返事に、ルークスはきつい言葉を返しそうになり、そして止めた。今ここで何かを言っても意味が無い。若者のお守りは仕事でもなければ、柄でも無い。余計なことに首を突っ込む必要はないと、自分自身に言い聞かせた。
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