第5話 ピーターは人間
「お母さん!」
ジェシカは目を覚ました。
「あら、ピーターおかえりなさい。早いのね。今日はもう学校は終わったの?」
「うん。それより、お母さん居眠りなんかしちゃ駄目だよ。風邪引いちゃうよ!」
「あら、そうね。ごめんなさいね。お昼過ぎで暖房きかせた部屋で紅茶を飲んで休憩していたら、いつの間にか眠っちゃったみたいだわ」
ジェシカは背伸びをしてから言った。
「さあ、今日の晩ご飯の支度をしなくちゃいけないわ。ちょっと面倒だけど」
「お母さん、僕もお手伝いした方がいいの?」
「いいわ。それよりも宿題をやりなさい」
ジェシカはキッチンで料理をしている。
「僕は宿題をやらなくちゃいけない!」
ピーターはそう言うと、子ども部屋に入っていった。
「ただいま」
「あなた、おかえりなさい」
「ちょっとジェシカ、聞いてくれないか!」
「何よ?何かあったの?」
「今日来た客のことなんだけど、ピーターにそっくりな客が来たんだ」
「あなたのところに?」
「そう。どういう伝で『占い師アレク』の名前を知ったのかはわからないんだけれど。とにかくその客が僕の店に現れたんだよ」
「そうですか。で、何を占ったの?」
「『僕はどんな人かを観て』って」
「そうですか。で、占ったんでしょう?」
「タロット・カードで適当に占った。いつもやってるみたいに」
「あら。何が出たんです?」
「愚者。愚者のカードが出たんだ」
「そうですか。それで、なんて言ってやったんです?」
「君は赤ん坊だ。これから成長してくんだよ、とね」
「そうですか。ありきたりの言葉だわね」
「そうさ。ありきたりの言葉ほど毒にならないからね。占いなんてものを本気で信じるのも困る。だから、敢えて毎回、ありきたりな適当なことを言っておくんだ」
「そう。あなたのやり方でいいんじゃないかしら」
アレクは気づいたように言った。
「ピーターはまだ学校か?」
「いえ、もう帰ってますよ。部屋で宿題でもやってるんじゃないかしら」
ジェシカは気づいたように言った。
「あなた、今日ピーターに説教されたのよ!」
「説教?どういうことだい?」
「お母さん、居眠りなんかしちゃ駄目だよ。風邪引いちゃうよ。って」
「そうか。小生意気な。ピーターもこのまえ生まれて、芋虫みたいに食べて寝てるだけだったのに」
「そのピーターがねえ。まだ小学生とはいえ」
「おまえにお説教か。大きくなったな。この一万円で記念に何か祝ってやれ」
「いつの間にか芋虫から人間に変身したみたい」
変身 ジュン @mizukubo
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