第78話 パセラ伯爵家訪問
「おめでとうございます。ガーネット様はDランク冒険者になりました」
ガーネットが冒険者カードを受け取った。
「ティム先輩。やりましたっ!」
彼女は嬉しそうに自分の冒険者カードを俺に見せてきた。
一緒にダンジョンに潜るようになってから2週間。異例の速さでランクアップを果たした。
「おめでとう、よく頑張ったな」
彼女はパーティーを脱退させられた際に一度Fランクまで落ちていた。
それにも拘わらず、こうしてDランクに上がれたのにはからくりがある。
ダンジョンで収集したドロップアイテムを彼女の名義で売っていたからだ。
実際、半分は俺が得ていたものなのだが、今のところ王都で冒険者ランクを上げるつもりはない。
それに、ガーネットの今の実力は前衛として見てもユーゴさんとそう変わらない。それどころか一部のステータスは上をいっている。
つまり、彼女はDランク冒険者を名乗る資格が十分にあった。
下手にレベルが上がってなかった分『取得系スキル』をきっちり取得してから成長させているので、ステータスを振りやすかったというのも大きいだろう。
「……そういえば」
ふと俺は思い出す。ユーゴさんたちもステータスポイントとスキルポイントを余らせていたことに。
今回、彼らにも本当に世話になっていた。知る人が増えるとどうしたって秘密が漏れてしまうので、すべてを打ち明けるわけにはいかないが「潜在能力を引き出せる」などと説明して彼らのステータスも伸ばすべきだろう。
街に戻ったら早速実行しようと考えていると……。
「それで、ティム先輩。次はどちらのダンジョンに行くおつもりでしょうか?」
段々とダンジョン探索が楽しくなってきたのか、ガーネットが次の予定を聞いてくる。
ゴブリンも殺せず、あたふたしていたのが嘘のようだ。
「いや、明日はダンジョンに潜るつもりはないぞ」
「えっ……?」
表情を固まらせるガーネットに俺は告げた。
「明日はガーネットの実家に行くつもりだからな」
目標は達成したのだ。俺はいよいよ元凶の下へと乗り込むことにした。
目の前には格子で仕切られた高い壁が存在している。
ガーネットの生家で、王都でも屈指の名門パセラ伯爵家の屋敷である。
隣を見るとガーネットが普段の冒険者装備と違って貴族令嬢が来ているようなドレスを身に着けている。
昨日、予定を告げたところ慌てて洋服店に連れていかれ、コーディネートしていたものだ。
「どうして、俺までこんな格好をさせられるんだか……」
彼女は自分の服だけではなく、俺にまでちゃんとした格好を求めてきた。
お蔭で今日の俺は、これまで着たことがないような礼装を身に着けている。
「すー、はぁー……うぅ。緊張します」
肝心のガーネットは顔色が格子越しに見える屋敷を見ている。
「どうしてガーネットが緊張しているんだよ?」
実家に帰って両親に会うだけだろう。俺よりも硬くなる意味がわからない。
「で、では、ティム先輩。今日はよろしくお願いいたします」
そう言って彼女は俺の手を取ると、守衛の下へと歩き始めた。
あれから、何の問題もなく屋敷に通された俺たちは、豪華な部屋へと案内された。
一目で高価とわかる調度品に絵画に家具などが置かれている。
このような場所に縁がない俺は周囲を興味深く見ているのだが、ガーネットは膝に視線を落とし固まったままだった。
――コンコンコン――
ノックの音がして二人の人物が入ってくる。
一人は白髭を生やした中年の男で、もう一人はドレスを身に着けた女性。
二人が向かいの席に座ると、ガーネットの身体がより強張るのが見えた。
「ようやく……戻ってきたな。ガーネット」
「お、お父様もお変わりないようで……」
表情を変えることなくガーネットを見る。どうやらこの二人が彼女の両親らしい。
「まあよい。これで縁談を進めることができる。今日はゆっくり休んで、明日からは嫁ぎ先で恥にならないように作法を学ぶのだ」
「い、いえっ……! その、お父様……」
要件のみを告げて立ち上がった。俺はその態度に段々イライラしてきた。
「まだ何かあるのか?」
不機嫌を隠そうともしないその態度に……。
「あるに決まっているでしょう」
「せ、先輩っ!?」
ガーネットがこちらを向いた。
「ガーネット、こいつは一体誰なんだ?」
パセラ伯爵は俺を指差すと大声を出した。俺はふと引っかかりを覚える。
「ガーネットとパーティーを組んでいる冒険者のティムです。御存知ないのですか……?」
「この私がたかが冒険者のことなど知るわけがあるかっ!」
演技には見えない。本当に知らないらしい。
「久しぶりに帰ってきた実の娘に対し、労いの言葉1つおかけにならないのですか?」
これまでずっとこのような不当な扱いを受けてきたのだろう。彼女の変わりにパセラ伯爵に文句を言う。
「貴様……たかが冒険者の分際で、人の家庭に文句をつけると言うのか?」
確かに、たかが冒険者という立場でなら口を挟む権利はない。だが、俺はこの件で一度殺されかけているのだ。黙る理由がない。
「彼女は俺の大切な冒険仲間です」
「ティム先輩……」
ガーネットが潤んだ瞳を俺に向けてくる。この様子なら平気だろう。
「まずは彼女の意見を聞いてください」
俺がパセラ伯爵にふたたび着席することを求めると、彼はソファーに座り俺を睨み付けてきた。
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