第116話 改装する

「そっちの机は運び出して、買い取り業者に回してくれ。その後1階フロアは改装して、2階は個人の部屋にするので清掃を優先で頼む」


 現在、俺は借りた物件に手を入れるため業者に指示を出していた。

 それというのも、この店は建ってから結構な年数が経っているので、建物がボロくなっており、ところどころ隙間風やネズミが通る穴なんかもあった。


 国に税金を納めるため、俺とフローネの住居をここにしたのだが、住むところができたのなら、いつまでもパセラ伯爵家に居候しているわけにもいかない。


 キッチンの方ではフローネが業者と真剣に打ち合わせをしている。


 せっかくなので、壊れている調理道具も含めて修理・メンテナンスをさせることにした。


 そんなわけで、引っ越しのための作業に追われている俺たちだったが……。


「この荷物は二階の部屋に運んでください」


 俺たちの他に、業者に指示を出す人間を発見する。


「ガーネット、何をしている?」


 俺が話し掛けると、彼女は業者との会話を打ち切って走り寄ってきた。


「えっ、勿論引っ越しですけど?」


 彼女は首を傾げると当然とばかりに返事をした。


「お前もここに住むつもりなのか?」


「当然です! だって、フローネを買うお金の半分は私も出したじゃないですか?」


 所有権は俺になっているが、オークション資金の半分は彼女が出している。正当な主張に聞こえなくもない。


「実家の部屋の方が広いだろうに……。わざわざ住まなくてもいいんじゃないのか?」


 こちらの住居には世話をしてくれる人間もいないのだ。わざわざ不自由な方に引っ越す理由がわからない。


「だって、私だって……と、一緒にいたいですし」


 彼女は顔を赤らめると俯き、ぶつぶつと呟く。


「なるほど、確かにガーネットはフローネと仲が良いからな。離れたくない気持ちは理解した」


 あまりよく聞き取れなかったが『一緒にいたい』という部分は聞き取れた。


「だけど、家を出るとなるとパセラ伯爵が良い顔をしないんじゃないか?」


 あの人は基本娘に甘い。先日、晩餐の時、俺が『フローネの住所登録で家を借りたのでそちらに住むことにします』と言った時も残念そうにしながら何度も引き留められた。


 俺でさえ、他に住むのを惜しまれたのだから、ガーネットもとなると許可が下りないのではないか?


「平気です。御父様にも御母様にも許可はもらいましたから」


「まあ、それならいいけどさ……」


 彼女の両親が了承しているのなら、俺から特に何か言うことはない。


「それにしても、一階フロアの改装までするんですね?」


「ああ、俺たちが狩りをするとドロップアイテムが溜まっていくだろ? 棚を用意しようかと思ってな」


 元酒場ということもあり、結構な広さがあるのだが、ここに店を出すつもりはない。古いテーブルなどは撤去して、少しでも多くのアイテムを保管できるようにしようと考えている。


「なるほど、それにしてもフローネさんを購入する費用に加えて、こんな物件まで借りてしまうと、金銭が心もとないのではないでしょうか?」


「よくわかるな、今回の引っ越しと改装ですっからかんになったよ」


「だったら、この後私と稼ぎに行きませんか?」


 ガーネットがそんな提案をしてきた。


 俺は建物内で働く業者の様子を窺う。皆やることがわかっているようで、忙しなく動き回っている。


 フローネを見ると、周囲の人間にバンバン指示を出しているので、ここは彼女に任せても問題なさそうだ。


「そうだな、久々に二人で稼ぎに行くか」


「はいっ! えへへへへ、楽しみですね」


 俺がそう返事をすると、ガーネットは微笑むと「今日はどこのダンジョンにお出かけしましょうかね?」とまるで遊びに行くかのように浮かれた様子を見せるのだった。

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