第129話 ティムは打ち明ける
ギルドの奥に存在する、ギルドマスターの許可が無ければ入れない部屋に、六人の人間が滞在していた。
「それにしても、ティム。随分と強くなったんだってな」
そう言って、俺に話し掛けてきたのはユーゴさん。
彼は、俺がダンジョンでニコルたちに襲われていた際に駆け付けて、命を救ってくれた人物だ。
「そ、そこまででもないですよ」
「いや、俺にはわかる。一つ一つの動作の俊敏性さ。本職の斥候に引けをとらないだろ?」
手を振って否定していると、斥候職のリベロさんが、油断ならぬ視線を俺に向けていた。
「それにしても、ティム君。本当に強く、有名になったよね。私が最初から目を付けていただけある」
ミナさんが、うんうんと頷く。
「こうしてまた会えて嬉しいですよ。ティムさん」
オリーブさんが心の底から嬉しそうな笑顔を俺に向けてきた。
「それで、ティム。他の人間に聞かれたくないからって、この場所を提供したが、どういった要件なんだ?」
ギルドマスターが俺を見ている。相変わらずの威圧感を覚えるが、彼はこれが素なのだろう。
サロメさんを見ると、彼女が頷いた。俺は改めて、この場の全員を見渡すと話を始めた。
「今日集まってもらったのは他でもありません。俺の力について皆さんに話しておこうと思いまして」
「ティムさんの……力。ですか?」
「何かあるとは思っていたが……」
オリーブさんが目を丸くして困惑し、リベロさんが驚く。
「それって、俺たちに話していいのか?」
ユーゴさんが確認し、ミナさんが試すような目で俺を見ていた。
「俺は【覚醒者】です」
その場の四人がかたまる。
ギルドマスターとサロメさんには話してあるので、特に驚く様子もない。
「【覚醒者】……って、たまに出現する、ギルドのエース候補だよな?」
「王都とかだと、たまに出現するんだよね? なんか、珍しいスキルを取得したりとかさ……」
ニコルの『パラディン』やガーネットの『剣聖』、フローネの『錬金術士』などがそうだ。
「まあ、四層を単独で動き回るんだ。そのくらいじゃないと説明がつかない」
リベロさんは即座に冷静さを取り戻した。
「それで、ティム。俺たちにそれを明かしてどうするつもりだ?」
「わざわざ、こんな場所まで借りてね」
ユーゴさんとミナさんが、目的を知りたいと告げてくる。
「御礼をしたいんですよ」
「「「「御礼?」」」」
「あの時、皆さんが駆けつけてきてくれなかったら、俺はあのまま殺されていました」
襲撃の時の話をする。
「いや、普通、誰かが襲われていたら助けるだろ?」
「ましてやそれが、オリーブの……」
「ミナ?」
ミナさんが何か言おうとしたところ、オリーブさんが低い声を出して黙らせてしまった。
「それは、ティムが俺たちのパーティーに入ってくれるってことであってるか?」
「いいえ、ティムさんは既に王都でパーティーを組んでいる女性がいますので」
リベロさんの説を、サロメさんが横から口を挟み否定する。
「ここからは、ギルドマスターもサロメさんも知らない話です。できれば、皆さんにも内緒にして欲しいんですけど」
俺の確認に六人が頷く。俺は、覚悟を決めると、これまでガーネットとフローネしか知らなかった、俺の能力について説明をする。
「俺が【覚醒者】になった時に得たのは、ユニークスキル『ステータス操作』というものです。これは、文字通り、自分のステータスを操作することが出来るスキルなんです」
「ティム。そもそもステータスっていうのは何なんだ?」
ガーネットやフローネにした時と同じ反応を、ギルドマスターもする。
「ちょっと解り辛いかもしれませんが、聞いてください。ステータスと言うのは……」
他人に説明するのは三度目だ。俺は皆にステータスについて説明をした。
「なるほど、俺たちには『ステータス』というものが備わっていて、ティムはその数値化された内容を見ることができて、さらにその数値を操作することができると……」
険しい表情を浮かべた、ギルドマスターが俺の説明をまとめあげる。
「えっと……、その他にも、職業と呼ばれるとレベルが存在していて、モンスターを倒して強くなるのは経験値を得てレベルが上がるから?」
「さらに言うと、職業を変更すると補正値が変わって一時的に弱体化するけど、他の職業も上げると様々なスキルを取得できるって?」
「スキルポイントとステータスポイントというものがあって、それらを自由に振り分けることができるので、習得に苦労する魔法やスキルが一瞬で手に入るんですか?」
ミナさんもリベロさんもオリーブさんも混乱しながらもどうにか内容についてきてくれた。
「流石に……反則過ぎるだろ……」
ユーゴさんが戦慄した眼差しを俺に向けてきた。
「なるほど、ティムさんの『アイテムボックス』が覚醒者のユニークスキルではなかったのですね……。剣も魔法も最高レベルで扱える、無敵ですね」
サロメさんも納得した様子だ。
全員が、あり得ない者を見るような目で俺を見ている。
「確かに、とんでもない秘密だ。こんなの知ったら、強引にでも自分のパーティーに引きこもうとするやつが増えるぞ」
「あらゆるスキルと魔法を扱えて、本職以上の強さを発揮する。しかもまだまだ伸びしろ十分って……、どのポジションに配置しても活躍できるよ」
「そうは言っても、ユーゴさんたちはそんなことしないじゃないですか」
ギルドの他の冒険者がてのひらを返して勧誘してきたが、ユーゴさんたちだけはチラリともその手の話を匂わせてこなかった。
「確かに、これだけの秘密を告げられたんだ。御礼とは違うかもしれないが……、ティムの誠意は感じ取れたな」
「正直に打ち明けてもらえて嬉しかったです」
リベロさんとオリーブさんが纏めに入ってしまい、なんだかよい雰囲気が流れ始めた。
「しかし、あの万年ゴブリン狩り専門のFランクが、ここまでになるとはな……」
「彼の成長は嬉しくもあるのですが、どこか寂しくなりますね」
駆け出しの頃を思い出したのか、ギルドマスターとサロメさんがそっと目元を拭った。
だが、待って欲しい。打ち明けて終わりとは誰も言っていない。
俺は、手を挙げると、改めて皆の注目を集めた。
「さて、ここからが本題なんですけど」
「「「「「「ん?」」」」」」
話を終わらせようとしている皆に告げる。
「俺の『ステータス操作』はパーティーを組んだ仲間に対しても有効です」
「「「「「「はあああああああっ!!!!!!」」」」」」
俺が御礼をするのはこれからだった。
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