第113話 フローネのリストラ
「今回の冒険は色々と得るものが多かったな」
「そうですね。フローネのお蔭で食事が美味しかったので、楽しく依頼をこなすことができました」
「そ、そんな……私はたいしたことはしていません。むしろ足を引っ張ってしまったくらいですから」
依頼に出てから五日が経ち、俺たちは王都へと戻ってきた。
モンスターが出現すればフローネに戦わせ、森などで採取をすれば、植物についてフローネから教わる。
彼女はありとあらゆる食材に精通しているらしく、食材の利用方法について一つ一つ話してくれた。
そのお蔭もあってか、依頼に訪れて数日も経つと、馬車の中は彼女が仕込んだ調味料で溢れているのだった。
「そんなことはないです。フローネが狩りをしたからこそ短時間で見習い冒険者を上げることができたんですから」
彼女はどんな敵を相手にもひるむことなく、短剣一本で戦っていた。お蔭で次に進める前提条件の見習い冒険者レベル15を達成し、今は錬金術士レベル1へと職業を変更している。
「それにしても、レベル1でこの補正の付き方は羨ましいです。私の【剣聖】は魔力と精神力に補正がつきませんから……」
俺とフローネはガーネットが見ているメモを覗き込んだ。
名 前:フローネ(奴隷)
年 齢:17
職 業:錬金術士レベル1
筋 力:29+1
敏捷度:39+2
体 力:24+1
魔 力:25+4
精神力:15+3
器用さ:30+3
運 :20+1(-100)
ステータスポイント:115
スキルポイント:51
取得ユニークスキル:無し
取得スキル:『料理作成レベル4』『お菓子作成レベル2』『取得経験値増加レベル5』『取得スキルポイント増加レベル5』『取得ステータスポイント増加レベル5』『ポーション作成レベル1』
「だけど、剣聖は補正の合計が20に対して、錬金術士の合計は15だからな。戦闘に特化しているのはガーネットの方だろう」
「おそらく、錬金術士というからには何かを作るのがメインで、ステータスもそちらに合わせられているのではないでしょうか?」
フローネも話に入ってくる。
「ああ、とりあえず錬金術士に職業を変えた際『ポーション作成』のスキルを取得したからな。スキルポイント10使ったが、これまでの経験から考えて相当使えるスキルのはずだ」
俺の『スキル鑑定』で確認したところ『ポーション作成』の効果は以下になる。
『ポーション作成』……スキル【1】ポーション【2】マナポーション【3】解毒ポーション【4】ハイポーション【5】ハイマナポーション
いずれもダンジョンドロップで入手可能なアイテムなのだが、それを人為的に作ることができるとなると話は変わってくる。
効果の程も、ダンジョンドロップより優秀な可能性があるので、もし活用できるようなら借金もあっという間に返済可能だろう。
「ひとまずステータスの振り分けについては、この錬金術士とやらがどういう方向性の職業なのか確認してからになるな」
補正を見るに、魔力と精神力に寄せればよさそうな気もするが、料理人という職業を活かす兼ね合いもある。
今のところ低レベルモンスターの相手で間に合っているので、それほどステータスを必要としていない。
じっくり適性を見てやればいい。
「とりあえず、久しぶりのベッドだからな。今日はゆっくり休もうぜ」
「そうですね、その方が良いかと思います」
パセラ伯爵家の門が見えてきたので、俺とガーネットが顔を見合わせ笑い合う。
すべてが順調に進んでいる上、フローネが優秀だったのが嬉しいのだ。
俺たちが門を潜り抜け、屋敷に入ると伯爵夫人が姿を現す。
「あなたたち、どこに行ってたのです?」
「お母様、ただいま戻りました。ちょっと依頼で街から離れていただけですけど?」
「すみません、思いの他外での狩りが捗ったもので」
そう言えば、戻る日程については話していなかったと思い出す。
伯爵夫人は手に紙を持って険しい視線を俺に送っている。
「あの……何かあったんですか?」
彼女は紙を俺に渡してくる。俺は受け取ると内容を読み始め、ガーネットが横から覗き込んできた。
「えっと……私は屋敷の仕事に戻った方がいいですよね?」
内密な話だと思ったのか、フローネが伺いを立てるのだが……。
「いや、そこにいてくれ」
「えっ?」
戸惑うフローネに伯爵夫人は言った。
「このままだと、ティムさんがフローネの所有権を失ってしまうかもしれないのよ」
その場の全員が沈黙するのだった。
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