第3話 タクシー問答

ピーターは思った。

「よくわかんないけど、とにかくお金が手に入った」

ピーターが泥棒に入ったアパートのあの部屋から失火しなくてよかったとピーターは思った。だけど、あのおじいさんには嘘をついてしまったのを悪く感じた。「郵便屋さんなんですが」というのもそう。火事を防いだことで償ったことにしよう。

ピーターはジェシカの言うジュピター通りの占い師アレクに会うため近くでタクシーを拾おうとした。

例のおじいさんが住んでるアパートから歩いてすぐに大きな通りに出た。

「ここでタクシーを拾おう」

そう思ったとき、運良く一台のタクシーがやって来るのが見えた。ピーターは手を挙げてタクシーを止めた。

「どちらまででしょう」

「ジュピター通りの占い師アレクのところに行きたいんです」

「わかりました」

タクシーの運転手は車を走らせ始めた。

「お客さん、最近この町に引っ越してきたのかい?」

「いえ、そうじゃないですけど」

「そうですか。いや、この町のお客さんは顔馴染みが多いからね。あなたは、乗せたことないっていうか、見たことない人だなって」

「それはそうですよ」

「やっぱ、学校か仕事の都合で最近引っ越してきんだ」

「違います。僕は昨日まで芋虫だったんです」

「わははは。昨日まで芋虫だったなんて、お客さん面白い人だね」

「本当です!」

「わかった。わかった。でもよかったじゃない。芋虫なんて下等なものから人間になれて」

「芋虫は下等じゃありません!」

「じゃあさ、芋虫が人間より上等なところ教えてよ」

「人間より上等なところ……」

「そうさ。見つからないだろう」

「ありますよ!」

「何だい?」

「芋虫は人間より、差別心がない。芋虫は人間より謙虚ですよ。その点が人間より上等なところです!」

「ああ。そう」

「…………」

「いま走ってる所がジュピター通りさ。あと十分ほどで占い師アレクの家のまえに着く」

運転手は車を走らせる。

「答えたくなかったらいいんだけどさ」

「何ですか?」

「アレクのところにはなんの用なんだい」

「それは」

「アレクは占い師だし、お客さんも占ってほしいことがあるんじゃないのかい」

「それが」

「それがなんだい」

「僕にもまだわからないんです」

「ふうん。そうか。まあ、いい」

十分ほどして運転手は車を止めた。

「着いたぜ」

「いくらですか?」

「金はいいよ」

「何でですか?」

「芋虫が人間に勝てるものを教えてもらったから」

「ああ……」

「勉強になったよ」

僕はタクシーを降りた。

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