第127話 グロリアとのお買い物
周囲には様々な花が種類ごとに植えられた花壇があり、整備された地面は石が敷き詰められている。
公園の中央には大きな時計台があるのだが、周囲を囲む噴水と相まって、多くの人間が憩いの場としてここを訪れ、食事や昼寝、あるいは談話を楽しんでいる。
「時間の十分前か……」
懐中時計を出し、時刻を確認する。
わざわざそんなことをせずとも、上を見上げればわかるのだが、どうにも落ち着かないからだ。
それと言うのも、周囲のベンチに腰かけているのは男女のカップルがほとんどで、他にも待ち合わせ中なのか時計台の周囲には同じような男が立っていて、そわそわとしていた。
俺はその場の空気にあてられ、居心地の悪さを感じていると、時間の五分前になってようやく待ち合わせの相手が姿を現した。
「はぁはぁはぁはぁ……。ティム君、おまたせ」
俺の目の前で膝に手を置き、息を切らしているグロリア。今日の彼女は髪を結い上げている。
着ている服も、冒険者として活動する時の防具ではなく、ワンピース姿をしていて露出が激しい。見下ろす角度では見えてはいけない薄桃色の紐が目に映り、俺は彼女が気付く前に顔を逸らしてなかったことにした。
「別に遅刻しても怒ったりしないから、ゆっくり来ればよかったんだぞ?」
冒険者研修時代も授業の15分前には教室にいたことから、先に待っているかと思ったので早めに来たが、まだ時間前だ。
彼女は息を整えると俺を見て恥ずかしそうに言った。
「だって、せっかくのティム君に買い物付き合ってもらうんだもん。少しでも長いほうがいいし」
その仕草に思わず心臓が高鳴る。
元々、グロリアとマロンは研修時代から目立っていた。
彼女たちは容姿が整っていたので、お近づきになりたい男は多く、研修中にも何人からか告白をされたという。
そんな彼女だが、なぜか俺には普通に話し掛けてきてくれていたので、これまで良い友人だと思い接してきたわけだが……。
「別に買い物くらいで大げさな……」
なぜ、俺とグロリアが待ち合わせをして、こんなやり取りをしているのかと言うと、昨日一向に泣き止まなかったグロリアをマロンがとりなした結果だ。
その時に、自分たちを騙したことを許す条件を突き付けられたのだがそれが『グロリアの買い物に付き合う』ことだったのだ。
「それにしても嬉しいな、ティム君が付き合ってくれるなんて」
「そうか? 言ってくれればいくらでも付き合うけど?」
グロリアとマロンは有名なので、少し歩けばまず男どもに声を掛けられてしまう。なので好きに買い物をするためには、誰かが露払いをしてやる必要があるのだ。
これならば、彼女にもメリットがある提案なのだが……。
「でも、罰って辛い目にあわせることだろ? これじゃあ罰にならないんじゃ?」
俺はポツリと意見を述べた。
「どういうこと?」
グロリアが首を傾げると、髪がサラリと揺れる。
「えっ? だって、俺はグロリアとの買い物するのは楽しいし」
パーティー申請の件で断ってから、少しの間ギクシャクしてしまっていたので、こうしてまた話せるのが嬉しかったりする。
荷物持ち程度なら別に問題ないし、どうせ街をぶらぶらしようと考えていたのでちょうどよいくらいだ。
「も、もうっ! ティム君! そういうところだよっ!」
彼女は突然顔を赤くすると怒り出す。
ただ本心を告げただけなのに、何かまずかったのだろうか?
俺はサロメさんやパセラ伯爵夫人に教わった女性の扱い方を思い出す。
「あっ、その服も似合ってるな」
「……っ! ‘#&”$!」
顔を真っ赤にすると俯いてしまう。
「グロリア?」
完全に俯いて固まっていたグロリアだったが、顔を上げ両手を顔から外すと、俺を睨みつける。
「何……最近の王都ではそんな口説き方まで教えてるの?」
「えっ? 教わったことはないけど……」
俺が困惑していると、グロリアは耳を真っ赤にしながら説教をするのだった。
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