第2話 アパートにて

「このアパートがよさそうだな」

ピーターは木造の壁が黄色く塗られたアパートの前に立った。

ピーターはいくつかある部屋の一つを物色し、ベルを鳴らした。

ピンポーン、ピンポーン

ピーターは2回鳴らした。

「誰も出ないな」

ピーターはドアノブに手をやるとゆっくり静かに回した。

「あの、どなたかいませんか」

返事はなかった。部屋は電気は消されていて暗かった。カーテンが閉められていた。

「留守なのかな」

ピーターは思った。

「ラッキーだ。丁度いい」

ピーターは人が見てないか確認すると、静かにドアを開けて玄関に入った。そしてドアを閉めた。

「お金はどこにあるのか」

ピーターは部屋を見回した。

「うん?何だこのにおいは」

ピーターは何か焦げるにおいを感じた。

「何だ?」

ピーターはにおいのする方へと向かった。においはキッチンからしていた。

ガスコンロの上に鍋があった。

「これだな」

蓋を開けると、焦げたカレーらしきものがグツグツしている。

「火がつけっぱなしじゃないか」

ピーターは思った。

「消し忘れたんだな」

ピーターは火を消した。

「お金は見当たらないし、とんだ災難だ」

ピーターはこの部屋は諦めて他を当たろうと思った。

「行くとするか」

その時だった。玄関を開ける音がした。

「誰か来た!」

ピーターは困った。隠れようにも隠れる場所がない。ゆっくりとした足音で誰かがこっちに向かって来る。

「あなたは誰ですか」

それはおじいさんだった。

「僕は郵便屋さんなのですが、隣の部屋の郵便受けに郵便物を入れる際、この部屋の前を通ったのですが、その時にこの部屋から何かにおいがしてまして」

「はあ」

「それで気になって。ベルを鳴らしたんですが誰もでなくて」

「はあ」

「何か焦げたようなにおいだったので。火事にならないかと思い……」

「火を止めてくださったんですな」

「そうなんです」

「そうですか!ありがとう」

「いえいえ」

「カレーの火を消すのを忘れたんだな」

おじいさんは、焦げたカレー鍋を見てそう言った。

「郵便屋さん、助かりました」

「いえいえ」

「もう少しで火事になるところでした」

ピーターは言った。

「では、僕はこれで」

「ありがとう。郵便屋さん、お名前は」

「えっと。名乗るほどの者ではないので」

「そうですか」

「では、さようなら」

「郵便屋さん、お名前はわかりませんが、少しのお礼はさせてください」

おじいさんは、一万円をピーターに渡した。

「では、おじいさんさようなら」

ピーターは部屋を出た。

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