変身

ジュン

第1話 芋虫から人間になる

ある朝、目覚めると、芋虫は人間になっていた。

「僕は芋虫なのに人間になってしまった」

この芋虫は、今後、ピーターと呼ぶことにしよう。

「ピーター、ちょっとこっちへおいで」

いつも庭先で僕を見ているジェシカが僕を呼んだ。

「あなた、昨日まで芋虫だったのよね」

「そうです」

「どう?人間に変身した気分は」

僕は返答に戸惑った。

「悪い気はしませんが」

ジェシカは言った。

「あなたはこれから色々苦労すると思うわ」

「苦労とは具体的には?」

「それは答えられないわ。とにかく色々な苦労よ」

「ジェシカ。僕は昨日まで芋虫だったのです」

「知ってるわ」

僕は訊いた。

「どうしたら人間としてうまくやっていけるのでしょう」

ジェシカはさらりとこう答えた。

「知らないわ」

僕は困った。

「知らないんですか」

「知らないわ」

「どうしよう!どうしたら……」

ジェシカは言った。

「ピーター、困ってるみたいね。じゃあ、力になれそうな人を教えてあげるわ」

「誰ですか」

「私の友だちに、占い師がいるの。その人に訊いてみる?どうする?」

「そうですね。じゃあ、ぜひ」

「その人は、この町の外れ、ジュピター通りに住んでるのよ。ジュピター通りってわかる?」

「ジュピター通り。わかんないな」

「ちょっと待って。いま地図を描くわね」

ジェシカは破いたノートに黒のボールペンで、地図を描き始めた。

「ここが現在地。それで、ここがジュピター通り。それで、ここ。赤で描いとくわね。ここが、占い師の友だちが住んでる家。わかった?わかったわね」

僕は地図を見て答えた。

「わかったと思う、たぶん」

僕はジェシカに訊いた。

「占い師の名前は?」

「アレク」

「アレク。わかった」

「ところでピーター、あなた人間になれて得したんじゃない?」

「なんで」

「だってあなた、芋虫では占い師とは縁がないままよ」

「そうですね」

ジェシカは言った。

「まずは、アレクに会えるところまでいけるように頑張りなさい」

「はい。あのタクシーで行ってもいいですか?」

「ピーター、あなたタクシー代あるの」

「ないです」

「じゃあ、何とかするしかないわね」

「歩きですか?」

「好きにしたら。知らないわ」

ピーターは地図を渡されても実はよくわからなかった。「自力で行くのは無理だろう」ピーターはそう思った。それで、ピーターはタクシー代をくすねるために、空き巣狙いをすることにした。ジェシカの近くに丁度いいアパートがあった。ピーターはそのアパートを狙うことにした。


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