第4話 占い師アレク
「ここか」
僕はいまジュピター通りの占い師アレクの家の前に立っている。
「どうってこともない普通の建物なんだな」
僕は家の中に入っていく。一応断っておくが、家の前には『五術』と書かれた看板が立っている。つまり、占い師が中にいるから観てほしい人は中に入ってきてもよいという意味の看板である。
中に入ると椅子でうたた寝をしている若い男がいた。椅子の前にはテーブルが置かれていて、絵の描かれたカードがそのテーブルの上にあった。カードに描かれた絵はきれいに見えたけど、何かそれ以上に心に残るような不思議な印象を僕に与えたのだった。
「あの、すみません」
男は目を覚ました。
「あの、占い師のアレクですか」
「そうですよ」
「占ってほしいんですが」
「はいはい。じゃ一万円ね」
僕は一万円札を渡した。
「で、あなた名前は?」
「ピーターです」
「ピーター。どんなことが占いたいの?」
「それは」
「それは……わかりましたよ!」
アレクは微笑むと、僕の目を見て言った。
「占いたいことがわからない、そうですね」
「そうです。あの、どうしたらいい……」
アレクは言った。
「これはタロット・カードと言ってね、占いの小道具なんだけど」
アレクは続けて言った。
「ピーター、一枚引いてもらえるかい」
僕はカードを一枚引いた。
「愚者か」
「愚者?」
「君は生まれたばかりなのさ。だから、何を占いたいかわからなくて当然さ」
「生まれたばかり」
「君は赤ん坊なんだ」
「そう。僕は昨日まで芋虫だったんだ。人間に生まれたばかり!人間に生まれたばかりなんだ!」
アレクは愉快そうに笑うとピーターに告げた。
「さあ、もう時間だ。金がないなら帰ってくれ」
「わかりました。どうもありがとう」
「ジェシカによろしく言ってくれ」
僕は占い師アレクの家を出た。考えてみると何も教えてもらってないような気がしてきた。アレクは僕がジェシカに言われてアレクのところに来たのも知っていた。アレクは占い師だから見抜いたのか。それとも、ジェシカが電話かなんかで前もってアレクに「ピーターって人が来るわよ」とでも伝えていたんだろうか。真相はわからない。けれど、まあいいか。僕はそう思った。
僕は、ジェシカのところに引き返すことにした。不思議だけれど一度来た道は迷わずに帰ることができる。今わかったのだけれど、ジェシカの家からジュピター通りの占い師アレクのところまでは、そんなに離れてはいなかった。
僕はジェシカの家に着いた。
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