第89話 サロメさんからの質問

『このたびは、御迷惑をお掛けしてしまって申し訳ありませんでした』


 通信の魔導具を通してサロメさんの声が聞こえてくる。


 ニコルを逮捕してから三日が経ち、やつが行なった犯罪行為が明るみにでてきた。


 俺は現在、王都にある冒険者ギルドにてサロメさんと通話を行っていた。


「いや、仕方ないでしょう。まさかそこまでの妄執は予想できないですから」


 事件の発端は、サロメさんに言い寄っていたニコルが俺のことを気に食わず、襲ってきたと言う話なのだが、どうやら彼女はことのほか責任を感じているらしい。


『そう言えば、事件が解決したということなら、ティムさんが健在という話を伝えてしまってよろしいでしょうか?』


「別に構いませんけど、他の冒険者が悔しがるだけでは?」


 何せ、あの街の冒険者ギルドには微妙な関係の人間が多い。わざわざ伝えずともしれっと復帰すればよいのではないかと考えていた。


『ところが、ティムさんの同期のグロリアさんとマロンさんがですね。ティムさんの容態を復活させるためにダンジョン奥にある【タリマモの実】を狙って毎日必死に狩りをしているんですよ。流石に不憫ですので……』


 大半の冒険者は俺に対し良い感情を持っていないと知っていたが、そんなことがあったとは……。


「二人には『埋め合せがしたいから戻ったら酒でも飲まないか?』と伝えてもらえませんか?」


 あんな断り方をしたせいでわだかまりがあったのだが、それでも俺のために動いてくれていたことを知り、彼女たちとの関係を修復したいと考えた。


『わかりました、伝えておきますね。それで、ティムさんは二週間後には戻って来られそうでしょうか?』


 襲撃事件も解決し、ガーネットの件も決着したのだが……。


「いえ、もう少しここにいてガーネットとこちらのダンジョンに潜ろうと考えています。彼女のために、俺が何かできる時間は……残り少ないですから」


『それは、ガーネットさんとパーティーを組む気がないということでしょうか?』


 サロメさんの質問を俺は無言で肯定する。


『なぜでしょうか? ガーネットさんは最初から最後まで常にティムさんのことを考え、寄り添っていたように見えました。何か不満があるのですか?』


 ところが、サロメさんは納得いかない様子で俺に質問を重ねる。


「それは『都合が良すぎる考えだから』ですよ」


『よく意味がわかりませんね?』


 元々、俺は彼女の「冒険者を続けたい」という意志を尊重するためにサロメさんの依頼を受けた。


 努力しても、人から顧みられないという境遇に同情した側面が強かった。


 依頼を受けた時点では、彼女とずっとパーティーを組むつもりはなく、一人前になったら別れると決めていたのだ。


 それが現在では、彼女は『剣聖』となり、今や俺に迫りつつあるステータスを獲得しつつある。


 最初は組むつもりがなかったくせに、彼女が優秀な力を発揮したから手元に置こうとする。


 それでは能力を示して俺にすり寄ってきた冒険者と同じだ。


 俺は『ステータス操作』とガーネットの『剣聖』の職業について、ぼかしながらサロメさんに事情を話した。


『うーん、それはティムさん。深く考えすぎではないでしょうか?』


「……考えすぎてますかね?」


『それはもう。こういうと何ですけど、面倒臭い人ですよ、ティムさんって』


「……すみません」


 日頃からお世話になってはいたが、まさかそんな風に思われているとは考えもしなかった。


『私は冒険者がパーティーを組む以上、同じ実力を持つ相手が良いと考えています。どちらか一方に負担を押し付ける関係は歪ですから』


 それは確かにその通りだろう。実際ガーネットは実力が足りず、最後には恋人関係を迫られ、男に不審感を抱きパーティーを抜けたのだ。


『その点、ティムさんの話だと、ガーネットさんとは役割分担もできていて相性も良い。私からするとなぜ組もうとしないのかわからないです』


 俺とガーネットとの関係をすべて知っているわけではないのでそう言う反応にもなる。


『とにかくですよ、ティムさん。一度、ガーネットさんと話をするべきです。一方的に断られたら断られた方も辛いんですからね』


「そう……ですね」


 サロメさんの言葉に俺は頷くと、通信を終えるのだった。


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