第111話 モンスターは食材です

「ど、どこか変ではないでしょうか?」


 フローネは恥ずかしそうな表情を浮かべると、自身の服装を気にして見せる。


「問題ありません、フローネ。とてもよく似合ってます」


 ガーネットは手放しでフローネを褒めて見せた。


 彼女が身に着けているのは特注のメイド服で、防護魔法が付与されているので見た目とは違い、それなりの防御力がある。


「冒険者の心得に関してはきっちり習ってきたな?」


「はい、御迷惑をお掛けしないように頑張ります」


 この服ができるまでの間、彼女を冒険者研修へと参加させていた。


 そのお蔭もあってか、フローネの選択職業にも『見習い冒険者』が出てきたので、スキルを出現させるため、今は職業を『見習い冒険者』へと変更してある。


「とりあえずこれから数日、俺たちは街の外に出て小型モンスターを中心に戦っていく」


 王都の中には様々なダンジョンが存在するので、そちらで狩りをしようかと考えていたのだが、フローネが奴隷に落ちた経緯を確認したところ、どうにも怪しい連中が存在している。


 俺とガーネットがダンジョンで何度か遭遇した冒険者などが明らかに怪しい。


 そんな連中と遭遇したりすれば、彼女の心の傷を抉ることになりかねない。


「安心してくださいね、フローネ。初めは命を奪うことに強いストレスを感じるかもしれませんが、そのうちなれますので」


 主従の関係上呼び捨てにしているガーネットだが、フローネのことを姉のように慕っている様子で話しかけている。


「よーし、それじゃあ出発するから馬車に乗り込んでくれ」


 そんな二人を促すと、俺たちは街の外へと出て行った。




「それじゃあ、今日はこの草原周辺で狩りをすることにしよう」


 王都の南門をでて数時間。俺たちは途中から街道を逸れた草原へと来ていた。


 馬車が一台通れる道を進んだこの場所は、目の前に湖と林があるほかは何もない、比較的弱いモンスターが棲みつくことで有名だった。


「ガーネット、ここの見張りは頼むな」


「お任せください、ティムさん。私は魚でも釣って待っています」


 どんと胸をはるガーネット。フローネの訓練と言うことでついてきたが、彼女は馬車の見張り役なのだが……。


 以前、俺が晩飯用に釣りをしていたのが楽しそうに映ったのか、今回の食糧調達を是非にと手を挙げたので任せることにした。


 本人も早く釣りがしたいのかそわそわした様子を見せている。俺はちゃんと釣れることを祈っておくことにした。


「それじゃあ、フローネ。まずはこの湖を一周する。その間に湧くモンスターがいたら倒してもらうからな?」


 それなりに広い湖なので、普通に一周するだけで数時間かかるだろう。その間にモンスターと何度か遭遇するだろうし、戻るころにはちょうど夕飯時となる。


「はい、御主人様」


 特に気負うことなく返事をする。


 俺はフローネを連れて歩き出した。




「しかし、のどかな天気だな」


 ダンジョン内のジメジメした空気とは違い、草花の臭いと暖かい風が頬を撫でる。


 俺は、画面の地図を見ながらフローネに話し掛けていた。


「ええ、そうですね。御主人様」


 風が彼女の髪を揺らす。最初は険しい表情を浮かべていたフローネだが、歩いている間に緊張が解けてきたようだ。


 スカートをなびかせて振り向くと笑みを浮かべていた。


「ひとまず、無理はしなくていいからな」


 彼女は俺が所有している奴隷となっているので、命令に逆らうことができない。

 だからこそ、無理をしていないか、嫌がっていないかについては慎重に観察しておく必要がある。


「大丈夫です。御主人様の下での生活は考えていたのに比べ、十分幸せですから」


 そう言ってもらえると、大金をはたいた甲斐がある。


 俺とフローネは話をしながら湖を回っていた。


「フローネ、この先にモンスターの反応がある。武器を構えてくれ」


「わかりました」


 フローネの太ももが露わになった。


 フローネの太ももにはホルダーが付けられていて、そこには短剣が何本もある。彼女はその内の一本を抜くと構えを取った。


「そこの茂みから、来るぞっ!」


『ラビビッ!』


 現れたのはホーンラビット。測らずともガーネットが初めて殺したモンスターと同じだった。


「見た目は可愛いが、油断するなよ? そのメイド服の防御力なら大丈夫なはずだが、角の攻撃は厄介だからな」


 ガーネットの時を思い出すと忠告をする。


 フローネもガーネットと同じくらい気弱で優しい女性なので、倒せるのかと考えた。


「ステータスは振り分けてある。今のフローネならそれほど苦戦せずに倒せるはずだ」


 勿論、ちゃんと戦えればの話だが、こればかりは慣れていくしかない。


『ラビビビッ!』


 ホーンラビットは鼻をピスピス鳴らし、赤い瞑らな瞳をフローネへと向けた。


 次の瞬間、フローネが走り出す。


 彼女はホーンラビットと一気に距離を詰めると……。


『ラビッ!』


 大人を蹴り飛ばせる脚力でホーンラビットが跳ねる。


 フローネはその攻撃を見極め、冷静に避けると、


「はっ!」


『ラビュ~!』


 心臓を一突きしてホーンラビットを屠って見せた。


 耳を持ち、首を掻っ切ると逆さに持ち、ダラダラと血を流させながら俺の方を向く。


「よくやったな、フローネ。怖気づいたりしなかったのか?」


 ガーネットの時とは違い、冷静に相手の急所を突いていた。俺はフローネの意外な動きが気になり聞いてみたところ……。


「勿論です、御主人様。私は料理人ですから、食材の鮮度を落とすような真似はできませんから」


「……なるほど」


 彼女の目には料理人としてのプライドが宿っていたのだった。

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