第80話 リザードウォーリア
「ティム先輩、寂しいです」
伯爵夫人に条件を出されたので、闘技大会までの間、俺は早速ダンジョンへ籠ろうと考えた。
「俺の力は誰よりも知っているはずだろ? 大会が終わるまでは実家でゆっくりしていればいい」
闘技大会が終わるまで、彼女は実家に滞在するように言われたのでしばしのお別れだ。
「きっと、迎えに来てくれると信じております」
伯爵夫人に二人きりで話をさせて欲しいと部屋を用意してもらったのだが……。
「うん、とりあえずアイテムボックスを開いてくれ」
「……はい」
両手を広げて固まっているガーネットに俺は頼んだ。
「俺の方で持っている貴重なアイテムをガーネットにあずかっておいて欲しいんだ。市場に流すと値崩れを起こしかねないからな」
先程、パセラ伯爵と伯爵夫人に贈った宝石とワインだが、実は俺もいくつか保有している。
それと言うのも、希少モンスターとの遭遇には『運』が関係しているようで、普通に狩りをしていたらそこそこの数と遭遇したからだ。
その上、俺の手持ちスキルには『アイテムドロップ率増加レベル5』のスキルがある。
このスキルは文字通り、モンスターを倒した際にアイテムを落とす確率が高くなるのだ。
『指定スキル効果倍』とも併用しているため、10匹に1回ドロップされるので、さほど強くない希少モンスターのレアは俺にとって狙いどころだった。
ガーネットはこの二週間の間に商人レベルを25まで上げて『アイテムボックスレベル1』を取得し、現在は見習い冒険者に職業を変更して、レベル26まで成長している。
そのお蔭でアイテムを保管する余裕があるので、別れる前にこちらのアイテムボックスを空けておきたかったのだ。
「レベル上げが中途半端になってるからな、面倒ごとはとっとと片付けて冒険に戻らないと……」
俺は改めて彼女のステータスを見た。
名 前:ガーネット
年 齢:15
職 業:見習い冒険者レベル26
筋 力:311
敏捷度:214
体 力:212
魔 力:28
精神力:30
器用さ:100
運 :140
ステータスポイント:0
スキルポイント:48
取得ユニークスキル:無し
取得スキル:『アイスアローレベル1』『ヒーリングレベル1』『オーラレベル6』『取得経験値増加レベル5』『取得スキルポイント増加レベル5』『取得ステータスポイント増加レベル5』『アイテムボックスレベル1』
強さだけなら前衛として申し分がない。
『オーラレベル6』まで上げており、使った時の強さはすさまじいの一言だ。
これでまだ『剣聖』を上げていないというのだから、見習い冒険者レベル30まで上げて本格的に育成をしたらどうなってしまうのか……。
「ティム先輩?」
じっと見ていると彼女が首を傾げた。
「いや、何でもない……」
彼女が成長していく未来を考えると、少しだけ寂しい気分になるのだった。
「さて、ガーネットに負けないように俺も頑張らないとな……」
翌日になり、俺は一人でダンジョンに向かう。
住んでいた街では途中で妨害が入ってしまったので育成が止まってしまっていたので、ここらで『戦士』をそろそろ40まで上げておきたい。
俺は自身のステータスを確認する。
現在の戦士レベルは38。
敵の襲撃を警戒して『取得系』を付けられる期間が少なかったのもあるが、ガーネットの育成に専念していた。
伯爵夫人から言質を取ったので、ここから先は襲撃はないと判断しても良い。
闘技大会当日にはスキルを万全にしなければならないことを考えると、効率よくレベル上げできるのは1週間足らずだ。
思っているよりも時間が少ないこともあって、俺は急ぎ足でダンジョンへと入っていった。
「シャアアアアア!」
叫び声を上げながら振るってくる剣を見切って反撃を加える。
現在、俺が戦っているのは『リザードウォーリア』。竜種系ダンジョンの三層に湧くモンスターだ。
「シャアッ!」
「おっと……」
結構な深手を与えたのだが尻尾で反撃してきた。
俺は右手をかざすと……。
「ちっ!」
とっさに持ち替えた剣を右手で握り直しリザードウォーリアへと肉薄する。
右上から左下に向けて振り下ろすと、
「ジャアアアアアアアアアァァァァァァ!」
敵を真っ二つに切り裂いた。
「ふぅ、流石に装備が整っている竜種系モンスターの相手は骨が折れる」
ダンジョンの中でも竜種系は難易度が高い。
リザードウォーリアははただでさえ強固な鱗に覆われているのに金属鎧と剣まで身に着けているのだ。
「それでも、対人経験を随分と積ませてもらったから身にはなっている」
闘技大会はあくまで剣の腕前を競うものなので、魔法による攻撃は禁止だ。
その条件があるので今の内に慣れておこうと考えたのだが、どうにも癖になっているようで咄嗟に魔法を撃とうとしてしまった。
だが、リザードウォーリアの強さはCランク相当。武器だけで戦う条件付きならBランク並だろう。
騎士ともなると最低でも冒険者Bランク以上の剣技は身に着けているだろう。
今の職業でここまでやれるのなら問題はないはずだ。
この竜種系ダンジョンの三層は層こそ浅いが、元の街のダンジョンで言えば七層クラスの難易度になる。
「闘技大会まであと4日ある。そろそろスキルの準備やら揃えて行かないとな」
久しぶりに密度の濃い一週間を過ごした俺は、闘技大会に向けてスキルを組み直していくのだった。
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