第114話 家を借りる

「さて、今日中に決めないとな……」


「はい、よろしくお願いします」


 俺とフローネは互いに真剣な表情を向けると、頷きあうと不動産屋への扉を潜った。


 それと言うのも、先日、パセラ伯爵家に届けられた王国からの書類が関係している。


「まさか、住むところが必要だったなんてな……」


 この国において、奴隷を所有している場合、奴隷税を支払わなければならない。


 その金額は奴隷価値に応じて増えていくのだが、問題はそこではない。


 所有する奴隷がどこに住んでいるのか住所を登録する必要があったのだ。


 これまでの、俺の王都での滞在先はパセラ伯爵家なのだが、あくまで居候の立場なので住所として認められていない。


 フローネがパセラ伯爵家の奴隷だというのなら問題ないのだが、早期解放を考えて所有権を俺にしてあったため、王都に俺の家を用意する必要があるのだ。


 俺たち三人が依頼をこなすため、王都から離れている間に王国の税務部から住所登録及び初年の奴隷税の催促状が届いていた。


 パセラ伯爵も伯爵夫人もてっきりその辺の手続きをしているものだとばかり考えており、俺たちが戻ったころには期限を超えてしまっていたというわけだ。


 一応、パセラ伯爵を通して税務部に口を利いてもらっているのだが、早急に家を借りて税金を納める必要がある。


 そんなわけで、俺とフローネは住む場所を決めるべくこうして時間を割いている。


「いらっしゃいませ、新婚さんですか?」


 店内に入ると、四十代くらいの店員の男が話し掛けてきた。


「いえ、違います」


 今の俺とフローネの関係は主人と奴隷なのだが、その言葉を口にして、あまり彼女を傷つけたくない。


 店員は俺たちの関係を探るために観察しているのだが、どういう物件を勧めるか判断するために必要なことなのだろう。


「この店は、王都中の物件を取り扱っておりますので、きっと御客様が気に入られる建物が見つかるかと思いますよ」


 そう言いつつ、ソファーを勧められる。

 店員は他の従業員にお茶と資料を持ってくるように言うと、俺たちの向かいに座った。


「御客様はどのような仕事をされているのでしょうか?」


「俺は冒険者で現在のランクはDです」


「なるほど、その若さでDランクとは。優秀な方なのですね」


 おそらくお世辞なのだろうが、驚いた様子で褒められた。


「利用目的は居住ということでよろしかったでしょうか?」


 店員が確認してくる。


「ええ、できれば貴族区と商業区に近い場所がいいですね」


 家を借りるからには俺もそちらに住む予定なのだが、ガーネットが訪ねてくることを考えて、なるべくパセラ伯爵家に近い場所にしようと考えている。


「そうしますと……」


 店員はパラパラとファイルを捲りながら、物件の内容が書かれた紙を抜き出していく。


 間取りを見る感じ、二人で住むのにちょうど良い感じの家だ。


「フローネも要望があれば遠慮せずに言ってくれて構わないぞ」


 どうせならお互いの意見を取り入れた方が良いだろう。

 フローネは俺と同じように物件を見ながら考え込むと、


「料理がしたいので、それなりに設備が整っていると嬉しいです」


「そうなりますと、少し大きめの家になりますな」


 そう答えると、家族四人くらいで住む物件を抜き出しはじめた。

 フローネの横顔を観察してみる。


 彼女は真剣な様子で間取りを確認しているのだが、浮かない表情を浮かべている。

 おそらくだが、料理に関しては譲れない部分があるのだろう。


 俺も、フローネが真剣に作った料理を食べたい。


「フローネ、遠慮するなと言っただろ? 家賃とか設備費はなんとでもなる。本当にやりたいことを言ってくれ」


 彼女は振り返ると驚いた顔をする。俺は目を合わせると頷いた。


「えっと……。業務用の大型冷蔵庫と、高火力を出せるオーブンが欲しいです。他には……」


 料理のための設備をつらつらと上げていく。店員はその要望をメモしていく。


「……という、感じなんですけど?」


「うーん、この条件ですと元飲食店の物件になりますな」


「構いません、広い分には困らないと思うので」


 場所が広いのならこちらにもメリットがある。市場に流したくないレアアイテムなどを保管するのに使うつもりだからだ。


「その手の物件となると商業区に中にありますからな。差し支えなければこれから御案内いたしますが?」


「どうする?」


「ええ、間取りだけではわからない部分もありますので、一度見てみたいです」


 フローネの答えを聞くと、俺たちは物件を見るために商業区へと向かうのだった。



※いよいよこの作品の書籍化作業が本格的に始まりましたので、更新頻度がもう少し落ちます。

1巻の内容だけで文字数が大幅にオーバーしてしまうので、恐らく半分近く書き下ろしになる予定です。

本になるまでの間、御不便をお掛けしますが、お待ちいただけると嬉しいです。


新作の『「お前を追放する」追放されたのは俺ではなく無口な魔法少女でした』はストックがかなりありますので、もしよければそちらを読んでお待ち頂ければ幸いです。

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