第128話 マロンの観察
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私は今、遠くから二人の男女の姿を観察していた。
男の方は同期冒険者のティム。研修時代から一際人目を引く部分があるのだが、どこか抜けたところがある男。
女の方はグロリア。私はリアと読んでおり、幼少のころから行動をともにしており、一緒に冒険者になるため街にでてきた幼馴染みだ。
彼女の今日の衣装は清楚なワンピース姿。普段はローブに身を包んでいるのに対し、惜しげもなく肌を晒している。
すべては私のコーディネートの成果だ。
周囲で待ち合わせをしている男どもは、リアの可愛らしさ心を奪われ、ベンチでいちゃついているカップルの男は、リアに見惚れて女に腕をつねられている。
リアはティムが何か話すたびに表情を転がしていた。これ程遠い場所だと会話は聞きとれないが、ティムの手の動きと唇、そしてリアの反応を見ると、おそらく衣装について褒めたのだろう。
一体、いつのまにそんな芸当を表情ひとつ変えることなくできるようになったのか?
ティムが着ている衣装も、この辺の冒険者では背伸びしても持てるようなものではなく、それなりに洗練しており、王都で流行っている服だと予測がついた。
以前のティムならば、日々の武器や防具にしか目が行かず、こうした服に関しては無頓着だったはず。誰かしらの介入があったに違いない。
二人はまるで付き合いたてのカップルのように連れ添って歩き出すと、ショッピングモールへと歩き出す。
私は、二人に気付かれないように、変装すると、後をつけるのだった。
歩き出して数分が経ち、ショッピングモールの入り口に入って行く。
ここは、街の中でもメインストリートになっていて、様々な食材や衣服に生活雑貨などなど、便利な道具が売っているので、私も良くリアと一緒に訪れてはカフェなどでお茶をしてたりする。
人混みが多く、いつも二人してナンパを断りながら目当ての店を目指すのだが、今回のリアはとても楽しそうだ。
向かいから人がくれば、さりげなくティムが身体を動かしリアを庇うし、彼女が歩きやすい道を予測して進行方向を決定している。
そのお蔭もあってか、リアが人混みに巻き込まれることはないので、安心して買い物ができる。
ティムはリアのことをよく見ているようで、彼女が気になる店に視線を送るのを見逃すことなく声を掛けると、店内に入って行く。
しばらく店の入り口を見張っていると、ティムの手に荷物があり、リアは嬉しそうに笑っている。どうやら店内でのエスコートも完璧のようだ。
いくつかの店をめぐり、それなりに荷物も増えていく。
リアは普段にもまして色々買っているようだし、ティムは嫌な顔一つせずに荷物を持っている。
少ししてショッピングモールを抜けると、今度は露店市場へと二人は足を運んだ。
ここは、店舗を持たない個人や、行商人などが店を出す場所で、ガラクタのようなゴミアイテムから掘り出し物まで、目利きが大事となる場所だ。
もちろん、それ以外にも見習い職人が作った装飾品なども並べられており、リアは露店の一つに貼り付くと、目を輝かせて装飾品を見ていた。
店員とティムが何やら会話を交わす。金を支払うと装飾品を受け取った。
ティムはそれをリアに渡そうとするのだが、リアは両手を振って受け取れないと断っているようだ。
ティムが何か言葉を掛けると、しぶしぶといった様子で頷くのだが、顔を上げたときには嬉しさを隠し切れないかのように顔を綻ばせていた。
店員が何か言葉を発すると、ティムが珍しく慌てだす。リアが期待するような眼差しを彼に向けると、ティムは頭をかくと観念したかのような表情を浮かべ、手に持っている装飾の鎖を外すと、背を向けるリアの首に着けてやった。
二人して顔を赤くしており、店員がからかいの言葉を口にする。
私は内心でこの店員の素晴らしい接客に称賛をおくった。
それから、二人は露店を一通りめぐると、次に広場へと入っていった。
ここでは、大道芸やら詩人の歌やら、とにかく人を楽しませる催しものが多く開催されている。
中には腕試しとして剣を振るい、負けたら賞金を出すといった修業を兼ねた金稼ぎをするような者もいたりする。
しばらく歩いては、弱いモンスターに芸を仕込んだ大道芸などを見てはおひねりを入れて、時には売店で軽食を買って二人で食べ歩く。
リアの機嫌を取るために買い物に付き合うことと言っていた私だが、どうみてもあの二人の行動はデートそのもの。
昔の自信のなさがなんだったのかというくらい、ティムは完璧にリアを楽しませていた。
「……いいなぁ」
思わず言葉が漏れる。
リアとは親友だし、ティムには他の男にはない親しみを感じている。
元々、研修時代にリアから散々ティムのことを聞かされていたので、彼の人となりは知っていたし、他の男どもと違って、こちらを見下すような視線も、下卑た視線をむけてくることもなかった。
リアが意中の相手と結ばれるのは嬉しいし、こうして喜んでいる姿を見るのは良いのだが、どこか寂しさと羨ましさが溢れてきてしまった。
二人は相変わらず、仲睦まじく歩いている。きっとこの後は気の利いたお洒落な店で食事をするのだろう。
いつしか私はその場に立ち止まると、二人の背中を見送るのだった。
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