第88話 問題解決

「なんだとっ!?」


 ニコルの慌てた声が響くと、倉庫すべての入り口から兵士が押しせた。


 もちろん偶然などと言うことはない。


 あらかじめパセラ伯爵に掛け合って準備しておいたのだ。


「こりゃ、嵌められたっすね」


 声に聞き覚えがある男が呟く。以前、背後から俺を刺した男だ。


「ふざけるなよっ! こんな嵌め手で逮捕だとか認められるかっ! 卑怯だろっ!」


 ニコルの言葉を否定はしない。


 やつが俺を殺そうとした襲撃者という証拠がなく、決め手に欠けていた俺はガーネットに協力してもらい、ニコルを罪人に陥れたからだ。


 このまま後手に回ると、何をしでかすかわからない恐怖があったことも事実だが、あまり褒められたやり方とは言えないだろう。


「そちらこそ、ティム先輩を暗殺しようとしたくせに。卑怯者はどっちですか!」


「何っ!」


 ニコルの目が俺から外れガーネットへと向く。


「ティム先輩がベッドに横たわり物言わぬ身体になってしまった時。私がどれだけ怖かったかわかりますか?」


「はっ、噂の誑しっぷりは確かと言うわけか。そうやってサロメも誑し込んだのかよ?」


 ガーネットの言葉をまともにとり合おうとせず俺に嫌味をぶつけてくる。


「私は、あなたを絶対に許さない」


 ガーネットはニコルを睨み付ける。


「許さないって? だったらどうする?」


「ティム先輩! 剣を貸してください」


「ああ、わかった……」


 俺が彼女に向かい剣を投げると、ガーネットはそれをほとんど見ることもせず受け取った。


「生意気な……、兵士たちに守られて気が大きくなってるのかもしれないが、やつらが駆け付けるまでにお前をぐちゃぐちゃにするくらい訳ないんだぞ」


「旦那……これ以上は無駄っすよ」


 俺を刺した男がニコルを止めようとした。


「何言っている、お前だってティムを刺したじゃないか。このまま捕まったら極刑なのは私だけではないのだぞ」


「ちっ! それをここで言うのかよ……」


 ニコルのせいで後に引けなくなったようで、男は短剣を抜く。


「『アイスウォール』」


「うおっ!」


 男の四方を氷の壁で囲う。


「ガーネット、そいつの相手は俺がする」


 ニコルならともかく、盗賊では壁を破壊することはできない。ガーネットが刺される未来だけは回避しておきたい。


「伯爵令嬢! 危険なことは御止めください!」


「今すぐこちらに向かって走ってください!」


 兵士がガーネットを止めようとする。


「構えなくて良いのですか?」


 ところが、ガーネットは兵士の言葉に耳を貸すことなくニコルと向き合っている。


「本気で調子に乗っているようだな? ティムならともかく、出来損ないの貴族の小娘に構えなんているか!」


 可愛らしい外見から無害に見えるガーネット。そんな彼女に侮られたのが腹立だしいのか、ニコルは両手を広げて打ち込んで見ろとばかりに挑発した。


「そうですか、では……『オーラ』」


 彼女の身体が輝き出す。


「なっ! なんだその光は!」


 ニコルは一歩下がると表情を強張らせた。


「あなたなどに、ティム先輩の命が金輪際脅かされることがあってはなりません」


 ガーネットがそう言うと彼女の身体から発せられたオーラが剣へと伝わる。


「私たちの目の前から永遠に消えてくださいっ!」


「ぐはああああああああああっ!!!」


 彼女が剣を振るとニコルの鎧を打ち吹き飛ばした。






「あっ、ティム先輩。剣をお返しいたしますね」


 スッキリした表情でガーネットが俺に剣を渡してくる。


 あれから、他の盗賊たちは抵抗することなく捕まった。


 どうやらニコルと、頭領と呼ばれた男を俺とガーネットで完封してしまったので、抵抗する気力が残っていなかったらしい。


「それにしても派手にやったなぁ」


 木箱にはニコルが埋もれている。足がピクピク動いていることから死んではいないようだ。


「ティム先輩の仇だと思うとどうしても怒りがこみあげてきてしまって」


 最後のオーラを剣に纏わせる技はなんだったのだろうか?


 とにかく彼女を怒らせてはいけないと俺は学習する。


「ティム先輩?」


 俺がニコルに近付くと、ガーネットは疑問を浮かべながらも付いてきた。


 胸元をまさぐり、奴が持っていた冒険者カードを見つけると俺の冒険者カードに重ねてパーティー申請を行った。


 名 前:ニコル

 年 齢:21

 職 業:パラディンレベル25

 筋 力:293+75

 敏捷度:162

 体 力:304+125

 魔 力:60

 精神力:122+75

 器用さ:198+50

 運  :253+50

 ステータスポイント:485

 スキルポイント:266

 取得スキル:『剣術レベル10』『格闘術レベル8』『バッシュレベル10』『シールドバッシュレベル7』『パリィレベル5』『コンセントレーションレベル8』『インパクト』『ヒーリングレベル5』『スピードアップレベル5』『スタミナアップレベル5』『パラディンガードレベル2』『僧侶スキル自動取得』


「なるほど……強いわけだ……」


俺はやつのステータスを見ると情報を引き出していく。


・『僧侶スキル自動取得』⇒僧侶系のスキルを自動で取得、スキルレベルを上昇させることができる


・『パラディンガード』⇒ 防御に集中することで、防御力を高めることが出来る。スキル【1】200%スキル【2】300%スキル【3】400%スキル【4】500%スキル【5】600%


 新しい職業の『パラディン』もそうだが、スキルもかなり強力だ。


 特殊な職業の場合、スキルを得るには多くのスキルポイントが必要なので、地力で会得しているのは本人の努力の証ということになる。


「……女性一人のために狂うというのは羨ましいことなのかもな」


 いつか自分もニコルのようにそんな感情を抱くようになるのだろうか。そう考えると震えてしまった。


「ティム先輩。何をされているのですか?」


 俺に寄り添うようにガーネットが身近にいる。俺はニコルの職業を『見習い冒険者レベル1』へと変えておく。


 ガーネットの職業も俺が操作しないと切り替わらないので、彼はこの先、強くなることができないだろう。


「これで、事件は解決かな?」


「そうですね、家に戻りましょう」


 俺がそう言うと、彼女は嬉しそうに腕を絡めると笑顔を向けてくるのだった。

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